閑話2:ある刑事
双葉灯失踪事件を担当した刑事と、双葉灯が消えた後の話し。
住所の場所は洒落たオフィス街のビルで、受付で先輩に渡された用紙を見せると、内線で確認を取って、行き先の階数が書かれたICカードが渡された。曰くエレベータの操作盤にかざせば目的の階に行ける様になっているという。指示通りエレベータ前で操作盤にかざすと、扉が開いた。中には操作盤は無く、扉が閉まると、エレベータは一気に最上階に上がり再び扉が開いた。
そこにはモデルの様な人物がいた。男性にも女性にも見える整った容姿に、身長も高く。一応スーツを着ているが、長いストレートの髪を首の後ろ辺りで1つに纏めていた。キリッとした目鼻立ちに眼鏡を掛けており、知的で性格がきつそうな印象を持った。
「お待ちしておりました。IODO。International organization for dealing with other worldsの成瀬貴臣です。」
名乗られたが、私は何を言われたのか解らなかった。多分IODOは略称で、その後が正式名称的な感じだろうが、インターナショナルってことは国際組織だということしか聞き取れなかった。
「竹宮様。エレベータを降りて頂けますか?他の階で呼ばれている様ですので。」
成瀬は思考停止している私に声をかける。私の名前は受付で名乗ったので、相手には伝わっている。
「あ、すみません。」
ここに来た理由も解らないのに、更に謎の国際組織。何故こうなった。エレベータは降りたものの、どうすれば良いのかと結局行動不能になった。
「では、こちらに。」
しかしそこは成瀬が先導して、内部に案内される。ここの住所を渡された時に先輩には何なのか聞いたが、先輩も解っていない様だった。国際組織が彼女となんの関係がと思う。一昨日のニュースの方の関係だとすれば、彼女の失踪と関係しているのか。
「入りますよ。」
エレベータからまっすぐ伸びた先にあった扉を成瀬が叩く。一応廊下には他にも扉があったが、人の気配は無かった。成瀬は返事を待たずに扉を開いた。その部屋には応接セットが1組と正面と右にデスクと椅子が1組ずつあった。正面のデスクには小さな女性が座っていた。座っているので解り難いが、恐らく100cm位しかない。
「警察官の竹宮様です。」
成瀬が端的に紹介する。女性は黙って私を見回す。
「そう。私は花房美鶴、ここの責任者。成長ホルモン分泌不全性低身長症だからこんなんだけど、一応34だから子供が間違って紛れ込んだ訳じゃないわ、安心して。」
花房はデスクの椅子から降りて応接セットに来ると私にソファーを示し、その正面のソファーに座る体制を取る。成瀬は一端部屋を出て行く。
「警察官って事は双葉灯の件ね。まだ、関心がある人が居たなんてね。」
私は示されたソファーに着こうとしていた姿勢のまま、花房を見やる。
「座って。その話をしに来たんでしょ。」
再び花房に促され今度こそソファーへ座る。花房も正面に座った。
「さて、何から話したものかしらね。竹宮刑事は何故双葉灯に関心が?」
私はこれまでの事を説明した。ここが何なのかは解らないが、やっと何か進展がありそうなそんな期待が大きかった。
発端の事件が起きたのは十年前だった。私がその事件を知ったのはその四年後に同じ家庭で類似事件が起きたからだった。捜査に当たった先輩がその十年前の事件の際にも捜査に当たっていた。その資料を読んだ時、内容や家族の証言がそっくりで違和感を覚えた。それに失踪した娘の母親は大丈夫かと尋ねれば頷いたのだ。疑っていた。怒らせる事を承知で尋ねたのだが、母親はその問がおかしいとは思わなかったらしい。先輩には無神経だと怒られたのに。
しかしその事件は次の日思わぬ展開を迎えた。未明に失踪した娘が見付かり、ほぼ同時刻自宅が火事で更に爆発した。捜査の結果、焼跡からは3人の遺体。家人である事は間違い無いだろう。
そして失踪した娘は家族に殺される。四年前の妹も家族に殺された、と主張した。やはりと思った。娘が生きていてせっかくそれを証拠に、両親と息子を逮捕出来るところだったのに。こんなタイミングで火事なんて。
しかし私はその娘に会い、得体の知れない違和感に囚われた。娘に火事の詳細を伝えれば、娘は安堵の表情を見せた。それは被害者らしい素直な表情だった。しかし次の瞬間それは不安に代り、喜べば良いのか、悲しめば良いのか、怒れば良いのかと問われた。それがまるで準備された言葉で、それを悟られる事に不安を覚えた様な。そんな風に感じてしまった。
その後の捜査で火災事件の方は、火事以前に殺されていた両親は、殺害した凶器と血塗れの息子の服が庭の物置から発見された事から、犯人は息子と断定され。息子の方は遺体から市販の睡眠導入剤がギリギリ検出され。それらを本人が進んで飲むとは思えず両親が息子に摂取させたのだろうと判断された。その為喫煙中だった息子は睡魔から煙草を取り落とし、そこから火の手が上がった。更に運が悪い事に、ガス漏れが起きており、ガス爆発を起こした。
警察内の筋立てでは、お互いに殺し合い、その罪を娘に着せる計画だったのではないかと言う事になった。息子が両親を殺さなければ、息子は寝煙草で死に、両親は火が回る前に気付き逃げ出すという計画で。疑われれば、不在の娘に罪を着せる事が出来る。息子の方も深夜の内に両親を殺しておき、服と凶器を始末した後に警察に通報。もう燃えてしまったが、家内には娘が犯人に見える証拠を準備されていたのでは、という事だ。
娘の殺害未遂の方は、コンビニの防犯カメラがあっさりと娘が帰りの車に乗っていなかった事を証明し。山の中にも娘が転がり落ちた崖と、崖下には頭の傷からと思われる出血の跡、そこから沢を下れば、途中で血止めに使ったと証言のあった、千切られた蓬もあった。そして更に沢を下って、川に行き着き、川を下れば民家に行き着き。証言に反する事は無かった。
十年前の娘の失踪事件の際も、銀行の防犯カメラに家族の行き帰りが記録され、帰りの車内に娘の姿は見えなかったが。当時は後部座席に息子と娘で座っており、疲れた娘が息子の膝枕で寝ていたと主張され、確かにカメラの映像ではその様に見えない事もなかったので、家族と帰宅した事が認められた。その上、失踪した娘の姉が、戻って来たと証言した。しかし当時この姉は体調不良で寝込んでおり、聴取の際も朦朧としていたらしく。もしかしたら警察が間違った誘導をしてしまい。体調の悪かった姉が曖昧に返事をした事が、姉も妹の帰った姿を確認したと言う事になったのかもしれない。それに加え周囲の聞き込みでも、両親と息子は娘達に対してまるで他人の様に振る舞う事があったと証言もあり、それが原因で家出をした可能性が強いと判断されていた。
私は娘が家族を全員殺したのではと考えたが、どう考えても無理だった。娘が殺されかけた山から自宅までは車で一時間、しかも県を跨ぐ。殺されかけて、そこから沢を急いで下って民家の周辺に付いたとして、まだ明るい時間のはずだが、娘を見た者は居ない。そこから自宅まで娘はスマホも財布も無いので徒歩で帰る事になるが、それでは殺して戻って来るには間に合わない。例えばヒッチハイクが出来たとしても、ボロボロで血に濡れた娘を乗せたら嫌でも忘れない。病院や警察を勧めたりもするだろう。それに帰るのは良いが、山に戻るにはやはり時間が足りない。何かを隠したい娘だが、さすがにそれは不可能だ。しかし私の元には気になる物があった。沢を下っていた時に拾った。血の付いていたと思われる、包帯らしきもの。らしきものというのも、包帯にしては少し固い繊維で出来ていて、一応白に近い色ではあるが麻の様な触り心地で包帯とは断定は出来ない。血が付いた跡もあるし、もし植物の繊維から出来ているなら、捨てられて時間が経てば形は保たなかったはずなので、捨てたのは最近の筈だと思った。まあ血の跡があったとして、汚染が著しく誰の血かも判別出来ないだろう。関係無いなら良いが、もし娘が最初から持っていて崖下で使って、沢を下る途中で捨てたなら、それは何故なのだろうか。何故私はこれが無関係では無いと思っているのだろうか。
その事件は一応被疑者死亡で終わりはしたが、私は娘が気になり、暫く様子を観察し、顔を出し気遣うフリをした。そして四年前その娘が突然消えた。彼女自身の事件から二年経っていた。
彼女が借りていたアパートのオーナーからの通報で失踪が発覚した。私が気にかけていた事は先輩も知っており、私に連絡をくれた。彼女の部屋の隣人に確認したところ、一ヶ月半前から不在だった事が解った。捜査が始まり、まずは彼女の足取りを追った。しかし失踪前に最後に彼女が目撃されたのは駅のトイレに入るところだった。スマホの位置を確認すればその駅のロッカーにあり。ロッカーに荷物を預けたのは失踪と同日。そのロッカーは長期利用を想定された、月極のロッカーで彼女はそこを一年前更新で借りていた。ロッカーには他にも財布等が入ったバックが預けられており。駅で切符を買った様子もなかった。そもそも彼女は失踪する一年前に仕事を辞めており。駅を使う必要はなかったはずだった。どこへ行ったのかと駅構内の監視カメラをチェックしたが、彼女はトイレに入ったっきり出て来ることは無かった。トイレの中を確認したが、他に出口も無い。意味が解らなかった。しかしトイレに入って消えたのは間違い無かった。
他に手がかりを求めて失踪後のトイレ周辺の監視カメラの動画を確認したが、例えば人一人が入る様な大きな荷物を持った人物も無く。もしバラしたとしても、利用者の多いトイレだったので、そんな事をする時間は無かった。
どこに行ったのかという捜査は暗礁に乗り上げ。何故失踪したのかを調べる事になった。隣人曰く彼女は平日は出掛け、土日は家にいたはずだと言う。アパートは壁が薄く。人の気配程度は解るらしい。その証言を元に平日どこに行っていたのか足取りを追うと、行き着いたのは駅だった。また駅の構内の監視カメラとにらめっこが始まり。驚くべき事に彼女は朝駅のトイレに入ると、夕方まで出て来ない。駅の清掃員に確認するが、一日中使用中になっている個室はなかったという。もしあれば、急病人の可能性があり、個室内を確認するそうだ。そして更におかしな事に土日も彼女は朝トイレに入って、夕方トイレを出て来ていた。しかし隣人は土日は家にいたと証言していた。では家に居たのは何かと家の方を調べる。
再び隣人に確認すれば、仕事を辞めた頃は全く家にいる気配がなく、一度自宅に招待したことがあり、それ以降は気配を感じる様になったという。理由を聞いてみれば、どの程度なら生活音を立てて良いのかと解らなかった等と言ったらしい。しかしそれにしてもそれ以前は絶対に家にいなかったと断言していた。他に思い出す事は無いかと確認すれば、よく海外旅行に行っていたという。家に入って確認すれば、パスポートが見付かったが、海外旅行には1度しか行っていなかった。しかしこれには私も覚えがあった。彼女の様子を見に行った際に近々海外旅行に行くのだと言っていた。ではどこへ、調べたかったが駅の構内の監視カメラの動画の保管は半年でそれ以前の動画は無かった。彼女はその間欠かさず駅のトイレに出勤している。これは失踪した理由に関係あるのだろうか。毎日トイレに出勤し、周囲には平日は働き、休日は家にいる様に装い、たまに海外旅行だと言って、家を空ける。
事件性がなかったり、失踪から時間が経てば捜査員は減り最終的には捜査は打ち切られる。そして彼女の失踪は謎を残したまま、打ち切られた。
しかしそれでは私が納得出来なかった。あの日病室で得体の知れない違和感に囚われた私は、彼女の失踪を1人で調べ続けた。
そして彼女の郵便物からおかしな物を発見した。それは海外から転送された手紙で、外は彼女宛だったが、中には別の人物に宛てた手紙が未開封のまま収められていた。そして未開封の手紙は国外の銀行からで宛先の人物名義の預金の明細だった。何処かから大金が振り込まれ、そこから日本の企業に何かの代金として引き落とされていく。しかしそのほとんどが残った状態で、また大金が振り込まれる。というのを繰り返していた。どう見ても偽造した名義で口座を作り何かをしていた。しかし日本の企業の方は大手の化粧品メーカー数社と100円ショップ、そして不動産屋。捜査が打ち切られているので結局それらが何なのか調べるには礼状が必要だった。
しかし私は諦めきれずこの口座から代金を引き落としている、不動産屋を訪ねた。端的に言えば職権乱用、私は手帳を見せ、口座の名義人が借りた物件を聞き出した。そこはビルに入った無人のオフィスだった。そしてそこには、口座の名義人宛で化粧品メーカーからの宅配物が放置されていた。宅配業者に確認すれば、鍵を渡されており、荷物はオフィスに運び込み、鍵をかけておく様に頼まれ、持ち主には会った事がないという。そして周囲に聞き込みをすれば、このオフィスに出入りしているのはこの宅配業者のみでそれ以外の人物はいないという。しかし業者曰く次の宅配時には前に届けた分はなくなっているそうだった。届けた荷物の内訳は口座に名のあった企業からだった。オフィスに残された荷物を確認すれば、中身はただの化粧品。この口座の持ち主が彼女だったとして、どこから得た金で何をしていたのか、結局は解らないまま行き詰った。大金を振り込んでいた者の名を調べてみたが、結局何なのか解らなかった。
そして私は意味があるかは解らないが、彼女の人間関係を改める事にした。仕事を辞めてからは、トイレ出勤をしていた可能性が強く。その間に関係があったのは隣人と、私と彼女の父親の保険会社だ。
彼女の父親は絵画のコレクションに保険を掛けていたそうだが、それらは火事で焼失し彼女が保険金を受け取った。しかし最近になって、焼失したはずの絵画が市場に出回っていた。恐らく彼女の父親は保険を掛けた後に絵画を密かに処分し、火事に乗じて保険金詐欺を働くつもりだったのだろう。
保険会社は保険金が間違って支払われた為にその保険金を返して欲しいと彼女に頼もうとしていた。この事を私が知っているのは、訪問のタイミングが合った保険会社から取り次ぎを頼まれたからだった。彼女は知らない人物の訪問には一切対応しなかった様で。保険会社も家に戻ったところを確認して訪問したにも関わらず、出て貰えなかったという。同じく彼女が家に戻ったところで、私も訪問していたが、彼女が居留守を使った事は無かった。一応ポストに手紙は入れていた様だが、結局顔が解らないので対応に出て来て貰えなかった様だ。居留守を使われた保険会社が右往左往している所に私が彼女を訪問し、2人を取り次ぐに至った。
まずはその保険会社に向かい担当者から話しを聞こうとしたが、担当者は海外出張先で亡くなっていた。確認すれば彼女に保険金の返金を求めたところ、彼女はそれを快諾してくれた様だが、幾ら返金が発生するのかという話しになり、最初は保険会社も全額のつもりだったが、火事の焼跡からは、絵画の残骸も発見されていた為に、全てが秘密裏に売られていた訳では無いのではと、指摘を受け、その調査をしていた。その際一部が海外にあるという情報から、確認の為に渡航し、その先で強盗に遭い亡くなったという。後任者がその後確認に行って、それが彼女の父親のコレクションで有る事は確認したが、まだ他の絵画が確認中で後任者は彼女に挨拶出来ていないという事だった。失踪してしまった為に返金云々は彼女の場合失踪確認日から20年後になる。彼女には親兄弟も配偶者もいない。更に両親共に一人っ子だった為に叔父や叔母もいない、そして祖父母も亡くなっている。遺言書も無かったので相続人が存在しない。失踪宣告をする人間が存在しない。現在絵画の確認状況は53枚のコレクションの内44枚は探し出せたそうなので九割方返金となるだろう。担当者がいないのでは話しも聞けない。次は彼女の元勤務先の人物にあたる事にする。
彼女が勤めたのは4社、内2社は正社員、残り2社はアルバイトだった。事務系の職に正社員で入り、一月で退社、その後のレンタルショップに三ヶ月、再び事務系の正社員に二ヶ月、最後はコンビニのアルバイトでそこは三週間で辞めている。頻繁に職を換えていた。まずはコンビニのアルバイトの方に聞き込みに向かったが、そこにはコンビニは無かった。火事で焼け、オーナーとアルバイトが2人亡くなっていた。確認すればその火事は、彼女がアルバイトを辞めた日だった。その事件の調書を確認してみれば、放火だったらしく、深夜のコンビニには亡くなった3人しか居らず、出口を塞ぐ様にコンビニの入口と、従業員用の裏口には可燃性液体がまかれ、そこに火を付けられたとの事で、二ヶ所の出入り口に同時に火の手が上がっており、複数犯とされている。コンビニの他のアルバイトや利用客に事情聴取が行われて、亡くなった3人が相当恨まれていた事が判明した。オーナーは亡くなった2人を贔屓しており、2人が急に休んでも許し、替わりに他のアルバイトを呼び出し、断ると電話口で長々と説教をされたりという事がよくあったという。他にも会計を通さず店の物に2人が手を付ける事があり、それを注意したりオーナーに告げ口すると、2人からのイジメやオーナーからシフトを増やされたり、出れないと告げた日ばかりにシフトを集中されるという事もあった様だ。2人が仕事をサボるせいで他のアルバイトが仕事が遅いと叱られる事もあり、その現場を目撃した客も少なくなかった。それで親会社にクレームを入れたという者もいたが、何も変わらなかったという。そして火事の際のアリバイだが、アルバイト達は2駅離れた繁華街で彼女の送迎会兼決起集会をしており、ほとんどがアリバイが証明された。参加出来なかったアルバイトもそもそも予定があって参加しなかったという事で、しっかりアリバイを持っていた。客の方も、時間が遅い為ほとんどが就寝中。犯人は未だ捕まっていない。
私は調書に名の上がるアルバイト達に会いに行った。彼女が失踪した事を告げ、彼女のアルバイト中の様子を聞き出す。内容を纏めると、仕事を覚えるのが早く、厳つい客にも臆さず対応し、クレーム処理も上手かったという。オーナーや亡くなった2人のアルバイトとは対立しており、他のアルバイトが3人から嫌がらせやイジメを受けていると、3人を止めてくれたという。しかしそれが3人の気に触り三週間でクビになった。その際に彼女の方から、飲み会の誘いがあり、それが送迎会となったという。内容としては三週間だったがありがとうございます。というのと、彼女の方からはコンビニのアルバイトは辞めないかという内容だった。あんなところで無理に働く事はないと、周囲の他のアルバイト事情等を調べていてくれて、一人一人におすすめのアルバイトを纏めた物をくれたという。全員未だにそれを手元に持っており、現在そこにあった、おすすめの場所でアルバイトをしていた。これなら辞めざるおえないだろう。
次に話しを聞きに行ったのはレンタルショップ。コンビニの近所で一部はコンビニの客でもあったので、コンビニの事も聞きやすいという打算もあった。聞いた話しによれば、勤務態度には概ね問題は無く、次の勤務先が決まったと辞めていったとの事だった。ただコンビニでは正義感の強い人物に見えたが、レンタルショップでは消極的でトラブルになりそうな客が入店すると、姿を消す事が多く、対応時も冷めた対応で客を怒らせていたとか、コンビニに務めていた事を知っているかと聞けば、覚えていた者と忘れていた者とどちらもあった。覚えていた者曰くコンビニで他のアルバイトを庇う姿を見た時は驚いて声を掛けたが、無視される事なく本人もレンタルショップの時は態度が悪かったと自覚はあった様だという。忘れていた者は雰囲気が違い過ぎて私から聞くまで知らなかった。そして関係無いとは思うが、常連の問題客が彼女が辞める少し前に引ったくりに遭い亡くなったそうだ。相当嫌な客だった様で、その話しを始めたアルバイトは彼女の話しを聞いていたはずなのに、半分以上はその客の愚痴だった。興味本位で確認してみれば、その客は引ったくりに荷物を奪われた際に転け打ち所が悪く、周囲に街灯も無かった事から発見が遅れ、亡くなったと調書にはあった。目撃者も無かったが発見時の状況や周囲で引ったくり事件が頻発していた為、引ったくりに遭った際に運悪く亡くなったのだろうという事になった様だった。
その次に話しを聞きに行ったのは最初に入社した事務の正社員の時の関係者で、内容を纏めると辞めた原因はセクハラで、どんな人物だったかと聞けば、解らないと言われた。事務には彼女とセクハラをしていた社員の2人で、彼女がセクハラを訴え。証拠の音声記録を会社に提出し辞めたそうで、その後そのセクハラをしていた社員は謹慎中に、電車内で痴漢を働き、逃亡中に線路に飛び込んで死亡したという。
この段で私は嫌な予感がしていた。彼女が通った所には死者が付き纏う、両親と兄に始まり、セクハラ社員に、迷惑な客、横暴なオーナーとアルバイト達、保険会社の担当者。
しかし、私は残りの一社に話しを聞きに行かずにはおれなかった、それは確信に近い予感だった。私は最初に話しを聞いた社員に、彼女の失踪を報告すると最初に誰か関係者で亡くなった者は、いないか確認していた。その答えはYesだった。亡くなったのは50代のベテランの独身女性社員で事務の鬼婆と他の女子社員達からは呼ばれていた。この社員は若い女性社員に見境なくパワハラをしており、彼女が会社を辞める以前に社内でこのパワハラのデータが出回った。これは彼女が受けたパワハラに限らず会社中にカメラやマイクが密かに設置され、それらが集めた情報で、最初は女性社員達にメールで送られ、その後中間管理職、最終的には理事会にまで送り付けられ、言い逃れが出来なくなり。解雇される直前にはそれが近所の人や親戚にまでばらまかれたらしく、犯人は不明だったが、社内にいるだろうと言うことで、社内で大暴れをして、解雇された。その後自殺したという。自殺の遺書には会社への恨み言が書かれていた事から、会社に警察が捜査に来た為に会社中に知れたという。その後彼女は会社を辞めた。
これでまた1人増えた。私は彼女が犯人になり得るか調べた。最初からあり得ないと解っていながら調べたのかも知れない。彼女には完全にアリバイがあり、やはりあり得なかった。共犯者も考えたが彼女に関しては、不明な金銭の動きは謎の名義人の口座だけだった。
それからも、彼女の事件はずっと私の中にあった。幸い職権乱用は上には知られずに済んだ。しかし、手が空くと彼女が関わったと思しき事件の調書を確認していた。
そして一昨日朝のニュースで、思わぬ名前を聞くことになった。それは謎の名義人の口座に大金を振り込んでいた者達の名前だった。彼等は犯罪組織で新しく出来た難しい名前の国際法に触れていたとかで、その組織のメンバー達を指名手配するというニュースだった。
その翌日、つまり昨日、彼女の殺人未遂、両親と兄の火事に関する調書が閲覧出来なくなり。私は我慢出来ず先輩に、理由を聞いた。先輩は一応昇格し管理職になったので、何かの事情を知っていると思った。そして、先輩は溜息を吐き。名刺大の用紙を寄越して来た。それには住所だけが書かれていた。
説明している内に成瀬は茶菓子と、お茶を持って来た。話し終わり、私は喉がカラカラで、それを一気に飲み干した。
「嘘でしょ。」
花房は呆れている。まあ、説明の過程で職権乱用した事を告白してしまったので呆れられても仕方がない。
「素晴らしいですね。」
成瀬は無表情で言う。それは褒めているのか、反応に困っているのか、どう受け取ればいいのか。
「ええ。そうね。素晴らしいわ。1人でここまで調べ上げたなんて。」
花房は何度も頷く、それは興奮した様子で。どうやら職権乱用の件に呆れた訳では無い様子に見える。
「何から説明すればいいかしら。」
言いたい事は有るのに、言葉に出来ない、そんな様子で成瀬に何かを訴える様に、視線を送っている。
「竹宮様の仰る通り、それらの事件の犯人は双葉灯でしょう。」
花房の訴えから、何かを受け取った成瀬は私のあり得ない妄想に近い、根拠も無い、可能性を肯定した。
「そうね。双葉灯にはそれが出来るわね。それらの調書も回収しないと行けないわね。でも他にもあるかも知れないわ。まだ、暗号が解読出来てないから。」
花房は成瀬の肯定を肯定する。私は2人の会話が解らなかった。私はあり得ない事を言ったのに、何故。
「貴臣。竹宮刑事が、混乱してるけど、私達の事を竹宮刑事は知らないの?なんて説明したの?」
花房と目が合い気付いてくれる。
「IODO。International organization for dealing with other worldsだと名乗りましたが?」
またさっきの謎の正式名称が出て来た。
「このお馬鹿。頭でっかち。そんな流暢に言われたら私もインターナショナルとワールドしか解んないわよ。」
花房は漫才の如く成瀬の頭を叩いた。そして大きな溜息を吐いて見せる。
「部下が気が利かなくて申し訳ないわね。改めまして、IODO。国際異世界対応機構の局長、花房美鶴よ。」
国際的になんという機関を作っているのか、異世界対応とは何するのだ、聞いたことない。
「更に混乱されていらっしゃる様に見えますが。」
成瀬が花房に呆れて返すが、冗談などでは無い様だ。
「異世界は在ります。私も局長も異世界で生活をした前世を記憶しておりますから。そしてIODOは異世界がこの世界に与える影響を抑える機関として立ちあがった比較的新しい機関です。」
成瀬は説明してくれるが、思考が追い付きそうにない。異世界があったとして、異世界が与える影響とは何を指すのか、そして双葉灯との関係はなんなのか。いやそもそも異世界とは何を指すのか。
「それは。パラレルワールド、の様なものですか?」
何か聞かねば、何も分からぬまま先に進められたらもっと解らなくなる。
「そういう世界もあるでしょう。しかし私達の場合はファンタジックな世界でしたよ。魔法があり、亜人が住まう世界でした。モンスターもいましたし。」
パラレルワールドも異世界に入ると、ファンタジックっていうのはRPGゲームみたいな感じか。必死に想像を働かせる。
「ド◯クエ的な?」
魔法に亜人にモンスターで思い付いたのは、弟がやっていたゲームだった。すると花房と成瀬が顔を見合わせて、何やら視線でやり取りをしている。
「はい。」
成瀬が花房との視線の会話を終わらせ頷く。
「それが無数に存在すると思って下さい。この世界にそっくりで何か違う世界もあれば、全てが違う世界も有るはずです。」
花房が茶菓子を机に並べる。
「これが、今私達がいる世界。」
菓子の1つを示す。
「これは私達の前世の世界。」
隣の菓子を示す。
「他にも私達が知らない世界は無数に存在する。2つだけしかないと断定出来ないし。それじゃ説明がつかない。」
言いながら他の菓子を触って行く。
「本来はそれぞれ異なるパッケージに入っているから、中からは外に何があるかは解らない。」
中にいるから認知出来ないというのは、解りやすい。
「でも、何かの力が働いて、誰かがこのパッケージの中にこっちのパッケージの中身を混ぜるのよ。それが私達や双葉灯。」
私達がいる世界と仮定した菓子から、花房達の前世と仮定された菓子へ爪先を移動させ、もう一度私達がいる世界と仮定した菓子に戻って来る。
「つまり双葉灯は、異世界に行ったから、失踪したと?」
この2人と入れ替えられたという意味か、でも2人は前世が異世界人だというが、双葉灯は異世界に行ったのか、そもそも異世界人だったのか。
「そうね。そうとも言えるけど、具体的には違うかしら。」
花房と成瀬はまた視線で会話する。姓が違うので他人なのだと思うが、姉弟の様に見える。ただ単に長い付き合いで、お互いに前世を覚えているという共通点から通じ合うところがあるのだろう。
「その話しをする前に、1つ説明しておきましょうか。何かしらの方法で異世界へ移動すると、移動した人物は特殊な力を手に入れる様です。」
それからまた顔を見合わせる。
「私達のスキルは人には披露出来ないわね。」
成瀬が頷く。
「双葉灯が得たのは転移と異世界転移の2つの魔法でした。」
転移。もしや、それを使って家族や他の亡くなった者達も、双葉灯が殺したということか。
「何故そんな事が解るのですか?御二人は双葉灯がそれを使うところを、ご覧になったんですか?」
それなら毎日トイレに出勤してから、別の場所に転移して何かしていたというのか。
「私達は双葉灯には会った事はありませんが、彼女は前世の世界では有名でした。彼女がこの世界の物を大量に持ち込んだせいで、大勢が亡くなり。1つの国が地図からなくなりました。」
成瀬は何かを思案しながら言う。
「IODOが言う、異世界からの影響って事よ。彼女としては文明的に劣って見える異世界で、この世界の物を売ってお金を稼いで。金に換えてこっちで売ってたって事よ。思い当たるんじゃない?」
100円ショップや化粧品メーカーからの荷物、謎の名義人の口座、そこに振り込まれた大金。
「でもね、異世界の物質って、その世界には無いはずの物なのよ、世界毎に反応は違うだろうけど、良い事は起きないでしょうね。前世の世界ではそれらに魔力を吸われて亡くなる事象が発生した。そして、こちらでは呪いが生じた。」
今度は呪い。前世に異世界、魔法、私の常識が崩れていく。
「彼女が異世界から持ち込んだ金は魔法の運用に必要な魔力を含んだ異世界の金属で、この世界の金とは違う。一見しただけでは、その違いは解らない。でもね、この世界だと感情、強い思いに反応するっぽくてね。これがお互い好きあってる2人の結婚指輪とかなら、相思相愛のおしどり夫婦になるんだろうけど、恨みを込めて誰かに送ろうものなら、受け取った方はその恨みを魔力に強化された物を受ける事になる。」
一見して解らないなら。それは世界中に溢れてしまってるのではないか。
「双葉灯が持ち込んだ異世界の金の総量は約75トン、回収出来たのは1トンだけ。」
ほとんど回収出来てない。異世界に対応するのにそれで良いのか、いや出来たてだから今から回収していくということか。
「とりあえず。双葉灯が失踪したのは前世の世界で捕まったからです。無許可で商売を行い。金貨を無断で持ち出し、鋳潰した。そして異世界の物品を販売。それらの罪で多額の賠償金が発生しました。」
呪われた金の話題は深堀りされず。双葉灯の事に戻る。普通にこちらでも犯罪になる事柄ばかりだ。
「逃亡の恐れがあったので、魔法が封じられ、戻る事は出来なくなり、苦役で賠償金を払いながら一生を終えました。結局払い終わりませんでしたが。」
払えない程の賠償金、途方も無い額なのだろうが、国が滅ぶ程の事をしたというから、払い切れる訳など無かったという事だろう。
「こちらでは計画殺人で何人を死に追いやったのでしょうね。」
成瀬は重い息を吐く。
「竹宮様が把握している宅配受け用のオフィス以外に双葉灯は部屋を持っています。恐らくそこで生活を行っていたのでしょう。そこに有るパソコンには発注履歴も残っていました。販売の帳簿も、そして殺人記録なるほとんど暗号で書かれた文章が在りまして。最初の殺人として、両親と兄の死についてのみは、そのまま書かれていました。後は暗号だった為、現在解読中ですが、先程の情報を使えば少しは解読の役に立つかもしれません。」
違和感に囚われた為に私は深い深淵を覗いた様だ。殺人記録、そんな物を付けていたなんて。コンビニのアルバイトの際に正義感を振りまいていたのは、まさか殺人を重ね自信を得て来たからだとでも言うのか。私が把握した、10人以外にも殺してしまっているのかも知れない。
「竹宮刑事。貴女、うちでも働かない?刑事にしておくには勿体ないわ。良い目を持ってる。」
花房の黒い瞳が光輝いた様に見えた。
「今日はこの辺にしましょう。次に会うその時に返事を聞かせて。」
花房の瞳は黒いまま、何か自分の奥底を覗かれている様な不安を覚えた。
再び訪れたビルの最上階、今日は違う部屋に案内されそこにはパソコンが一台、少し型が古い。
「これが双葉灯のパソコン。殺人記録が解読出来てね。竹宮刑事のお陰で。」
私が2人に告げた事件の調書は警察の方では閲覧禁止になっている。
「結論から言うと、30人は殺してる。それから3件の計画書があった。隣人、保険会社、そして竹宮刑事。貴女も狙われていたみたいね。」
花房がパソコンを操作すると、恐らく私の殺害計画が表示された。隠し撮りされた私の写真。自宅にいる時、署内、実家、恋人の家。私が疑っている事に気付かれていた。ずっと見られていたという事か。鳥肌が立つ。こんな仕事だから逆恨みをされる事は理解している。しかしこれは。
「危なかったわね。」
双葉灯が異世界で拘束されなければ、私は殺されていた。パソコンの画面には血の海に横たわる私を先輩が冷めた目で見下ろす絵が映し出されている。
「竹宮様。これを拝見して、こちらの伊藤様を調べさせて頂きましたが、これは今でもありえる可能性ではある様です。パソコンの方にも証拠が保存されていました。」
転移して人の秘密を暴き、殺人を計画する。あの病室で私が何か出来ていれば、こんな事にはならなかったのだろうか。いや、私に出来る事は無かった。あの段階で双葉灯の罪に気が付くのは無理だった。
「伊藤先輩は犯罪を犯しているんですね?」
成瀬は頷く。何をしているのかは知りたくない。私には良い先輩だった。信じていたのに。これが絶望か。
「双葉灯が用意していた証拠を警察へ渡す事は可能ですか?」
伊藤先輩は私を育ててくれた人だ。だからこれは私からのお礼だ。
「良いわよ。だからお礼にIODOにも籍を置いてくれて良いわよ。」
花房は意地の悪い笑みを寄越して来た。伊藤先輩との思い出に浸る時間など与えてくれるつもりはないらしい。しかし、思い出に浸る暇が無い位の方が良いのだろう。
これはシリーズ化の予定。
現代世界側IODOの2人の話しや、異世界側の造幣局とオーパーツ研究所の2人や、他の組織の話しなど。
完結まで書き上がったら、連日投稿します。
書く保証は薄めです。ご期待下さい。