戦闘引き継ぎ
銃声が止む。
耳鳴りが容赦なく鼓膜を叩いた。硝煙の臭いが鼻をつき、戦場の生々しさを物語っていた。分隊衛生兵の三上は、銃弾が貫通した部下の太腿を止血しながら、報告をする
「こちら三上、負傷者1名。重傷。後送準備願います。出血多量、意識レベル低下しています」
「了解。こちら第2分隊本部、援護するので安全地帯まで後退せよ」
三上は、部下を引きずり安全地帯へ連れ込むと、部下の蒼白な顔を見つめながら、応急手当を続けた。止血帯を締め直し、モルヒネを投与する。だが、出血はなかなか止まらず、部下の意識はさらに薄れていく。周りの分隊員たちは、敵の迂回を警戒しながら、突撃銃を構え、安全を確保するための戦闘を継続していた。
「分隊長、出血が止まりません。後退を……」
三上の声は絶望に染まっていた。
分隊長の佐藤は、双眼鏡で周囲を警戒しながら、苦渋の表情で頷いた。
「第2分隊へ連絡。戦闘の引き継ぎと後退を要請する。これ以上の戦闘継続は困難だ。敵の増援も確認された」
無線機から第2分隊の力強い声が聞こえる。
「了解、第3。5分後に合流地点に到着予定だ。なんとか持ちこたえてくれ」
佐藤は、負傷者を背負い安全な場所に移動させ、分隊員たちに指示を出す。
「三上、負傷者はどのくらい持つ?」
「適切な応急手当ができなければ、あと5分が限界です……!」
三上の声は震えていた。敵の銃弾が容赦なく降り注ぎ、退避の道は絶たれ、手当の隙も与えてくれない。
「くそっ……!」
佐藤は歯を食いしばり、最後の望みを託すように無線機を握りしめた。
「第2分隊、応答せよ! 至急増援を! 包囲されている! 繰り返す、包囲されている!」
だが、応答はない。絶望感が分隊員たちの心を覆い尽くす。その時、佐藤は不意に奇妙な地鳴りのような音を聞いた。それは次第に大きくなり、やがて大地を揺るがすほどの轟音へと変わった。
「なんだ……?」
佐藤が驚愕の表情で音の発生源を探すと、地平線の彼方から黒い影が猛然と迫ってくるのが見えた。それは、馬に乗った数十人の集団だった。
「あれは……?」
三上が信じられないものを見るような目で呟いた。
黒い影は、瞬く間に距離を詰め、敵陣に突撃した。轟音と共に、雄叫びが戦場を満たす。黒い影の正体は、友好現地民族の騎兵隊だったのだ。
彼らの参戦により、戦況は一変した。騎兵隊の猛攻に敵は混乱し、敵戦線は崩壊。佐藤たちは、この隙を逃さず、負傷者を連れて退避を開始した。数分後、第2分隊とも合流し、全員無事に帰還を果たした。
安堵と疲労が入り混じった表情で、佐藤は騎兵隊のリーダーに深々と頭を下げた。
「あなたたちのおかげで助かりました。感謝します」
リーダーは、穏やかな笑みを浮かべると、こう言った。
「我々は、あなたたちの勇敢な戦いに心を打たれた。我々の友情を乾杯を」
あの日、絶望の淵から生還した第3分隊は、決して忘れなかった。友好現地民族の騎兵隊の勇姿を、そして、彼らが示してくれた友情を。