一.プロローグ
その男はまさに神話から抜け出した鳥人だった。
リングに向けて高く舞い上がった男は片手に握りしめたボールを誇らしげに高く掲げた。三人の敵が彼の動きに引き寄せられるように跳び上がり、獲物を狙うが如くボールに手を伸ばした。だが、その刹那、ボールは予想を裏切るように急降下し、男たちの脇を悠然とすり抜けた。呆気に取られて振り返る三人をうしろに、男はそのまま風のように飛び続け、しなやかに伸ばしたその長い腕で、ボールをそっとリングへ送り込んだ。
それは、技と美が融合した奇跡の一瞬。圧倒的な滞空時間と、ばねのようにしなる肉体を持つ彼だからこそ可能にした、唯一無二の「二重踏継手」
〝神様と呼ばれた男〟
これはその奇跡の人の物語……のはずだった。
「いてッ」
太郎はベッドから転げ落ちて目が覚めた。
「おっかしいなあ。普通なら目が覚めるとそこは異世界で俺はヒーローのはずなんだけど」
山下太郎(十三歳) 東山中学二年 バスケットボール部
そして、万年補欠……趣味は異世界転生モノの小説を読む事。
(だー、やべぇ。朝練がはじまっちまう)
「太郎ーはよ、起きなー。遅れるよー」
(いわれなくても、わかってるっての)
慌ただしく朝食を済ませた太郎は家を飛び出した。