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&ファイト  作者: もみじ
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時は数時間戻り


王城内の一室。

豪華な造りの王城内の中では、かなりシンプルで

小さな部屋。

この部屋の窓際は、気持ち良い風が流れ込む。

窓から見える景色は綺麗な花々が咲き、緑多く

とても闘技場のある同じ城内とは思えない

穏やかな空間。

今日もこの専用の窓際の席で、ゆっくりとした

時間を過ごすこの人は、金色の腰まである長い髪が

綺麗に風になびき、形よくすっと通った鼻すじは

上品で、エメラルドの瞳の優しげな眼差しは

同時に瞳の奥に意志の強さも感じられる。

肩までがあらわになるドレスは、シンプルながらも

細かな装飾が施され、細身の身体に軽く沿うように

くるぶしまで綺麗に覆っている。

ジュラーム・J・シンシア。

国王ラディアの一人娘、王女である。

年は17歳。

この国ではそろそろ結婚を考えても

不思議のない年齢。

ここで書物を読むのを好むシンシアは、闘技開催中は

必ずここで本を読む。

闘技を見ろと言う父から逃れるため、あまり

使われていないこの部屋に逃げ込むのだ。

父が嫌いな訳ではない。

逆に、自分に対して優しい部分を多く見せる父は

大好きだ。

自分の立場も理解している。

この国の唯一の跡継ぎの自分が強くなり、この国を

引っ張るか、結婚をし、その人と国をまとめていくか。

実際、近隣国から王子のプロポーズは何度も受けた。

だが、明らかに政略を感じさせる結婚を

どうしても受け入れる気になれない。

父も王子を迎え入れる事は乗り気じゃなく

よって、娘を強くしようといろいろ算段を取っていた。

剣を握ること自体、苦手ではない。

父の血もあり、それなりに得意ではいるつもり。

ただ、母に似て温和な性格が、どうしても殺し合いの

闘技を見たいと思えないのである。


今日も、この部屋で書物を読み

時折遠くから聞こえる歓声罵声に、表情を

曇らせていた。

「また、こちらにいらしたんですね。」

不意に声をかけられた。

「・・・行かないわよ、セス。」

声のする方向に、顔を向けず答えるシンシア。

自分が生まれた時からの、長い付き合い。

声だけで表情まで見えてくる。

セスは優しい表情で、ため息を一つつき

「お父上のお気持ちも

分かっていらっしゃるのでしょう?」

「分かってる。強くならないといけない自分の立場も

それを願うお父様の気持ちも。

でも、どうしても見たくないの。

人が殺されるところなんて・・・」

物心ついてから母を亡くしたシンシアは、人の死に

すごく敏感になっていると分かっているラディアも

セスも、今まではどうしても押し切れなかった。

「今、面白い闘士が育とうとしています。

その者は、ひと月程前に行われた選定闘技でも

一人として殺さず、今まで6人と戦い、誰一人として

殺さずここまできています。」

「え・・・あの観衆の中、とどめを刺さずに

いられるの?」

「はい。」

「強いんだ?その方。」

「いえ、全然。まったく。」

ひじ掛けからひじがずり落ち、危うく椅子から

落ちそうになった。

「全然強くないのに、とどめを刺さずにいるの?

たまたま勝ち残ってるだけの臆病な方って事?」

「たまたまでも勝ち残っています。」

たまたまは否定しないんだ・・・。

「とどめを刺さないのが臆病な行為かどうか

ご自分の目でご覧になってはいかがでしょうか?」

「・・・でも、弱い方でしたら

次は殺されてしまうかもしれない・・・。」

「弱い、とは言っていません。

人は強い信念を持つと、強くなれるものです。

ですので、育とうとしている、とお伝えしました。」

「強くない、けど育とうとしている・・・。」

・・・シンシアは、しばらく窓の外を見つめ

「その方は、次はいつ闘われるの?」

「本日、第7闘技です。」

それってもうすぐじゃない!と振り向く

シンシアを見ながら、セスは優しく微笑み、扉を開き

お待ちしておりますの一言を残し去っていった。


ラディアは驚愕の目で後ろを見ていた。

優しげな笑みを浮かべるセスの傍らに、シンシアが

立っている。

ここは闘技場観覧室。

シンシアがここに来るという事を、どれほど

待ち望んだ事か。

なんと声をかけていいのか分からず、呆然とし

一国の王であるはずのラディアから一瞬、その風格が

消え、ただの一人の父になっていた。

「一人、見てみたい方がいます。

隣で見せていただいても宜しいでしょうか?」

シンシアの言葉に、我を取り戻したラディアは

王の風格を戻し、座るように促した。

一瞬、振り返り見たセスの含み笑いの顔に

苦笑いをしながらラディアも着座。

今まさに、第7闘技

さきほどの大楯の相手と、ジュンの闘いが

始まるところである。



夜、豪華な天蓋のついた大きな寝台の、ふわふわの

布団の中。

シンシアは、昼間見た闘いを思い出していた。

劣勢な闘いの中、あきらめず活路を見出し

勝利を収め、観衆の罵声の中

言い返したあの言葉。

強い、強い信念を感じた。

国の大きな力の中

お世辞にも強くない、その人のその行動と言動は

強く、シンシアの心を貫いていた。

「次・・・次はいつだろう、あの方の闘い」


ここまでが第一章になります。

ここまで読んでいただいた方、ほんっとうに感謝です。

表現の未熟さ、文面の拙さが多く出ていたと思いますが

なんとかここまできました。

それも、少しずつ増えてるアクセスが読んでいただけてるように

思え、気持ちを押していただけたおかげです。


ありがとうございます。

ここまでは書き溜めで来れました。が、えー第二章も

多少の書き溜めはありますが、このペースだと追いつくのも

時間の問題・・・急に更新が減速してしまったらすみません。

気長に待っていただけると頑張れます。


第二章もお楽しみいただけたら幸いです。


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