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八.失われたパス、届いた記憶

「僕は三年前に大けがをしたんだ。そして、その時に一時的な記憶障害になった」


 久しぶりに遊びに来た太郎の部屋で、懐かしそうに伊賀は昔を思い出しながら説明した。太郎は息を飲んで聞き入った。

 

「どうしてそんな怪我を?」


「当時小学生だった僕は育成リーグの体験会に参加していた。バスケには自身があったし、ちょっといい格好を見せようとして僕は積極的に得点を狙った。最初はにこやかに相手をしてくれていた中学生たちもだんだんと顔色が変わってきた。コーチが激しく叱責しだした。明らかに彼らはストレスを感じていた。僕がダンクを決めて着地をしようと手を離した時、足元をすくわれて、僕は頭からコートに激突した」


 太郎は唖然とした。競争率の高いアメリカだから起こる足の引っ張り合い。ハーフの伊賀は特に狙われやすかったのかもしれない。


「そのまま僕は入院して、意識を取り戻した時、記憶を失っていた。バスケから離れてのんびりすれば記憶が戻るかもしれない。母親の親元にかえって療養することになったんだ」


「そうだったんだ……でも、君は最初、僕に会いに来たっていってたよね。あれはどういう意味だったの?」


「あれはね……」


 伊賀は笑いながら鞄から一冊の本を取り出した。色あせてボロボロになったその表紙を見て、太郎は驚いた。小学生の頃、よく読んでいたバスケの漫画。中学生の主人公の男の子がニコリと笑って立っている。たしか、読まなくなって売っちゃたような。伊賀が口元を緩めながら裏表紙を見せた。あっ。

 

 やました たろう

 

 ひらがなで大きく書いてあった。

 

「僕の母が持っていた漫画だよ。君のだろ?」


 太郎は本を受け取り懐かしく眺めた。まさか、伊賀のお母さんが買ってたなんて。

 

「君が手放した本が巡り巡って僕の元に渡り、小さかった僕はその表紙の少年の顔と後ろの名前だけが記憶に残った」


「そうだったんだ。こんな不思議な事もあるんだね」


「君は僕が異世界からきたと思ってたようだけど……」


「う……どうしてそれを?」


「君の寝言は声が大きいからね」


 まじか……はずかしそうに頭をく太郎に、ふふふと伊賀はおかしそうに笑った。

 

      ※

      

 異世界モニターを見ながら、シュウは目を細めた。

 

「さすがイカロス。弟子の危機を見事にすくいおった。そして、怪我も随分と回復したようだ。『Dunk of Destiny』の第二章もそろそろ始まる。あの三人にはこっちにかえってきてもらうとするか」


 シュウは嬉しそうに強制転送装置を取り出し、呪文を唱えた。

 

「ア、ブダ、ぱらぺったん、ぽーつのほいっ」


      ※

      

「里奈!! ウォーミング始めるぞー」


 体育館で待つ辻が大きな声を出した。

 

「わかった、今行くー」


 里奈はふと辻の鞄の上に本が置いているのに気づいた。これはもしかして。

 

「遅いぞ、里奈。お前と俺は男子と女子のキャプテンなんだから、しっかりしないと」


 辻が腕を組んで眉をひそめた。

 

「これなーんだ?」


 里奈が目を細めて手に持った本を掲げた。辻は目を丸めてうろたえた。

 

「う……どこからそれを。しまった、出しっぱなしだったか」


「『Dunk of Destiny 第二章 伝説のイカロス編』 辻君、こういう異世界ファンタージが好きなんだーー」


「……俺の勝手だろ。お前に男のロマンは一生わかんねーよ」


 辻は口をとがらせて逃げて行った。

 

「どうして男の子はこういう話が好きなんだろう? あれこの主人公の顔……」


 里奈は首を傾げた。どこかで見た事あるような……妙に気になってパラパラとめくった。一度ちゃんと読んでみようかな。

 

「まってよ、辻君。大事な物なんでしょ」


 俺のじゃねーよ。逃げ回る辻を里奈は本を掲げて追いかけた。


~End~

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