第2章
最近は金貨に問題が有ったとかで、換金屋が金貨を取り扱っていない、御陰で後々金貨に換金出来る証書の束が溜まっている。銀行に持って行けば、口座にきちんと振り込まれるらしいが、生憎私は口座なんて持っていない。しかし金貨に問題と言う事は恐らく偽造という事だろう。こんな文明が発展していない世界じゃ偽造なんて簡単な事だろう。早く偽造犯捕まってくれないだろうか、おかげで一月以上換金出来ていない。
今日は店番。店番は退屈だ。今は子連れの母子だけだ。子供は男児でおもちゃを見つめている。すると男児が私の元へやって来て、手を差し出して来る。何かは解らないが、しゃがんで視線を合わせ、私も手を差し出す。子供は苦手だ、何を考えてるか解らないし、汚れた手でベタベタと商品に触れる。それを拭いて回るこっちの身にもなって欲しい。
「どうしたの?」
客じゃなきゃ、絶対こんなに優しくしない。
「これ。上げる。」
そう言って、男児は綺羅びやかな宝石の着いた腕輪を私の腕に嵌めた。平民かと思ったけど、もしや貴族のお忍びだったのだろうか。子供の割には見る目あるわね。じゃあ一緒に来てるのは母親じゃなくて使用人って所だろう。使用人の方に視線をやれば、使用人は冷めた目で私達を見下ろしている。それってどんな表情よ。全く躾が成ってないわね。
「確保しました。」
使用人が声を上げると、白い仮面の騎士姿の者達が店内に雪崩込んで来た。そして3人がかりで取り押さえられる。
「ちょっと、貴方達何なの?ここが何処か解ってるの?」
今やここは王室御用達なのよ。眼の前の男児と使用人の姿にノイズが掛かり、2人共白い仮面を着けた姿になる。騎士の格好ではないが、2人共白衣を着ている様だ。男児の方の仮面にはこの世界の文字で「1」と右目の穴の下に書かれ、使用人の方は同じ位置に「2」とある。
「引っ張り出せ。」
1の仮面の方が、店を出ながらそう言うと、2の仮面がそれを追い。私はその後を騎士達に連れられて店を出れば、そこには人集りがあった。見渡せば常連客達の姿もある。
「誰か、助けて。」
私は周囲に助けを求めるが誰も私を助けてくれる気配は無い。
「静粛に。」
1の仮面が声を上げる。
「では、まずはギルド長からどうぞ。」
そう促されて年配の疲れ切った男が、人集りから出て来た。
「商業ギルド、支部長のスーベンです。」
スーベンは咳払いをして、緊張した面持ちで唾を飲んだ。私の方は1つ思い当たる事があった。スーベンは紙を広げそれを読み上げた。
「雑貨屋ライト、店主アカリ•フタバ。貴殿は商業ギルドに無断で商売を行った為、まずこれを罰する。その処分を無期限の営業停止とする。」
家を借りた時に不動産屋がそんな事を言っていた、しかしギルドに登録せずとも商売は出来たので、放置していた。
「次、不動産売買店ニッサ、店主ニッサーナ。商業ギルドへの登録証を確認せずに、店舗物件を売買した為、これを罰する。その処分をギルド登録の剥奪。また所有する物件を相場の地代で周辺の不動産売買店へ売る事。売買を断って、土地、店舗を所有する場合は、免除は適応されない為、全額の税金を国庫に収める事。」
人集りでニッサーナ、私にこの店の物件を売った老婆が崩れ落ちた。内容の意味は正しく解らないが商売が出来なくなるという事だろう。
「では次はこちらだな。シューザ。」
1の仮面が声をかけると、2の仮面が 歩み寄って来る。
「フタバ•アカリ。貴女は3つの罪を犯しました。まず、1つ金貨の王都外への無許可の持ち出し。1つ金貨の鋳潰し。そして最も重大なのはオーパーツの販売、使用。」
周囲が一層ザワつく。最初の2つは覚えがあるが、最後のはどう言う事だ。
「よって国際造幣局で身柄を拘束します。」
2の仮面が宣言するが、私は転移を使う事にする。あれから色々研究してあの半透明の画面は必要なくなった。まずは金貨を溶かしていた、小屋に行こう。
「無駄だ。もう二度と魔法は使えんぞ。」
1の仮面が冷たく言い放つ。確かに魔法は発動せず。私はその場に留まっていた。確保とはこういう意味だったのか、腕輪のせいだ。腕輪を外そうと触れるが、取れない。
「では王城へ向かうか。」
ナンバリングされた仮面の2人が先頭で、騎士に引き立てられて王城へ向かう。徒歩なのですれ違う者達は何事かと、ヒソヒソと話し合っている。誰か助けて。視線を巡らすが、視線が合ってもすぐ逸らされる。私を助けてくれる者は居なかった。
城に着いて私達は玉座の間に案内された、そこには大勢の貴族が既に待機しており、上座の王は渋い顔をしていた。既に連絡は入れていたが、王も色々と覚悟する事が有っただろう。
「国際造幣局局長、ヴァナダンス•サーシュットだ。」
トップの仮面を付けていた私の上司、ヴァナダンスが仮面を外した。ヴァナダンスは見た目は子供の300歳を超えるエルフだ。エルフは普通森に住まう一族で、自然の少ない所には居ないとされている。
「オーパーツ研究所副所長、シューザにございます。」
私もサブの仮面を外す。私はどこにでもいる研究オタクの20代だ。ちなみにオーパーツ研究所は造幣局の下部組織、所長はヴァナダンスである。私達はオーパーツ研究所において特殊な過去から、重責を負っている。
「まずは国内の問題からどうぞ。」
私はスーベンさんに促した。スーベンさんは緊張した面持ちで汗を拭きながら出て来る。
「商業ギルド、マルシャット支部長、スーベンです。」
恐怖から声は震えているが、今回の件スーベンさんだけに責任を問うのはおかしいだろう、率先して懐にフタバ•アカリを入れたのは王族だ。
「雑貨屋ライトの店主アカリ•フタバは、今日まで約半年の間、商業ギルドに登録無く商売しておりました。確認したところ不動産売買店のニッサーナは店舗物件を売った際に、登録証の確認を怠り、我々も先々月に造幣局から連絡を受ける迄、未登録の営業である事を把握出来ておりませんでした。」
商業ギルドも営業自体は把握していた様だが、登録が無い事までは把握していなかった。全ての職員が1つの登録を行う訳では無いし、登録手続を行った職員も自分が登録した者を全て把握している訳では無い。まあ王室御用達の店がまさか未登録の営業だと誰も思うまい。
「よって、雑貨屋ライトは無期限の営業停止。不動産売買店ニッサも登録を取り消し、所有する不動産は相場の地代で他の不動産関係の商店に買い取らせます。」
雑貨屋の営業停止は当たり前だが。ニッサーナの方は随分痛手だ。安く仕入れて高く売るのが商売人。しかし物件が有っても支払われるのは地代のみ、大損もいいところだ、場合によっては買った土地をニッサーナが整備し建物を建て投資した土地も有ったはずだ。商業ギルドには二月前から調査に協力してもらっているので、事の重要さは解って重い処置に至ったのだろう。
「また、以後の商業利用される物件の取引については全て商業ギルドが立ち会いのもと取引を行います。そして、不定期に抜き打ちで商店へ登録証の提示を求め、登録証の確認も行っていきます。」
再発防止策も持って来てスーベンさんはしっかり出来た人だ。しかし商業ギルドも仕事が増えて暫くは忙しいだろう。
「では、以降はこちらから。」
今にも倒れそうな位真っ青になったスーベンさんには下がって頂き。どうせヴァナダンスは何もしないので、私が説明を始める。
「先にご連絡の通り、このフタバ•アカリの犯した罪は3つ。」
本来なら発言の前に王の許可等が要るらしいが、私やヴァナダンスには関係無い。私達はこの国の国民では無い。今日のこの場に限れば立場は上だ。
「ここ最近王都内の流通する金貨の枚数が著しく減っていた為、商業ギルド及び銀行の協力の下調査したところ、換金商が雑貨屋ライトで換金した証書のみが銀行へ預けられていないことが確認できました。また、銀行には雑貨屋ライトの口座もフタバ•アカリの口座もありません。商業ギルドに提出された、他商店の金貨の取引記録にも過不足無く。後は商業ギルドに登録が無く帳簿が提出されていない、雑貨屋ライトが得た金貨のみが所在が不明であると判明しました。」
そもそもヴァナダンスが造った金貨には色々と厄介な仕込みがある。その中に金貨に仕込んだ追跡魔法があり、何枚の金貨が消えたのか枚数がハッキリと解っている。残念ながらフタバ•アカリが王都から持ち出す瞬間は確認出来なかったが、金貨の使用を禁じている間に色々と調べが着いて消えた金貨は全てフタバ•アカリの元へ支払われたもので間違い無いという結果が出た。
「続いて、金貨の鋳潰しについては、先日のアーロン山で起きた山火事から発覚しました。」
そもそも、ヴァナダンスに気付かれずに王都から金貨を持ち出した時点で転移の魔法が使えるのは確定だった。
「火事の火元になった小屋にはエネルギーを発生させるオーパーツの残骸と、溶解炉のオーパーツの残骸が確認されました。これらは熱によって炭化した木材に着火した事が原因による火事だったと思われます。溶解炉は無人で稼働を続けていたのでしょう。」
溜息を吐きフタバ•アカリに視線をやる。何の話か解っていないのだろう。何せフタバ•アカリは金貨の換金が禁止されてから、王都を出ていない。それは造幣局の騎士が監視していたので間違い無い。アーロン山での火事の話しは知らないのだろう、聞いてもアーロン山がどこかも解っていなかったかだ。ちなみに今フタバ•アカリは喋る事は出来ない、ヴァナダンスが魔法で言葉も封じている。
「また、消火が遅れた原因である有毒ガスですが、あれは金貨から発生したものです。恐らく山小屋の内部には今まで溶かされた大量の金貨に内蔵されていた、毒ガスが溜まっていました。消火後の聞き取りで火事以前より山小屋の周辺で体調を崩す者があり、小屋の所有者も無断使用の抗議の為に何度も小屋に足を運んでおり、重い中毒症状が出ていました。」
鋳潰した連中がガスで動けなくなっているところを造幣局の騎士が一網打尽にする計画だったので、まさか希少な魔法である転移を持った者が、対応する結界の外に持ち出して、炉に放り込んだまま放置するなど想定していない。おかげでこの火事で消火活動に当たった若い男達が逃げ遅れ多数亡くなり。小屋から放出されたガスで麓の住民は軽い中毒症状を患う事になった。幸いフタバ•アカリがその小屋で金貨を鋳潰していた可能性に行き当たり、解毒剤を持って騎士達と駆け付ける事が出来たので、被害は少なく済んだ。もし金貨の鋳潰しが原因と解らなければ、解毒剤を用意する事も、騎士を派遣する事も無かった。恐らくアーロン山の麓の住人は誰も残らなかっただろう。
「そして最後にオーパーツですが、マルシャット王も、王妃もお使いですね?」
一番厄介なのはオーパーツ、異世界から召喚、持ち込まれた物品だ。どれだけ出回ったか知れない。危険性を説明しても利便性から手放さない者もいるだろう。王妃など私が声をかけると明らかに狼狽え、首元の宝石に手を触れた。
「そもそも、私達が今回の件に気付けた要因はこのオーパーツが流行っていた事です。」
魔力密閉を施した容器に入れた、化粧水を掲げる。研究所員から進められて驚いた。更に商業ギルドで魔力の回復薬の販売料を確認すれば、半年前から増加傾向にあった。今では1年前の4倍にまで膨れ上がっている。
「オーパーツ、異世界から渡って来た品には、魔力が含まれないものもあります。そしてそういった物は周囲の魔力を吸収します。しかしそれらには元から魔力を貯めておける機能はありませんので、吸収してもすぐに放出され。すぐに吸収を再開します。傍に置けば魔力が吸われ続ける事になります。」
これが物だけだったなら回収出来れば問題無かった。
「しかしこれが食物の場合は少し事情が変わります。食物の一部は体内に吸収されるのです。これによりオーパーツが体内に残ります。物品であれば、魔力を回復させれば問題ないのですが、食物の場合、吸収された事で、魔力の総量が減少し、尚且つ魔力が吸われ続け、放出され続ける為、重篤な魔力欠乏症から死に至ります。これは、一部の化粧品にも該当するでしょう。」
フタバ•アカリが貴族のパーティーでレトルト食品や缶詰、スナックを振る舞ってから、これらは貴族や王族に人気となり、大量に卸されていたと聞く。また平民の間でも手間が減ると人気だった。
「更にはそれらから出たゴミはどの様に処理されました?当然焼却されましたね?」
この世界の全ての物が自然由来なのでゴミは焼いて破棄するのが主流だが、異世界の物は一部化学製品で、焼却して破棄してはいけない物もある。
「それらは焼却処分すると毒素を放ちます。またこれらもオーパーツなので魔力を吸収します。」
詳細を説明しだしたらきりがないので簡単に済ませる。今後は焼却を禁じ回収していくしかない。王妃はいつの間にか首元の宝石を外していた。とりあえず焼却で発生した毒がオーパーツの性質も持っていてヤバいという事が伝えたい。
「以上からフタバ•アカリの身元は造幣局で預かります。またオーパーツの回収にはマルシャット国を上げて協力頂きます。」
王は無言でコクコクと頷く。
「では、この国への処分だが、」
漸くヴァナダンスが口を開く。空気がピリつく。各所でギルド登録証の確認を怠ったせいで、マルシャット国は国際的に危うい立場になった。
「まずは、フタバが鋳潰した金貨はマルシャット国が必要な材料を準備して、その代金を支払う事で造る事としよう。」
現在の貨幣のシステムはヴァナダンスが創り上げたシステムと、ヴァナダンスが造る硬貨が有って成り立っている。そして現在偽造対策された硬貨を造れるのもヴァナダンスのみだ。
「それから、火事の際の騎士の派遣費用と解毒剤の費用を請求しよう。」
本来解毒剤の費用は鋳潰した、貨幣損傷犯に請求するので、罰の意味も兼ねて材料は一級品を使っているので安くはない。
「それから、フタバが王都に来るまでに巡った場所にも赴いてオーパーツの回収を行うので、その際の我々オーパーツ研究所の職員の遠征費用も負担してもらおうか。」
ヴァナダンスは他に請求する物はあったかと思案する。そこへ雑貨屋内の捜索を任せていた騎士が、報告に来る。その内容を確認して今伝える必要がありそうな内容をヴァナダンスに伝える。ヴァナダンスは小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「マルシャット王よ。王室御用達にしたと言う事は記念の大金貨、フタバに渡したのだろう。雑貨屋からそれらは見付からなかったらしいが、どうする?」
どうやら騎士と私の会話に聞き耳を立てていたらしく、今は必要無い事を口にする。フタバ•アカリがそれまでも鋳潰した事は間違い無いだろう。ヴァナダンスはフタバの行為にご立腹で更に言えば、それを助長したこの国の王侯貴族にもキレている。
「ああ、最も大事な事を忘れる所であった。国際造幣局及びオーパーツ研究所はマルシャット国より、マーリン聖教国へ戻る。」
マルシャット国は漸く我々を誘致出来た所だった。ヴァナダンスがマーリン聖教国の上の連中と仲があまり良くなかった為に、マルシャット国に移ってきて3年と4ヶ月。マーリン聖教国の方はヴァナダンスの機嫌を損ねた上層部を排除して、去年から戻る事を求めていた。ヴァナダンスは渋っていたが、私や他の正規の所員からは、マーリン聖教国の方が研究設備が整っていたので、戻ろうという声は上がっていた。しかしヴァナダンスは独裁的な人物なので。それは叶わなかった。
マルシャット王は思わず玉座を立った。国内の法整備など、造幣局を誘致する為に尽力した彼はそれを成功させるに当たってどれだけ苦労したことだろ。
「待って下さい。それだけは、」
金銭的な賠償程度なら仕方ない位に思っていたのだろう。しかし、スーベンさんをわざわざここに呼んだのは、国自体の責任を問う為。
「しかし、オーパーツが国中に流通する事になったのは、マルシャット王や、マルシャット国の貴族達が大きな原因だろう。更に誘致の際の約束は守られていなかった。」
ヴァナダンスは盛大に溜息を吐いて見せる。
「ロシマルス卿。卿が最初にフタバ•アカリと接触した貴族だが、これは卿になんと身元を偽った?」
全て調べがついているが、ヴァナダンスは集まった貴族達に声をかけた。ロシマルス卿の事は把握していないが、この状況で出て来ない訳が無い。
「御前に失礼いたします。」
ロシマルス卿が人混みから出て来た。青を通り越して白い顔で。
「アカリ•フタバは国を追われて来たと言っていました。継承争いに因るもので、貴族位は捨てて来たと。出身は東の国だと。」
ヴァナダンスは再び溜息を吐く。心底馬鹿にしている。
「卿はそれを信じたのか?調査は行ったんだろうな?傍に置くなら身元の確認は必須だ。支援するなら尚更な。そもそも東の国とはどこだ?勿論把握しているな?」
ヴァナダンスの問にロシマルス卿は答えられなかった。便利な品々に目が眩んで必要な事を怠った。
「では、アンバーム卿。卿は答えられるな?ギルド登録証の確認は怠った様だが、貴卿が王族にフタバ•アカリを紹介したのだから。まさか身元の不明な者を王城に招き入れるような真似、忠臣ならするはずがない。」
ヴァナダンスは次の獲物に矛先を向けた。アンバーム卿は呆然となり出て来れなかったが、そこは人垣が割れて、こちらも蒼白となっている。
「これはこれは、とんだ忠臣だ。ではマルシャット王よ。貴殿が答えてくれるのだろう?ギルド登録証も確認せずに、別の登録証を持っている商店を王室御用達から外してまで、王室御用達に指名した商店だ。フタバ•アカリの方はその証を溶かしてしまった様だがな。」
王も答えられない。だって、フタバ•アカリが明かした身元は嘘だ。恐らくフタバ•アカリは名前が珍しい事と容姿がこの辺ではあまり見かけ無い事から、元の世界でもよく聞く東の国の出身としたのだろうが、この世界のどこを探しても、フタバと言う姓を持つ一族もアカリという名を持つ者もいない。更にその容姿もこの辺りにはいないが、寒い地域の者には少なく無いので、北と南には逆に多く居る。
「気付いていて、放置したのではないか?フタバなんてどこの国の貴族の姓だ?」
全てを覚えている者はいないから、答えられる者などいない、私達は調査中にマーリン聖教国に問い合わせたので、居ない事を把握している。
「このフタバ•アカリは転移と異世界転移の希少魔法が使える。異世界からの転移者。こちらとあちらを行き来してあちらの物をこちらで売り捌いていたに過ぎない。恐らく鋳潰した金貨はあちらで売って、現金に替えていたのだろう。店の品物の多くがあちらでは林檎2つ程度の価値の物だった。」
林檎とは、こちらの世界の林檎で、赤くもなければ、ガリガリに痩せた樹の実だ。店先で確認したがほとんどの物に100円ショップのロゴが入っていた。そしてそれらは本来の価値の10倍程度の価格で売られていた。
「わざわざ、我々を呼び付けてこの程度の管理能力では話しにならんな。」
恐らく王は気が付いていて、放置した。便利であるという事はそれだけで、人間を駄目にする。王であればマルシャット国より東の国にフタバという貴族の家があるか確認するのは難しく無かったのだから。
「ただ、呼び付けておいて良かったな。もし我々が居なければ、マルシャット国は地図から消えていたぞ。」
ヴァナダンスは悪役のごとく高笑いをする。怒ると嫌味な性格に拍車が掛かる。王都内の金貨が尽きなければ、それは間違い無いだろう。しかし金貨が尽きた後であれば、多くの者が魔力欠乏症にかかり、マルシャット国は金貨の代金を支払えず破産していただろう。
「以上だ。オーパーツの回収に付いて王都内の取り引き分は貴殿達で集めてくれ、ロシマルス卿の領地までの回収の旅程は後程連絡する。」
本来ならあり得ない位に横柄な態度でヴァナダンスは玉座の間を出て行く。
「局長。仮面を、」
私は自分の仮面を着けながら、ヴァナダンスの後を追う。ヴァナダンスは私の言葉に従い仮面を着けてくれる。その私達の後をフタバ•アカリを引き立てて騎士達が追ってくる。
次話は明日の20時更新します。




