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武器と防具が並ぶ。色々な種類の武器防具。
一対一はどれを使ってもいいという。
とはいえ、武器なんてどれを使ったらいいのかなんて
分からない。
一番スタンダードな剣を取り上げた。一番頑丈そうな
防具を選び、着けてもらう。
重い、ものすごく重い!
映画じゃみんな軽々と着てるのにと思いつつ
切られたくない不安から、軽そうなものにも
換えられなかった。
それに兜と盾。なんだか、七五三の時に着せられた
タキシードを思い浮かべ、着せられてる感でまくり
だろうな、などと場違いな事を考えていた。
重い鎧に苦労して歩きつつ、案内人について進むと
あの広場の入り口が見えてきた。
あの乱闘の不安感に、潰されそうになる。
不安が顔を出すたびに、まだ顔も知らない
友人、パシムの言葉を思い出し、身体と心を
無理やりにでも前に出す。
俺の前には一人、待つ人がいた。
俺の前に戦う人らしい。
前の人が戦っているのを見れるのが、唯一の情報。
それと、前の人が戦う前に、前の人に対して
祝福をするらしい。パシムの受け売りだ。
パシムから聞いていた通りに、首を下げる相手の肩に
剣の柄を添え
「あなたに、戦女神の祝福のあらんことを」
前の人の戦いを見る。
もっと長い戦いになるものかと思っていたが
20分?程で決着が見えそうになっていた。
自分の祝福した相手が、負けそうになっている。
あまり良い気分はしないな。
何もこの国のことを知らない俺が、祝福まがいな事を
したから負けてしまうんじゃないか・・・などと
申し訳なく思ってしまう。
片腕が飛んだ。
血飛沫が舞い、身動き取れなくなった相手に
剣を突きつけ、勝敗が決着した。
まるで映画でも見ているような現実感の無さ・・・。
どうっと声が響く。観客?観客がいる?
観客の声が響く。
「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ」
何を言っている?決着ついてるだろう?
声に押され、突きつけた剣で首を飛ばした・・・。
信じられない光景。完全に負けを認めていた相手に
止めを刺す。
「行ってみれば分かるよ。」
パシムの言葉が思い出された。
これじゃ気絶も出来ない。負けたら死・・・。
祝福を促された。きっと青ざめた顔をした俺に
祝福はしづらいだろう。
何も考えられず、促されるまま広場に出た。
読み上げられた名前、沸き起こる歓声。
全て遠くの方で聞こえる気がする。
対峙する相手。
何もかも他人事のような感覚。
ここまで来て、現実感を持たない、逃げた感覚。
観客の声が頭の中にこだまする。
ガァーン
始まりの鐘の音が、ものすごくすっきりと
頭の中に響いた。
正面に剣を構える相手がいる。
今にも殺さんとする形相。必死さが伝わってくる。
目の前に突き出されている剣に、瞬間、刺される
想像がよぎる・・・。
負けられない、生きたい。
始まる前に消えかけていた感情が湧き戻ってきた。
心臓が爆発しそうなほど動き始め、剣を握り締める
手に力を込める。
10秒?1分?10分?長く感じる時間の中
キィーンと耳鳴りのような音の中に、自分の荒い
息遣いだけが、兜の中に響いている。
相手が剣を振り上げ、斬りつけてきた。
避けられそうな動き。
身を横に・・・鎧の重さで素早く動けない!
とっさに盾を持ち上げた。
盾でガンッと止める、はずが剣の重さに相手の力が
加わり想像以上に重い!
勢いを殺しきれず、頭に軽く衝撃が走る。
兜かぶってなかったら殺されてた・・・。
初めての殺し合い。
全てが自分の想像を遥かに超えていく。
相手が、俺のことを弱いと悟ったのか、勢いづいて
二撃目を繰り出す。
横に掃ってきた剣を、今度はもっと力を込め
受け止める。
そのまま三撃、四撃・・・受け止めっぱなしだ。
そのたびに、あらん力を込めて受け止めるから
それだけで疲れてくる。このままじゃまずい。
振り疲れ?少し間があいた!
初めて剣を振りかぶり一撃目!
簡単に横にかわされた。剣の重さによろけ、地面を
叩く。その横に相手・・・。
隙だらけの脇腹に剣が入る。
鈍い金属音と共に、衝撃が脇腹に響く。
幸い鎧の上だったが、衝撃でむせ返りへたり込む。
その後ろから、剣を振り下ろされ肩に物凄い衝撃。
「がぁ・・・」
声にならない声が兜の中に響く。腰から上の上半身は
腕以外、皮膚が露出しているところは殆んどないから
安心していたけど、衝撃がこんなにきついなんて。
痛みを堪え、振り向く。
また振り上げられていた剣。
「うわぁ!」
横っ飛びに転がった。正確には、飛ぼうと思ったが
鎧の重さで転がる形になった。
目標を失って、地面を叩いている相手を見据えて
立ち上がる。
膝が笑ってる・・・力が思うように入らない・・・。
嘲笑と野次が耳に入ってきた。膝震わしながら
へっぴり腰になってる俺を、観客が
嘲笑っているらしい。
「うあーーー!」
腹の底から声を出し剣を振り上げ、相手に向かって
叩きおろす。
横にかわされた。勢いを止められない。
さっき同じ事されたばっかじゃねぇか!
だが、さっきと違い膝に力が入らず、四つん這いに
膝をついた。
背中に走る悪寒!さっきの肩の衝撃が思い起こされる。
「わぁ!」
地面についていた剣を、闇雲に後ろに振った。
ガス!
手に響く初めての感触。肉と骨の感触。
油断して不用意に近づいた相手の足首を、剣が抉った。
相手の絶叫。足首がぷらぷらと皮一枚で
繋がっている・・・。
悪寒と吐き気が襲ってきた。何度も頭の中で
感触が甦る。
足首を押さえ、叫び続ける相手を吐き気と戦いながら
眺めていた。
ガァーン、ガァーン、ガァーン。
勝敗を決した鐘の音が響いた。
「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ・・・」
え?
戦闘不能?勝ったのか?俺。
え?・・・殺す?
観客の止めを求める声が響く。
殺す?
さっきの感触が頭に、手に、身体全体に甦ってくる。
殺されないようにばかり考えていた。
負けないようにするには、上手に負けるにはと
そればかり考えていた。
勝てば殺す側・・・想像もしていなかった。
相手の背中が見える。相手の首が見える。
頭が人を殺す想像をした途端、全身から嫌な汗が
噴出してきた。
歓声が罵声に変わる。早くしろとせかす。背中を押す。
だけど、身体が、頭が受け付けない。
痺れて何も考えられない。
うずくまる相手に背を向け、逃げるように
走り出した。
頭の中が痺れてる。
何も、何も考えられない。
あれから、止めを刺さずに逃げてきた俺に
これといった咎めは無かった。
パシムの声が遠くに聞こえる。
状況を教えろという質問に答えられたのは
次の日になった。