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対峙した相手は、同じプレートアーマーだけど、盾は持たずに
剣を両手で持って構える。
ゆったりと動く姿が、なんかすごい様になってる・・・
これは、絶対やばい相手だ。
明らかに経験者みたいな動き。いや、俺からしたら誰も彼も
みんな経験者なんだが。でも、明らかに雰囲気持ってる・・・
あー、強そうだー
観客の期待の高まる声援がもの凄い。それだけでも
強さが分かるわー
ガーン!
始まりの鐘と共に、剣を片手に持ち替えゆっくりとこっちに
寄ってくる。どうしよ・・・
とりあえず、相手の肩口めがけて剣を振り下ろしてみた。
フッと目の前から消えたように動かれる。
慌てて周りを見渡すと、いつの間にか後ろに立っていて
攻めても来ないでこちらを見ている。
その行動に観客も大いに盛り上がる。
あー、こういうタイプかー
これは完全に俺との力量差分かってて遊んでるなー
相手の顔を見ると、整った顔立ちに対して、目が異常に怖い。
遊んでくれてるうちに何とかしないと。
今度は動きをちゃんと見極めようと、同じように振り下ろし
相手の動きをよく見た。
少し理解!振り下ろす剣を右に無駄なく躱し、俺のギリギリ脇を
すり抜け、最短で視界の外に行った。はや!
今度は、すぐ自分の場所に気づかれ少しムッとした顔。
ありゃー、演技でもすれば良かった。
構えられてしまった・・・
それでも、そっちから来いと言わんばかりに
構えたまま動かない。行きたくないなー
恐る恐る近づき、今度は剣を突き出してみた。
キィン!
かん高い金属音と共に、剣が弾き飛ばされ
俺の後ろにガシャンと落下。
やばい!何したのか全然分からない!
めちゃくちゃつえーよー!
慌てて後ろの剣を拾い、また構える。
どうしたらいいんだよ、こんなの。打開策が何も見えない。
俺が躊躇してると、向こうが動き出した。
素早く数歩前に進んでからの鋭い突き!
顔に向かって真っ直ぐに伸びてくる。フルフェイスとはいえ
隙間に入ったら即死!
盾で止めようと持ち上げたが、盾に衝撃は無く
左足太ももに痛みが走る。
意識してない場所からいきなり現れた痛みは、切っ先が太ももに
入ってるのを目視した途端、痛烈な痛みに変わり
慌てて切っ先を引っこ抜く。
焼けるような痛み、引き抜くと同時に流れ出すような出血量。
かなり深く抉られた!
痛みで頭がどうにかなりそうなのを堪え、相手を見ると
満足そうな笑みでこっちを見ている・・・変態め!
相手の方が闘い慣れてるんだから、相手から動かれたら
何も出来なくなる。
油断している今のうちじゃないと、チャンスすら無くなる。
そう思い、痛む左足を堪え前進、右足を踏み込み
上から打ち込む。
この打ち方で右の死角に動きながら後ろに行くはず。右に
動いた!その動きは分かったから、振り下ろしきった剣を
真後ろにいるであろう相手に、横に払う。
剣が当たる、はずがすでに相手がいない!
やばい!さらに回り込まれた!
また左足太ももに痛烈な痛み!
背後にいると思った瞬間、前進して離れようと思った自分が
いてくれたおかげで、そこまで深くは抉られなかったものの
さらに痛みが酷くなり、おかしくなりそう。
「同じところを狙うなんて、絶対変態だこいつ。」
このままじゃだめだ。常に先を取られてしまう。
どうにかしないと。
必死に頭を回転。右上から打ち込めば死角に行って背後に
行くから、それに合わせて剣を払ってもさらに背後。
なら背後に来るのに合わせて・・・って、時代劇の
殺陣みたいなこと出来ないって!
「ん?まてよ?」
一つだけ案が浮かんだ。
賭けみたいな案だけど、試す価値はある。
また何もしないでいると、向こうから動かれる。そうしたら
何も出来なくなる。急いで前進!
今度は、ボロボロに痛められてる左足を踏み込み
ピッチャーの投球の様に剣を上から振るう。
右に動き出すのが見えた!今!
その体勢、タイミングで死角であろう所に右足を蹴り上げる!
グシャ!
聞き慣れない音と右ひざに入る衝撃。
視線を右ひざに移すと、綺麗に右ひざに顔面を潰されている
相手が映る。3回目の打ち下ろしで見た時、姿勢を低くして
走り抜ける際に、目線がこっちを見てるように見えたから
そこに蹴りを合わせれば、足のどっかに当たってくれるのでは
と思ったけど、1番痛そうなひざに
カウンターで当たってくれた。
左足に体重が全部乗った為、とんでもない痛みで倒れこみ
座りながら相手を警戒。が、相手はピクリともしない。
・・・気絶した?
剣を杖にゆっくりと立ち上がり、相手の顔を覗き込むと
前歯が変な方に向き、鼻が潰れ、完全に白目をむいていた。
ガーン、ガーン、ガーン
闘いの終わりの鐘。
鐘と共に起こる大ブーイング。いつもの俺に対するのと
相手に対して半々?
余裕かましすぎてやられてんじゃねーという事らしい。
俺はそのおかげで本当に助かったけどね。
また剣を杖代わりに、痛む足を引きずりながら
いつもの聞き慣れたブーイングの中、出口に向かった。