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闘技場出入り口には、案内人が待ってくれていた。
いつもだと案内人はこっちまで来ず
武具部屋の入り口辺りから遠目で闘技を伺い、自分の
受け持ちの人が負けるとそのまま戻る、って感じなのだけど。
俺の案内人も今までそうだった。
次戦う人も、訝しげに俺の案内人を見ている。
俺が出入り口に辿り着くと、すぐ肩を貸してくれた。
驚きとドギマギと混ざる俺。
小さな肩なのに、寄り掛からざるを得ないのが悔しい。
「ありがとう、案内人さん。」
「・・・アシャです。名前。」
「あ、ああ。ありがとう、アシャ。」
またフードを目深に被ってるので、表情は見えない。
案内人が名前を教えてくれるって普通の事なのかな?
パシムは普通に名前で呼び合ってるのかな。
何にしても、名前を教えてくれたのは嬉しい事だな。
武具部屋で装備を外す。
せっかくパシム以外で仲良くなれそうな人が現れたから
話したいのに、装備を外そうと動くたび訪れる
尋常じゃない足の痛みが、頭を会話に回してくれなかった。
「仕方がない事なのかもしれませんが・・・。」
アシャが外すのを手伝ってくれながら
ポツリと話し出した。
「今までずっとジュン様の闘いを見てきて、ジュン様が
そんなにお強い方ではない、と分かっているので
仕方ない事だと思うのですが。」
う、その通り過ぎて何も言えない。ごめんなさい。
「毎回毎回、こんな大怪我ばかりで・・・心配で堪りません!」
装備を外してる時、フードから少しだけ見えた顔は
大きな瞳に涙を溜め、今にも泣きそうな顔。
「ごめん、アシャ。」
顔を俯かせたアシャは、またフードで顔が見えなくなるが、
グスっと鼻をすすり首を振る。
「私こそごめんなさい。
ジュン様は頑張ってるのに、私が感情的になるのは筋違いでした。
強くなって、いつも生きて元気に帰ってきてください!」
と、最後は元気な声を出して背中を叩いてくれた。
もっともっと、強くなりたい。強く願った。
どうしたらいいのだろうか。
またアシャに肩を借り、治療部屋に向かう。
扉を開けるとローブを着た2人が、部屋の向こう側の扉の前に
立っていた。1人は見覚えのある白銀色のローブ。
フードは外してるので、顔も見え、見覚えある。司祭さんかな?
もう1人はシンプルなローブ。修道士さんだね。
2人いるなんて珍しいな。
向こうも、こちらに対し少し驚いた表情をしている。
修道士さんは目深にフードかぶってたから、表情見えなかったけど。
「珍しいですね。案内人が肩を貸すなんて。
別に悪いことではないですが、深入りした感情は別れた時に
辛くなるから極力近づかない、が案内人の皆さんの
暗黙のルールと聞いています。」
そう言うとセスは、じっとフードを目深に被る案内人を見つめ
何か察したのか、優しげに軽く微笑んだ。
「まあ、そんな事よりも治療が先ですね。
寝台に寝かせてあげてください。案内人はご苦労様でした。
今日はこの後、時間がかかるので戻って大丈夫ですよ。
終わった後、また別の案内人を呼びますから。」
「え!」
驚いて声を発したアシャは、ハッと口を手で塞いだ。
その行動に、向こうの修道士が
「え、女の子?」
と驚く声と慌てて口を塞ぐ手。
その行動に、アシャの身体が、ピクっと反応。
・・・なんか、変な空気・・・何でもいいけど、今にも
気絶しそうなほど足が痛いので、早く治療をお願い。
アシャは俺を寝台に寝かすと
2人に頭を下げて、来た扉から出ていった。
「さ、治療を始めましょう!」
なぜか、満面の笑みを浮かべ楽しそうな司祭さんを訝しむが
お願いしますと声をかけると、修道士さんが
傷口に手をかざして呟き始めた。
こんなに酷い傷を負って…
シンシアは心の中で呟き、少しでも早く治してあげたいと
気持ちを集中する。
呪文を唱え始めて3分程で、傷口はほぼ完治を見せる。
その様子にセスは少し驚いた。
目を閉じて、懇願するように唱えるシンシアの肩を軽く叩き
「治りましたよ。」
と伝える。
ハッとし、傷口が無くなっているのを見て、ホッとするシンシア。
「神聖魔法は、自身の魔力と信仰心と言いましたが
それだけでなく、想いの強さも合わせ乗ります。」
そう言うと、今度は修道士の耳元で
「ジュン殿の治療は
シンシア様に任せるのが一番かもしれませんね。」
笑いながら話すセス。
顔を赤らめ、からかわれたことにムッとする表情は
フードで見えないが、長い付き合いのセスには容易に受け取れた。