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王城内試技場。
ここは普段から多くの騎士たちが、鍛錬の場として
使用している。
その中、王もまた騎士たちの稽古付けや、自身の鍛錬の為
ここによく訪れる。
今も木刀を片手に、数人の騎士たちを相手に軽々と
あしらっているところだ。
ふと王の視界に、入り口に立つ人物が目に入った。
途端、あれだけ軽快に動いていた足も木刀も止まり
立ち尽くす。
危うく、1人の騎士の剣が当たってしまうかと思えたが
そちらを見ることなく、木刀で騎士の剣を受け流し弾き飛ばす。
騎士たちも、その視線に気づき入り口を見る。
そこには、美しく長い髪を後ろに束ね、細身の剣を携え
白銀のブレストプレートを身に纏うシンシアがいた。
「私も、参加させて頂いてもよろしいでしょうか?」
王はしばし沈黙の後、無言でシンシアに向け構える。
その様子を見て、騎士たちは下がり状況を見守った。
「行きます!」
軽快な、それでいて強さを含む発声と共に
シンシアは走り出す。
とても、普段のシンシアからは想像も出来ない程の速度で
王までの距離を詰め、一気に数回の突きを繰り出す。
目にも止まらぬ程の速度に、騎士たちはどよめく。
その高速の突きを、最小限の体捌きで躱す王。
それに対し、躱す王の身体の動く先に合わせ、死角側から
これが本命と力を込めた突きを
ハァ!と一閃。
カァン!
木刀とレイピアの当たる音が、軽快に木霊した。
「鍛錬を怠ってた割には、迷いの無い良い突きだ。」
王がニヤリと笑う。
「まだまだ。これからです。」
そこからまた、息もつかさぬと言わんばかりの高速で
攻め続けるシンシアに、それをことごとく躱し続ける王。
時折響く、軽快な音が試技場に木霊する。
これを見守る騎士たちは、シンシアの強さに対するあまりの
驚きに、ただ茫然と立ち尽くしていた。
日本で見る月の、3倍はあろうかという月が
真上に昇る頃。
城下の町から、僅かに聞こえてくる喧騒も、聖堂内に入ると
途端に音を鎮める。
背の高い塔の最下層にある、広々とした大聖堂の中
戦女神アルテアの御神像の前、差し込む月明りに
照らされた2人は、ひっそりと儀式を執り行っていた。
こうべを垂れ、手を合わせ、ひざまずくシンシアに
その頭の上に手をかざし、戦女神アルテアの教本を腕に抱え
讃歌をゆっくりと、透き通るような声で唄うセス。
小一時間程の儀式は終わり
「これで、神聖魔法を覚えることが出来るようになりました。」
と、セスは告げた。
「これから毎日、祈りの時間をお作り下さい。
その信仰と、ご自身の魔力で魔法の効果が変わります。」
セスは、手をシンシアに差し出し、シンシアは
その手を取り立ち上がる。
セスが手にしていた教本を受け取り
「分かりました。ありがとう、セス。」
月明りを綺麗に映すような髪を流し、シンシアは頭を下げた。
「シンシア様は、きっと良い術者になられると思います。
貴女様のお母様も、とても信仰の深い方でしたから。」
シンシアを見つめるセスの目が、優しく、シンシアの向こうに
見える面影を見つめる。
「うん。よく覚えてる。
お母様が毎日、お祈りをされていたのを・・・。
私も、お母様を見習って続けます。」
ふと、小さい頃に見た母の祈る横顔を思い出し、胸が詰まる。
セスはシンシアの心中を察し
「さあ、今日はもう遅いですから。自室に戻って
ゆっくりお休みください。」
シンシアを促した。