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第4章

 回収の遠征にはヴァナダンスと私、研究所の所員と造幣局の騎士で向かう。フタバ•アカリは檻付きの馬車の荷台だ。ロシマルス卿の領地からの道中でも小物を販売していたらしく、都市や集落に寄って、フタバ•アカリの顔を見せて物品を購入していないか声をかけて回る。研究所の所員も騎士も顔を隠す為に1日中仮面を付ける必要があり、仮面の蒸れに苦しまされた。宿でも個室以外は仮面のままだ。でなければ造幣局や研究所の技術や研究が欲しい連中に何されるか解ったものじゃない。ちなみに私達が宿にいる間もフタバ•アカリは檻の中で外に放置だ。今の気候なら凍え死ぬ事もないし、一応異変を察知出来るように檻に魔法が仕込まれている。

 遠征中オーパーツを素直に渡す者や隠そうとする者、果ては行商人に渡した者まであり、やはり全て回収する事は不可能だった。そして我々はアーロン山周辺に到達した。


 まだアーロン山の麓ではないが家を無くし避難した者達がいる為、私達がフタバ•アカリの説明をすると、誰もが目付きを鋭くしていく。そしてオーパーツの回収どころではなくなり怒号が飛び交った。

「死ぬ事はない。安心して怒りを受け止めろ。」

 ヴァナダンスがフタバ•アカリに声をかけ、所員と騎士に馬車の周囲を離れる様に指示する。一応ヴァナダンスと私が馬車の傍に残ったが、民衆は馬車をひっくり返し囲んで罵声を浴びせた。石などを投げ込んだ者もいたが、魔法で致命傷は防げる様にしてあるので、基本的には民衆の好きな様にさせる。家を失い、場合によっては息子を、恋人を夫を失った者がいる事は解り切っていた。

 私達が宿に入れば、外の檻にフタバ•アカリは1人、檻は魔法で動かせない様に固定して。翌朝には馬車に積んで次の場所へ向かう。恐らく夜中にもフタバ•アカリには訪問者が絶えなかった事だろう。アーロン山でも勿論手厚い歓迎を受けた、フタバ•アカリは日に日に憔悴するが、これでやっと少しは自分のした事を理解出来ただろうか。

アーロン山を過ぎてもそこに避難した者がいればフタバ•アカリは民衆に責め立てられる。ある日とうとうフタバ•アカリが壊れた。フタバ•アカリは檻が壊れないのを良い事に、周囲を取り囲む民衆を馬鹿にし始めた。文明の遅れた蛮人だとか。消火活動に当たった若者達が死んだのも自業自得だとか。山小屋も所有権があるなら、解りやすく示せだの。責任転嫁に、現実逃避。果ては意味の解らない罵詈雑言。ヴァナダンスが一際大きな溜息を零し。少し規模の大きい魔法を使う。魔法は便利だ。傷も治せるし、精神的な問題も治せるのだから。その分術者の力量や、多くの魔力が必要になるが。途端フタバ•アカリは口を覆い周囲を見渡した。壊れていた精神をヴァナダンスが治したのだろう。思っても口にしては行けない事が有る事を思い出したらしい。

「悪いが、暫くここに滞在する事になった。」

 ヴァナダンスは疲れた様子で馬車を離れていく。確かに普段使わない様な高等魔術だったが、回復に時間がかかるという事は無い。フタバ•アカリが自身で煽った民衆を少しでも抑えて次に行きたいというところだろう。

 予定より2日多く滞在して次の集落へ移動する。フタバ•アカリはせっかくヴァナダンスが治したのにまた憔悴状態に戻っている。まあ自業自得だ。


 そしてついにロシマルス卿の領地、フタバ•アカリが最初に現れた集落に付いて私達は言葉を失った。ソーラーが乗った屋根に、家の中には家電が置いてある。冷蔵庫にケトル、電子レンジ、電子コンロ。そしてフタバ•アカリが最初に出会った2人は魔力欠乏症で既に動けない状態だった。もうここからの回復は見込めない、オーパーツを回収したとして、どうやら食物も摂ったらしいので、魔力は吸われ続ける事になる。市販の魔力回復薬ではいずれ間に合わなくなる。

 ソーラーが乗った家は一軒ではない、その集落全ての家に乗っている。家人は尽く魔力欠乏症。更には、ロシマルス卿の夫人も既に魔力欠乏症に罹っていた。

「デボラ。ニックさん。」

 漸くフタバ•アカリが反省を示した。檻から出して2人の元へ連れて行った。

「自分の口からこれまで、自分がして来た事、言った事を報告するといい。」

 ヴァナダンスは冷たく言い放ったが、フタバ•アカリがそんな事出来る訳もなく、ただ黙り込み涙を流すだけだった。この2人はフタバ•アカリには大事な存在だった様だ。ならばせめてこの遠征を始める時に思い出せば良かっただろうに。そうすれば、その時点でオーパーツの使用を止める事は出来たはずだ。

「ロシマルス卿。奥方は貴卿の自業自得だ、この領民達の事も貴卿が今後どうするかという問題だ。確かに貴卿にフタバ•アカリを紹介したかもしれんが、フタバ•アカリの身元調査が出来たのは貴卿だけだ。それを怠った代償だ。見捨てても良いし、高級回復薬を買い与えて生かしても良いだろうが。全て貴卿の責任で行う事だ。勿論フタバ•アカリに賠償請求する事も出来る。」

 ヴァナダンスとしては見捨てるなと言いたい所だろうが、いつまでも面倒を見れるという話しではない。だから責任と判断はロシマルス卿に委ねたのだ。

「どうせ逃げれん。オーパーツの回収が済むまでは、お前が看病していろ。」

 ヴァナダンスはフタバ•アカリにこの世界で最初に出会った2人の看病を任せた。そして回収の手伝いに向かう。私はヴァナダンスの御守りなのでそれを手伝う。


 往復で一月半かかった遠征は終了し戻って来れば、造幣局の職員達が研究所の引っ越しの準備をしてくれていた。とわいえ研究に使う設備は怖くて触れないし、遠征関係と思しき物も戻れば使うかと、そのままだったので中途半端ではあったがその気遣いがありがたかった。


 まずはマーリン聖教国へ戻り。私達は今回の問題の後処理にかかった。国際造幣局に関する国々に今回の件の報告を行い。それに伴い造幣局と研究所がマーリン聖教国に戻った事を連絡する。回収したオーパーツはこれから研究所で管理する為に、何があるのかを仕分けして、安全に処理する方法を探して行く事になる。更にはマルシャット国から今回の件の被害者数、被害額の報告とフタバ•アカリに求める賠償についての請求書が届いた。被害者は火事で亡くなった36名に加え、ロシマルス卿の夫人とロシマルス卿の領地のオーパーツまみれの集落の家族8世帯20名が死者として計上された。被害者に関しては食品を摂った者はいずれ魔力欠乏症になるが、それはその度報告を貰う事になる。ロシマルス卿は集落の者達を生かし続ける事が出来ないと判断し、夫人だけ救うという判断が出来なかった。被害額は金貨の代金、オーパーツを購入した代金、山火事の賠償金に、死者への賠償金等フタバ•アカリに因ってもたらされた金銭的な不利益だった。フタバ•アカリに求められた賠償はこの被害額の一部の負担だった。これについてはマルシャット国にも責任があるので全額の賠償は無理だが、そこの負担の割合は今後国際司法機関に判断を任せる事になる。その為の書類作成も私の仕事だ。マルシャット国から造幣局と研究所に対する賠償は先日求めた分だけなので、それ以上は請求しない。後はマルシャット国とフタバ•アカリの間で決める事になる。

 そのフタバ•アカリはマーリン聖教国の刑務所に収監されている。国際犯に認定される上に、罪状が多く、1人で抱えるには規模のでかい賠償金を請求される事になる。更にはあっちの世界でも計画的に何度も人を殺した事が発覚して。遠征の様子からも更生は望めないと判断されてしまったので、終身刑となり死ぬまで苦役を負わされる事は決まっている。後はそれが幾らになるかで内容が変わる位だ。


 結局、マルシャット国が求める額の一部の賠償がフタバ•アカリに科せられる事になった。それでも今までの歴史にも無い金額になり。更に今後マルシャット国内で魔力欠乏症患者が出た場合、フタバ•アカリがばら撒いたオーパーツが原因と断定されれば、フタバ•アカリが賠償する事になった。フタバ•アカリは天命まで苦役で一生を終える事が決まった。ヴァナダンスの腕輪のおかげで簡単に死んだり出来ないので、返し切る方で苦役の内容が決まる事は間違い無い。額が少なければ、例えば女であれば性サービス等であっという間に完済となるケースが多いが、フタバ•アカリの場合はそれでも全然間に合わないだろうから、男性と同じ様に肉体労働が多くなるだろう。若い内に稼がせておかないと年老えば、稼げる額は減って行くのだから。

 造幣局としては転移魔法対策をする事になり、ヴァナダンスが珍しくまともに働いている。造幣コストが上がるが結局それらを負担するのは、造幣局に関する各国だ。彼等がそれらを求めればヴァナダンスがそれに応えるのは仕方ない。


「所長。」

 局長室で論文を書くヴァナダンス。しかし所長として用があったので所長と呼びかけた。

「シューザか。少し待ってくれ。」

 ああ、目の下の隈が痛々しい。

「サインを頼みに来ただけですから。」

 机に書類を置いて部屋を出ようとすれば、ヴァナダンスの指示でスライムが出口を塞ぐ。

「ちょっと、待って。今日は帰るから。」

 そう言い、論文を書き殴り、私の持って来た書類にも、サインを書き捨てると、書類は受信箱に投げ込む。

「よし。帰るぞ。」

 私の予定は確認せずに、飛び付いてくる。こうなったら私も帰るしかない。人の腕の中で寝る体勢に入ったヴァナダンスを抱きかかえたまま、研究所に戻り帰ると所員に声をかけ、擬態魔法を掛けて研究所を出た。

 久しぶりにこっちの自宅に帰る。マルシャットに引っ越して次の入居者が入ってもおかしくなかったが、国がすぐに呼び戻そうと動いた為に、不動産屋が次の入居者を入れずに待ってくれていた。有り難い。帰りがけに商店で夕食の材料を買い。久々に店主にヴァナダンスとの関係を冷やかされる。これだから疲れて動かないヴァナダンスを連れて帰るのは嫌いなのだ。自宅に付けば、庭中にヴァナダンスのスライムが放し飼いになっている。一応ヴァナダンスがテイムしているが、数が多すぎるので私には個体判別等出来ない。というか、帰って来るの解ってて次の入居者を入れなかったのではなく、このスライム用の家が売れなかっただけではないかと今更ながら思い当たる。溜息を吐きつつ、鍵を開けて、家に入り魔法を解き、靴を脱ぐ。ヴァナダンスの靴も脱がせ、寝室にヴァナダンスを放り込み、キッチンで夕食の支度を始めた。


本編はここまでです。

次回より閑話となります。


次話は明後日の20時に更新します。

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