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盾を離した。腰のスカート?を外し兜を脱いだ。
空気が気持ちよく肺に入ってくる。
ずいぶん軽い。鎧は重いけど、さっきよりは
動きやすい。
これが案。
相手の動きが緩慢だから避けよう。これなら衝撃も
受けなくてすむ。
ただ、もらったら死・・・。
鎧を着けているのに、まるで裸になったような
不安さ。
近づいた相手に恐怖が増し、やっぱり盾だけでも
拾おうかと迷い、伸ばしかけた手に剣が突かれる。
「ですよねぇ・・・」
あっさり考え直しを却下された。
もう、腹を決めるしかない。
悩む間も無く、相手が横に剣を払ってきた。
一歩、二歩下がる。振りに反応出来た!
剣の通過を見定め、声を上げ飛び込む。
見えるのは相手の背中。攻撃したくても鎧部分しか
見当たらない。
・・・背中?
ぞくっとする感覚。やばい気がする!
思った瞬間、避けたはずの剣が
また同じ方向から払われてきたのに気付いた。
避けられない!
咄嗟に切りかかろうとした剣を縦に構え
受けようとしたが、勢いのついた大剣を
受け止めるにはあまりに細く、真っ二つに折れた。
勢いの殺しきれない大剣は、ゴシャ!という
鈍い音と共に胸板に叩きつけられ、後ろに
吹き飛ばされる。
「がはぁ」
ものすごい衝撃。息が出来ない!
衝撃の痛みだけじゃない激痛が身体を走る。
必死に空気を吸う。痛みで動こうとしない胸に
無理やり吸い込ませる。
痛みも何も堪え、相手を探す。飛ばされた分、まだ
距離がある。
胸板に手をやると、完全に凹んでいる。
「なんて衝撃だよ・・・んぎぃ」
言葉を出したとたん、胸に激痛。
肋骨折れたかも・・・
とにかく立ち上がらないと。鎧が重い。
体力の限界と痛みで、重い鎧がさらに重く感じる。
半分に短くなった剣を杖代わりに、何とか
立ち上がった途端、相手の横殴りの剣が飛んでくる。
ぎりぎり二歩下がりきり避ける。でも飛び込めない。
「さっき、何があった?さっきは背中を見た。
今は背中を見てない。・・・一周回った?」
相手が飛び込んできたら、ハンマー投げみたいな要領で
一周回ってもう一度切りつけてくるようだ。
かといって全身鎧だらけの格好、背中をむけた時に
一撃入れても、お構いなく回ってきそうだ。
逆に、その位置に居させるためにわざと背中を
向けている気もする。
また同じ攻撃。もう一度下がる。
考えろ。どうする?
「・・・何も思い浮かばない、頭が回転しない
落ち着け!」
相手の振りに対して下がるを繰り返す。とにかく
考える時間が欲しい。
一歩二歩動くだけで、鎧の重さと痛みで体力が
奪われていく。
「くっそ、この鎧重すぎ。・・・ん?まてよ?」
一つだけ浮かんだ案。と同時に背中に
何かがぶつかった。
壁
「しまった!」
いつの間にか壁まで追い込まれていた。
追い詰めたとばかりに近づく相手。相手の息遣いまで
聞こえてくる。
荒れた息遣い。あれだけ重い剣を振り回して
いたんだから当然か。
相手も疲れている。どっちにしろ後ろは無い。
やるしかないな・・・。
相手が止めとばかりに剣を払ってきた。
高さを見極めろ・・・今だ!
剣が来る直前しゃがみこむ。頭の上をものすごい唸り音が通過した。
寒気が走るが構ってられない。雄叫びをあげ
そのまま一歩二歩前進。
やっぱりもう一撃と背中を向けた。
ここだ!
相手のひざ裏めがけ、鎧の重さを利用して
倒れこむようにぶつかる。ちょうどヒザカックンの
状態になり、相手がもんどりうって重々しく
倒れこんだ。
「やった!」
痛みと疲労の身体に鞭打ち起き上がる。
相手は鎧の重さと疲労のせいか、なかなか
起き上がれずにもがいていた。
見えるのはひざ裏の鎧の隙間。
「うああああああ!」
勝手に張りあがった声と共に、さっきの折れて
半分になった剣を、力の限りにそこに差し込む。
肉と骨の嫌な感触。
声にならないわめき声。だけど、刺さった剣も
抜けないほど、鎧の身動きが取りづらいらしい。
悲鳴と絶叫のような声を上げ、何とか剣を抜こうと
もがいている相手を見ながら、ゆっくり
立ち上がった。
ガァーン、ガァーン、ガァーン。
勝敗を決した知らせの鐘。
「終わった・・・」
ものすごい安堵が、全身を襲う。
響きだす観客のコール。殺せと背中を押す。
その声にパシムの言葉を思い出す。
殺さないといけないのか?
響く罵声。早くしろとせかす声。
ものすごい音量の罵声が全身を襲う。
これが全員敵になる?
上の人間がもっと強い相手を選ぶ?
・・・殺さないと・・・。
強迫観念がさらに背中を押した。一歩二歩相手に
歩み寄る。
相手が使っていた大剣が転がっている・・・。
苦しみもがく相手の首が見えた。
また、甦る肉と骨の感触。
そして、大剣で相手の首を落とす自分が脳裏に浮かぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁっ」
頭を抱え、罵声が聞こえないように耳を塞ぎ、出口に
向かって走り出した。
出口をくぐっても聞こえる罵声。
臆病者!何しに来たんだ!次は死ね!
いろんな罵声が聞こえてくる。早く
遠ざかりたかった。
ジュンの2戦目、一気に抜けたかったので一日で3話出しました。
リアルの仕事の忙しさもあり、次回更新数日かかったらすみません・・・
気長に待ってもらえると助かります。