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王城敷地内
本城からすぐ近くにある建物。
3階建てで、それなりの大きさがある。
ここは使用人の住み込み用の建物。
朝早くから大勢の人間が、せわしなく動いている。
王城内の仕事の為、明け方早くから準備するのだ。
使用人の仕事は王城内の清掃
闘士たちの食事や洗濯、案内人も務める。
その建物内の調理場に、自分と同じくらいの
大きさの寸胴鍋の前で調理をする
アシャの姿があった。
昨日、ジュン様を寝台に寝かし治療部屋を出たあと
やはり心配で部屋の前で待ってました。
しばらくしても中々出てこないので・・・
ちょっと聞き耳を立ててしまいました。
そこは謝ります。ごめんなさい。
聞こえてくるのはジュン様と女の声。
きっとさっきの修道士だ。
はっきりとは聞こえないけれど
何やら教えている?みたい。
「あの修道士、何者なんだろ。
ただ、私が女と分かった時のあの反応・・・。」
手に持っていた、スープの出汁にする為の動物の骨。
そこそこ太さがある骨がメキメキと音を立て
バキン!と真っ二つになる。アシャの細腕からは考えられない力。
そのまま寸胴鍋の中に落とした。
「絶対、ジュン様を狙っている気がする!
でも、部屋を出てきたジュン様も何をされていたのか
教えてくれなかった。ただ、身体を動かしていたということは
治療した後なのに汗をかいていたから分かったけど。
聞こえた話からすると剣技を教えてたのかな。だとしたら・・・
ジュン様のためになることなら、追求したくない。
けどあんな何者かも分からないポッと出の修道士なんかに
ジュン様と仲良くされるのもなんだか・・・。」
アシャは城内の使用人の仕事一つの、闘士たちの食事の準備を
こなしながら、ぶつぶつ呟く。
仲間の使用人の女の子が
「アシャ、どうしたの?なんか怖いよ?」
と話しかけるも呟くのを止めない。
でも、目にも止まらぬ速さで包丁を動かし
仕事も素早くこなすから、無理に引き止められない。
仲間の使用人は
うん、これは、見守ろう
と話しかけるのをやめた。
修道士さんに教わった日から数日間。
ひたすらあの動きを思い浮かべ、身体でなぞる。
手足の動かしかた、身体の向き、姿勢、方向転換の足捌き。
ひたすらに、寝る間も惜しんで身体に馴染ませる。
もちろん、筋トレも打ち込みも続けてるが
初めて正解の動きを貰えたんだ。
とにかく、あの日の修道士さんの動きを完コピする!
同じように出来てるように思えてもぎこちない。
もっとスムーズに、もっと滑らかに流れるように。
小学生の頃、ミニバス時代に初めて本格的なドリブルを教わった時の
暗くなっても続けてた自分を思い出しながら、もっと細かく足の向き
手の向き身体の角度と合わせたくなる。
「ローブで細かい部分が見えないのが悔しい。」
足りない所はイメージで補おうとするけど、どうしてもズレる。
見たい。でも無い情報は考えても仕方ないので
今あるイメージをとにかく重ねる事に集中した。
ここに来て初めて、熱中して覚えることの楽しさを思い出しながら
今日もまた夜中まで、ひたすらに身体を動かした。