第1章 1
ギィン
重い金属音のような音が頭の中に響く・・・
頭が割れたのかな・・・ん?意識はある?
頭の中ではなく、耳からその音が聞こえたことに
2度目の金属音で気付く。
自分が生きている事に気付き、反射的に上半身を
起こした。
いきなり目に入ったもの。人が倒れている。
・・・死体??まさかね。
あちこちから聞こえる金属音。
目線をあげると・・・何?何が起きている?
大勢の人間が、剣を持ち戦っている。
何?なんだここ?・・・地獄??やっぱり死んだ??
目の前で斬り合う二人をボーっと眺めて
ああ、夢か・・・と、思い始めていた。
プシャ
顔に生臭いものがかかった。夢にしてはずいぶん
リアルな温かさと匂い。
ボーっとしていた意識が戻り始めた。
目の前の男の背中から、剣先が顔を出している。
顔にかかったものを拭ってみると、真っ赤な
血液・・・。
「うわーーー!!
え、なにこれ何?本物?夢じゃないの?」
突き貫いた剣を引き抜いた男が、こちらに
気付いた・・・。
「こんなところで死んだふりか。」
真っ赤な血に染まった剣を握り締め、こちらに
近づいてくる。
つられて座ったまま後ずさる。
手に何かが当たった。先ほど見かけた死体。
本物なのか、これ。
その脇には使っていた剣。思わず握り締めた。男が
薄笑いを浮かべながら、剣を振り上げる。
戦う?・・・無理だろー!
思い切り足に力を込め走り出す。
男が剣を振り下ろしたときに、肩に切っ先が掠めた。
「いてーー!!夢じゃないの?これ?」
壁際を全力で逃げだした。男が追ってくる。
逃げ出して改めて気付く死体の山。あちこちの乱闘。
「どうなってる?どうなってる?」
状況を理解しようにもそれどころじゃない。
目の前に一組の乱闘!通れない!
後ろを振り返ると、すぐそこにさっきの男。
「逃げ道、逃げ道!」
壁際から離れ走り出す。乱闘にまぎれて逃げよう。
走りながらあたりを見渡すと、ここが円形の広場で
周りはすべて高い壁に囲まれてることに気付いた。
「逃げ場がない・・・。」
絶望に捕らわれ、走りが緩んだ瞬間、背中に
鈍痛が走った。
「ちっ」
切っ先のみの感触に舌打ちする男。
幸い足を止めなかったおかげ?で、直撃を食らわずに
すんだらしい。
が、痛い!ものすごく痛い!
声にならない声が漏れる。
のたうちまわってる場合じゃない、けど身体が
勝手にもがく!
逃げ場が無い・・・殺されるの?俺。
痛みと戦いながら男と正対。剣をぎゅっと握り締める。
あらためて見ると、2mはあるんじゃないかって
筋肉隆々の大男。
「勝てるわけ無いじゃん、こんなの・・・」
男が剣を横に薙いできた。
剣を縦にして受け止めたが、そのまま吹き飛ばされた。
地面に転がる。背中をしたたか打ち、激痛と衝撃に
むせ返った。
「やばい!」
ぞっとする感触。と共に顔を上げると剣を
振り上げている男。
間に合わない・・・そう思った瞬間、男の胸から
剣先が突き出た。
鮮血が体中にかかる。
剣が引き抜かれると同時、そのまま力無くし
しゃがみこむように倒れる男の後ろから現れる
別の男。
助けてくれた?
現実は甘くなく、隙だらけの男の背中を突いただけ。
あっさり俺のヒーロー感は覆された。
その男が新たにこっちに向かってくる。
「またかよー!」
絶望が心によぎったその時
ガァーーーンガァーーーンガァーーーン
大きな鐘の音が響き渡る。全員が動きを止めた。
「何?今度は?」
鐘の鳴るほうを見上げると、大きな建物があることに
今、気付いた。
「それまで!諸君らが生き残りだ!五体満足で
生き残った者は、案内についていき各自の部屋で
待機!」
大声で言われた言葉は、何のことかさっぱり
分からない。
が、あれだけ乱闘していた男たちが、壁に2か所ある
格子から出てきた案内人?と思われる人物に
おとなしくついていく。
何が起こってるか分からない。でも、ついていけばとりあえずこの広場から出られる。
俺の選択肢は、ついていく、しか無かった。
廊下に何人もの、ローブっていうのかな?
を着た人がいる。
ローブを着た案内人であろう人物に、大勢の男たちは
振り分けられ俺も一人の案内人についていくよう
促された。
隙をみて逃げ出そうと思っていたのに、建物の中は
迷路のように入り組み、全然方向も分からない。
全員、剣は広場に置いてきたが、広場で戦っていた
男たちも何人かついてきている。
逃げられそうもない・・・
諦めてついていくことにした。
どれほど歩いたか、一つの扉に入るように促される。
扉に入ると正面に廊下が伸び、廊下の右手前と右奥に
また扉が二つ。
その奥の扉に入るよう促され、入ると殺風景な部屋。
後ろで扉が閉まり、鍵がかかる音。
「あ!」
と思ったときには、部屋に閉じ込められてた・・・。
「逃げられるチャンスだと思ってたのに・・・。」
よく見ると、扉には顔の高さに野球ボール程の
大きさの小窓はあるが、覗き見える程度。
唯一ある窓には鉄格子。
どうやら牢屋?みたいなようだ。
簡易のトイレらしきものと、水道?と水ため。
それと寝台とテーブルはある。
それ以外は飾り気もなく、壁も床も石壁が
露出している。
音が何も無くなり、どっと疲れと背中の痛みが
襲ってきた。
いろいろ考えたい事が多いはずなのに・・・
気絶するように、意識が途絶えた。