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セジア=ラスティアナ王国
人は傭兵王国セジアと呼ぶ。
広大な大陸アリアシスの、東方にあるこの国は
アリアシス大陸主王都ラスティアを守護するように
作られた国。
初代国王が傭兵上がりであり、ラスティアを
守り続けるために傭兵を奨励し、まとめ続け
今の国の形になる。
力を誇示したいものは、セジアに行ってから
ものを語れ。
セジアほど剣一つで成り上がれる国は
この大陸には無い。
それが分かっているだけに、より屈強の者たちが
集まる。
夢を勝ち取るもの。敗れ死に逝くもの。多くの
闘士たちの血と肉により、この国は近郊に類を見ない
強さを誇っていた。
初代セジア王の武勇を誇り、目標としてこの国で
名を上げようという男たちは、一つの称号を目指す。
セジアの聖剣士。
その言葉一つで万人の部隊は下がるという。
初代セジア王を含め、その称号を得たものは8人。
500年以上続くセジア王国、多くの血肉の中から
現われた者は、まだほんの一握り。
その称号の持つ重さがいかほどのものか、大陸で
知らぬものは居ない。
その重さを知り、求める闘士たち。
お互いを斬り合い、殺しあうその者たちにとって
死は、ただの負けではない。
自分を破った者への敬意、自分の血肉は相手をさらに
高みへと導くための礎になると信じている。
「お前はそれを踏みにじったんだ。」
パシムの言葉が珍しく説得力を帯びていた。
戦いの次の日。
少しだけ落ち着きが戻ってきた俺が、何度も何度も
話しかけてきていたパシムに、昨日のいきさつを
話した。
「死ぬのが敬意?んなばかな。」
「そういう国なんだよ。ここは。なんて脅して
言ってみたが、そう思ってるのは勝ち残っていった
闘士くらいで、俺たち下っ端はそんな考え
持ってない奴も多いぜ?」
「じゃぁ相手を殺さなくても平気なのか?」
「いや、だからと言って殺さなくて平気って
わけじゃねぇ。
ジュン。お前も押されてきたろ?観客の声に。」
「あ・・・」
「そうだよ、少なくとも観客、それにここの上の
人間は、そういう戦いを望んでる。
そうして戦い抜いてきたから、闘士はみんな
そうなっていくんだ。」
「観客なんて、戦うこっちには関係ないじゃん」
「そういうわけにもいかねぇんだ。お前がそういう
戦い方を続けたら、観客は全員お前の負けを
望みだすだろう。
奴らの野次の強さは半端じゃねぇぞ?それに
上の人間だって、良いように思うはずがない。
強い対戦相手を考慮されちまうかもしれねぇ。」
「そんな・・・」
「まぁ、根本的に向こうが殺しに来るのにこっちは
殺さずに終わらすなんて、ずっと続けられるもんじゃ
ねぇしな。」
そうだ。全力で殺しにくる相手に手を抜いて
戦うようなもんだ。
俺が出来るような芸当じゃないだろう。
だけど・・・
「心配しなくても、一度殺したら慣れちまうよ。」
その日はずっと考え続けていた。
何か良い方法はないのか・・・殺されたくない。
でも殺したくない。
自分がそれだけ強ければ、相手を殺さず、観客も
気にせず終わることが可能なのかもしれないけど
残念ながら、そんな簡単に強くなれるもんじゃない。
だけど、なんとかならないか。他に方法は・・・
結局、何も浮かばなかった。
ただ、間違いないのは自分が生き残りたいという事。
そのためにしなきゃならないことは分かっていた。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
「何やってんだ?ジュン」
「筋トレ」
「キントレ?なんだ?それ」
「何でもない、気にしないでくれ。生き残るための
ことをやってるだけだから。」
「そうか。がんばれよ!」
少々拍子抜けな応援。でも頑張らないと。
幸い、呼ばれなければ丸一日何もすることはない。
武器や防具を使うための筋力をつけないと。
戦う方法なんて、漫画とかの知識くらいしか
知らないけど、何かしら行動を起こさないと
次は殺される。きっとそれは間違いない。
ならば、あがくだけあがかないと。
生きて帰るために。
何も無く、絶望だけを感じていた状態から
目標らしきものとすべき事がはっきりした今
少しだけ気持ちが前向きになり始めていた。