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「さて、うちの腕の良い修道士が治療を終えました。
この後、修道士からお話があるそうです。
長くなりそうなので、私は戻りますね。」
「え!ここに居てくれないの?」
「私も忙しいですから。
それに、私がここに居ても何も出来ないでしょう?」
それだけを言うと、向こうの扉から出て行った。
残された修道士さんは、少しオロオロしたが
一息付いて、意を決したようにこちらを振り向き
「私は、剣技にも少しですが精通してます。
・・・もし、あなたに話を聞く意思があるのであれば
助言しても良いのですが・・・。」
何も反応ない。
やはりいきなりでこんな格好の、しかも女からの話なんて
聞いてもらえないのかな・・・。
「え?え、ええー!いいの?良いんですか?!
すごい、すごく助かります!!よろしくお願いします!」
俺は彼女からの提案に一瞬呆気にとられた。
どうしたらいいか悩んでた先から、こんな良い話が出てくるなんて!
「え、あ、はい。でも私から言い出した話で何ですが
こんな、よく分からないような私からの助言でも良いのですか?
「こんななんてとんでもない!ぜひ教えて下さい!」
この世界で剣技してる人なら、間違いなく俺より強い。
こんな所で教われるチャンスが来るなんて。
目を輝かせて見つめる俺を見て
「思ってた通りの方で良かった。」
微笑み呟くシンシア。
「分かりました。
では、時間も少ないので早速始めましょう。立って下さい。
剣はありませんが、片手剣であれば手を手刀の形にして教えられます。
あくまでも剣は手の延長なので。」
と、手刀で正対する。
「先程のジュン殿の相手。
あれは、セジア正統剣術になります。
おそらく、騎士団に入りある程度覚え、自信が付き
闘技に出たのでしょう。闘士になってから騎士団に戻れば
最低でも小隊長位になれるので。
なので、これから先同じような考えで、セジア剣術を使う相手も
増えてくると思います。
なので、私も剣術を教えます。
教えてすぐ出来るものではないですが、知る事から始めましょう。」
と、先程の相手の動き、捌き方、基本的な動作などを教えてくれた。
1時間以上はかけてくれたかな?
教えてくれる彼女の動きは、とてもスムーズで滑らか。
無駄の無い動きをする。
こんな動き方が出来たらと、一挙一動を目に焼き付ける。
「そういえば、先程の戦いお見事でした!
踏み込みの足を変える事で、右の死角を通過する相手に
足を合わせるなんて事を、咄嗟に考えるなんて素晴らしいです!」
いきなり弾けたように彼女が話す。
闘いを褒められるなんて初めてな事で、すごい嬉しい!
照れて赤くなる顔を自覚しながら
「ありがとう。毎回毎回いつも必死で、戦いながらどうにかしないとって
考えてるんだ。でも、結果が出てるのは本当に偶然。
さっきのだって、この辺に足を上げればとは
思ったけど、それが1番良い結果になってくれた。
たまたまなんだよ。
でもそのおかげで何とか生き残れてるよ。」
「はい。いつも見てます。
頑張ってるジュン殿を。ジュン殿は偶然と
思うかもしれない。でも、それを行動しようと
思わなければ、その結果にもたどり着けない。
怖さに負けず立ち向かう・・・。
心の強さを尊敬します。」
言って、ちょっと照れた風なのがフード越しでも伝わった。
「今日教えられるのはここまでです。
あまり時間が無くてすみません。この事は他言無用にお願いします。
・・・また機会があれば来ても良いでしょうか?」
「分かりました。忙しいところ本当にありがとう。
またぜひお願いします!」
深く頭を下げて、部屋を出ようとする修道士さんを見送ろうとすると
俺の肩に手を添え
「ジュン殿に、戦女神の御加護がありますように。」
と言って部屋を出て行った。
治療部屋から出ると、案内人が待っていた。アシャかな?
案内人は周りに誰もいないか見回し、フードを外す。
「お疲れ様でした。・・・ずいぶん時間かかりましたね?
何されてたのですか?」
アシャだ。・・・なんか不機嫌?
他言無用と言われたので正直に話す事も出来ず
治療に時間かかったんだよって言い訳っぽく話す。
「・・・ふーん、そうですか。」
口を尖らす彼女が、信じてくれたか分からないが
そう言って部屋まで案内してくれた。