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武具部屋。
最近、いつもここで悩む。
筋力がついて重いものでもある程度
動けるようになった。
じゃぁ足にもつけようか?・・・でもそれで重すぎて
また身動き取れなくなったら、それも怖い。
だけど防具が無い事の不安は味わいたくない・・・。
けど重いのはなぁ・・・。
ふと、洋服をあれこれ悩む女子の気持ちが
重なったように思えた。
って、んな事考えてる場合じゃない。
結局、いつもの格好。
これは、プレートアーマーというものらしい。
上半身がおおよそ隠れる造り。
肩当てがあり、腰にはスカートみたいな形状の腰当て。
これに兜をかぶる。
中世の騎士がかぶってそうなフルフェイス。
それに盾。大きさに種類があって
一番大きいのは、全身がすっぽり隠れる大きさ。
この前持ってみたらめちゃくちゃ重い!
あんなの使える人いんのかな。
中型、小型とあって、中型もそれなりに重いんだけど
大きさの安心感には変えられない。いつもこれ。
それと、剣。片手で持てる、程よい?長さの剣。
ロングソードって言うらしい。
剣だけじゃなく、斧とか槍とかもあるんだけど
どう使ったらいいか分からないんで、剣。
学校の授業で剣道もやったしね。
親父が読んでて俺も読んだ、バカ〇ンドって宮本武蔵が
主人公の漫画も好きだったし。
・・・格好は全然違うが・・・。
あれこれ悩んでも、結局いつもの格好に落ち着く。
祝福の時間。
この一瞬でしか顔を合わせない相手だけど
顔を見る分応援はしたくなる。
負けるとなんだか、自分に重なりそうで・・・。
でも、俺って昔っから応援する側が負けること
多いんだよなぁ。
だから、勝ってほしい時は見ないようにしたりするけど
つい見ちゃって、あぁ、やっぱり負けたって気分を
味わされる。
・・・今日も案の定か。ごめんね、応援しちゃって。
こんな事考えられるのも、少しでも余裕が
出来たからかな?
前回、前々回は普通に切りあえた気がする。
っていっても最後は、いつもぐだぐだの
泥仕合みたいになって、倒れたところに剣が
刺さってくれたりで、何とか勝ってきた。
今日も頑張ろう。
対峙した相手、盾でか!さっきのでかい盾
使う人いるんだ・・・
ガァ~~~ン
開始の鐘と同時に、相手が盾の後ろに隠れた。
うゎ、かがむと全身盾の後ろじゃん!どこも身体が
見えない。
・・・あっちはどうやって攻撃するつもり?なんて
考えてた途端、盾ごと突進してきた!
思わず横に飛ぶ!
通過したと見るや、すぐさま向きを変え突進。
イノシシか!って突っ込みたいところだが
それどころじゃない。
突進し慣れてるのか、あっという間に飛び込んでくる。
また横っ飛び。
結構、飛ぶのは疲れるんだよ。重いんだから。
もう一度同じ事を繰り返し、今度はタイミングを
見計らう。
ぎりぎり避ける事出来そうだ。
次はギリギリを狙おう・・・。
突進してきた。盾のすれすれを避けざまに
切りつけ・・・
ぞくっ・・・悪寒!
いきなり盾の脇から剣が突き出した!
急いで突進から離れようとしたが間に合わず
左足太ももを切っ先が抉る。
焼けたような感覚が足に走り、次いで激痛。
いぎっっ!
離れるのが一歩遅かったら太ももを突き抜かれてた。
悪寒と痛みで全身の毛穴が開く。
足を切り、余裕を持ったのか、ゆっくりこちらに
振り向き、また構えようとする。
「なんで避け方が分かったんだ?」
痛みを堪え、相手を凝視する・・・。
ん?
あ!
盾に覗き穴がある!
ばかだな、俺ってつくづくばかだな。
気付いて見れば、結構はっきりと空いているのに
気付かないなんて・・・。
再び突進。横っ飛びを・・・痛みで動きづらい!
何とか右横に動いたが、傷入りの左足のつま先に
盾がかすった。
いってぇ~!
振動が切り口に響いた。次いでつま先の痛み。
「かすっただけでこれか。やっぱりぶつかると
かなりの衝撃だ・・・。
ぶつかり合ったら、重量差でこっちが負けるだろうな・・・」
再びの突進にすばやい動作が取れない。
ぎりぎりでかわしつつ剣を警戒、したつもりだったが
盾の下から左足に剣が襲う。
何とか一瞬早く足を引けたが、体勢を崩した。
それを見た相手が、すぐさま振り返りそのまま
盾で体当たり。
間に合わない!
ゴォオン!
重い金属のぶつかる音と共に、凄まじい衝撃!
後ろに飛ばされながら、全身を激痛が襲う。
凄まじい衝撃と脳震盪で、危うく意識を失いかけたが
足の激痛でかろうじて意識を残した。
車の正面衝突ってこんな感じかな・・・。
などと、場違いな言葉が頭を掠める。
やばい!倒れてる今襲われたら!少し正気に戻った頭が
自分の危険さをやっと判断し、衝突に備えようと
身体を強張らせ相手の方を見る。
・・・あれ?
相手はこっちを見据えて構えたまま。
余裕?遊んでる?・・・なんにしても助かった。
立ち上がれる時間を得られた。
こっちが立ち上がったと見るや、またも突進。
今度は転がるように横に逃げる。
全身をさっきの痛みが襲うが、何とか堪え
立ち上がる。と同時に突進。もう一度横に転がる。
「・・・なんか変だ。立ち上がらないと
襲ってこないように思える。なんで?」
あ!と一つ、案が浮かんだ。
浮かんだ案をするかしないか、頭の中で葛藤。
賭け要素が強くてとても、すぐにやってみようって
思えない案。
もう一度、確認と思い立ち上がる。同時に突進。
横に転がろうとした刹那、相手が突進を止め
剣を足に向かって突き出した!
何とか逃れようと身体を捻るが間に合わず
左足太ももを再び抉る。
剣が自分の身体に入る嫌な映像と感触。
焼かれるような熱さ。
そして激痛・・・。
声も出せない程の痛み。地面をのたうちまわる。
立ち上がらないと・・・。
頭では考えているものの、とても無理な痛み。
だけど、このまま立てないままだと
勝負ありとされてしまうかもしれない。
そう、自分がしてきた戦いでは
動けない、立てないという状態で鐘がなっていた。
立たないと・・・んぎぃ・・・。
死にたくない一身で心を奮い立たせ、剣を杖代わりに
何とか立ち上がる。
同時にブーイングの嵐。
「なんで?」
一生懸命頑張る人を応援するって気持ちは
この国には無いのか?
このタイミングで、あきらめろ!死ね!って言われると
心が折れそうになる。
相手にはもうほとんど動けないと思われているようで、
しっかり立ち上がったのを確認して突進を始めた。
「もう、やるしかないな・・・」
すごい勢いで近づいてくる相手をじっと見据える。
盾を握る手に力を込める。
動く様子を見せないと見るや、勢いを殺さず
そのまま突っ込んできた。
今だ!
盾を前に構え、あらん限りの力で握り
しゃがみ込んで身体をうずくまらせる。
勢いを止められない相手は、そのまま俺に
ぶつかってきた。
ガァン。
再び、重い金属音が響く。
だけど、さっきより明らかに衝撃が軽い!
という感想を思うより早く、相手の盾が上にのしかかり
その上を相手が飛ぶ姿が目に映った。
「やった!」
残りの力を奮い立たせ相手の方に走り出す。
地面に背中から叩きつけられた相手は
衝撃で身動きが取れないでいた。
そこに、鎧の無い足首めがけ一閃。
叩きつけるように振り下ろした剣が
相手の足首を両断。
声にならない叫びと共に、相手が地面を
のたうちまわった。
バランスがとれず、振り下ろしたと同時に
俺も転がったが、剣を杖代わりに何とか立ち上がった。
ガァーン、ガァーン、ガァーン
勝敗を決した鐘。
凄まじいブーイング。
俺が勝つと相手に止めをささないと観客は
分かっているらしい。
汚い野次、罵声。
勝利した安心感などあっという間にかき消される。
「いつまでも勝ち続けられると思うな!
お前みたいな臆病者はとっとと殺されちまえ!」
妙にはっきり通る野次が、まるで耳元で
怒鳴られたように聞こえた。
ブーイングに慣れてきていたが、久々にカチンときた!
「うるせーーー!
殺すことが美徳なんて思わねえ!
殺せないことが臆病とも思わねえ!
俺は俺のやり方を通すだけだ!
見てることしかしない連中は、黙って見てろ!!」
初めて出した反論で、火に油を注いだらしい。
怒号の様な罵声の中
出口に向かって剣で杖をつくように、ゆっくり
歩いていった。
「結局、どういう事なんだ?」
戦いの内容を話した俺に、パシムが説明を求めてきた。
さっきの戦いで、なんで相手が飛んだんだ?と
聞きたいらしい。
「前に大盾を持った時、持つ部分が盾の真ん中より
すこし上にあったのを思い出したんだ。
それなら、しゃがみ込んで大盾のできる限り下に
ぶつかれば、てこの原理で衝撃は上の方に
行くんじゃないかと思ったんだよ。
その勢いで、相手が飛んでくれるとまでは
考えてなかったけど。」
「てこ?の原理って?」
「ん~、そういう考えがあるってこと。」
「そうか。
しかし、そこまでいろいろ考えながら
やってるんだな、ジュンは。」
「何が出来るでもないからね。必死に考えないと。」
そこまで聞くと、その後はもう自分ならこうした
ああしたと、またいつも通りしゃべり始めた。
また、戻れたんだなぁ、俺・・・