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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Apple eat

作者: 弐兎月 冬夜

 クラッシックな調度品が部屋の雰囲気を古めかしい物にしている。

窓には日焼けたレースのカーテンから漏れる陽光の中で埃がキラキラと舞っている。壁には幾つもの棚が並び、そこには真っ赤なリンゴが入った大ぶりのガラスの瓶がいくつも置かれていた。

 リンゴは捥ぎたてのように生き生きとした色をしたものもあれば、実全体が腐りかけて形を保てなくなったものもある。中の液体は、透明な物や赤く染まった物、やや琥珀色に染まっているもの・・様々な色がついていた。

 その壁を背にして大きな安楽椅子に腰かけたまま、その男はうっとりするような眼差しでワイングラスの中を見つめている。中には一つの瓶から注いだ琥珀色の液体が、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

「エデンにあった禁断の実がリンゴだったのかどうかは置くとして、人間の心臓はリンゴとよく似ていると私は思う。リンゴの赤い実は血の色に似ているし、熟れた実がその芳香を漂わせると、罪の香りが漂う所もそっくりだ。そして甘美で素晴らしい芳香を放つ高級な味わいの酒になる。」

 男はワイングラスに口をつけ、少しだけ飲む。

 頬が薄く染まり、見開いた眼が歓喜に震えていた。

「さて、今夜もカモが・・失礼。お客様がおいでのようです。」

 男はどうしようか少しだけ迷ったようだが、残りのワイングラスの液体を一気に飲み干すと、おもむろに立ち上がった。


  ********



 彼の名は賽烏克蘭(さいう かつら)という。まだ若い。

 入社して4年目の彼は、とある建設会社の設計士である。大きな企画に抜擢されたものの、上司からイジメを受けて苦しんでいた。今日はプレゼンテーションで、役員たちの前でプレゼンを行ったのだが、数多くの不備を突かれ、企画そのものがポシャってしまった。そしてその全責任を彼に押し付けられたのである。彼はダメ社員の烙印を押され、いずれは閑職へと回されるであろう。

 その全ては上司の露西甘人(つゆにしあまと)が仕組んだことだった。

企画をダメにした張本人が何を考えていたかは知らないが、会社の社長の息子である彼にとってはただの遊びだったのかもしれない。こんな手で彼は幾人も会社の若手を葬ってきたのだ。


 当てもなく歓楽街をうろついていた賽烏は、いつしか路地裏に迷い込んでいた。そしてぶら下がっていた古い木製のリンゴの看板に心惹かれた。


 その看板には筆記体で<Apple eat>と書かれていた・・。


きっと薄汚れた場末のバーに違いない。ひょっとしたら()()()()()()()かもしれない。けど、彼にはそんな事はどうでも良かった。見るからにヤバそうな雰囲気の扉を開けると、中は意外にシックな佇まいのこじゃれた店だった。周りを見わたすと数人の酔客が楽し気に談笑している。

 賽烏はカウンターに座ると、ダブルのバーボンを立て続けに3杯飲む。アルコールが喉を焼き、炎を吐くような痛みが襲う。彼は呪文のように「コロシテヤル・・」と呟きながら4杯目をバーテンに頼んだ。


「随分お困りのようですね。私で良ければお力になりましょうか?」

 そっと肩に手を当てられた賽烏が振り向くと、そこには身の丈3mほどありそうな巨人が彼を見つめていた。

 いや、それはアルコールのなせる業だ、店の天井も天空まで届きそうな高さになっている。それは一瞬の事・・・。今は普通の風景に戻っている。

「い・・いえ。何でもないです。」

バーテンダーが差し出した4杯目のバーボンを一気に飲む。どうでもいいと思っていたのだが、体の方はずっと正直だった。全身に緊急信号を発していた。賽烏は「お勘定。」と言ったが、隣の男はバーテンダーを制した。

「私が払いますよ。」

 男は賽烏の隣に腰を下ろした。

そして「同じものを。」とバーテンダーに頼むと、指を二つ立てた。

 二つのグラスが二人の前に出ると、男は片方のグラスを持って置かれたグラスにこつんと当てた。

「お近づきの印です。」

 その男はグラスの中の液体を一気に飲み干すと、今度はジンライムを頼んだ。

 最初大柄に見えた男は、思ったより小柄に見えた。この陽気にフロックコートを着込んだままでいる。そして黒の山高帽を脱ぐと、それをそっとカウンターへ置く。

 髪は白髪で鼻筋のスッキリした秀麗な美男子である。若くも見えるが老人のようにも見える日本人のようでもあり、外国人のようにも見える。白髪と堀の深い顔立ちがそうさせるのだろうか? 


「あの・・どういう意味ですか?」

「誰かを殺したいほど憎んでいらっしゃる。」

 男はチラリと賽烏を見る。

「・・こ・・殺し屋?」

 賽烏は思わず呟く。

「違いますよ。」

 彼はジンライムを少しだけ飲むと、お通しのナッツを摘まんで口に放り込んだ。

「自殺でもするつもりですか? お止しなさい、自殺してもアイツは痛くも痒くもありませんよ。あなたの周りが苦しむだけです。」

 確かにその通りだ。イジメの加害者は苦しまない。苦しんだとしてもそれは被害者のせいだと思うだけ。

 かと言って、犯罪者になる勇気も賽烏には無かった。

「アイツを殺しても罪には問われず、誰もが貴方のしたことを肯定してくれればいいのになあ。と、貴方は思っている。」

 賽烏は心の中を見透かされたようで背筋に冷たい物が走った。

「ふふ。そんな都合のいい事、出来ませんよね。」

「出来ますよ。」

 彼は事も無げに言った。

「例えば、貴方が勇者で()()()が魔王なら、魔王を殺せば誰もが勇者に拍手喝さいを送るでしょう。」

「はぁ? それって流行りの転生モノの話ですかぁ。」

 賽烏はバーボンのグラスを掴むと、じっと見つめてため息をついた。一瞬彼に期待してしまったのだ。そしてそのバーボンを一気にあおると、グラスをテーブルに置いた。

「僕は帰ります。・・・何をしているんですか?」

 彼は小瓶の液体を空になったグラスへと注いでいた。

 そして、さあと手を差し伸べる。

「これをお飲みになれば貴方の願いは叶うでしょう。ですが・・・これを飲む前に私と()()()()を結んでいただきたい。」

 賽烏は立ち上がりかけた腰を椅子へと降ろした。

 少しだけ興味が湧いたらしい。

「どういう意味ですか?」

「・・そのままの意味です。私が貴方の願いを叶える代わりに、貴方は貴方の心臓を私に譲ると約束してくれればいいのです。ただそれだけです。」

「心臓? ははは。僕が死ぬじゃないですか。」

「いいえ。」

 彼の目は真剣だった。

「ただしゲームの世界のように都合よくは行きません。ですが、あなたの望みは必ず叶います。そして出来るだけ長く、長~く生きてください。これは私からのお願いです。」

 賽烏は注がれた液体を見つめた。

赤っぽい色の液体は、ワインのようにも見えるが・・なぜか薄く白い靄のような物が不規則に蠢いている。酒ではなさそうだった。

「これを・・飲めば・・ですか?」

「ええ。」

 賽烏は震える手でグラスを掴んだ。

 すると、その手を彼が掴んだ。

「”心臓を私に譲る。”と約束してからです。」

 賽烏はもうどうでも良かった。どのみち、これから自殺するつもりだった。

「分かりました。僕の心臓を貴方に譲りましょう。」

 彼の手の力が緩み、そして離れた。

「約束ですよ。」

 にっこりと笑う彼を横目で見ながら、賽烏はグラスの液体を一気に飲み干した。


  ********


(さぶ)ぅ!!」

 突然見開いた目に映ったのは、真っ暗な夜空に恐るべき数の星が瞬く景色だった。

背中の感触は冷えた地面だった。よくは見えないが僕は掘った地面の穴の中にいるらしい。強烈な寒さに凍えながら眠っていたのか?

「ここは・・どこだ?」

僕がそうつぶやいた瞬間、誰かが僕の襟首を掴んだ。

「バカヤロウ! 死にたいのか! 早く来い!」

 星の灯りで何とか見えたその男は見慣れぬ外国人の兵士だった。

(いや、オレはこいつを知ってる。○×だ。)

「どこか、撃たれたのか? しっかりしろ!」

 ○×はオレを揺さぶった。僕は大丈夫だと○×に告げた。もちろん日本語じゃない。聞いたことのない言葉。だけど理解し話せた。まるで都合のいいゲームの世界のようだ。

 音が遠くから蘇ってくる。

風を切る砲弾の音。近くや遠くの炸裂音。銃声、機銃の音。叫び声!

(ここは!? せ・ん・じ・ょう??)

 銃弾が僕の頭の側を掠めてどこかへ飛んで行った。

「走れ!」

 ○×は先に立って走り出した。姿勢を低くしたまま走る。曳光弾が時々辺りを照らし、銃弾が頭上を掠めて行く。

 遮蔽物の無い平原の中は塹壕だけが頼りだ。そこで応戦した方が・・そう言おうとした。けれど、さっきまでいた塹壕に火柱が立った。

「仲間が!!・・」

(だれだ・・仲間って・・?)

 暗闇に時々放たれる曳光弾の灯りで、草原の先に小さな小屋が見えた。○×はそこへ向かっている。砲撃には耐えられないが、銃弾くらいはしのげるだろう。敵は近づいている。捕まれば銃殺だ。やつらは捕虜を取らない。

 このままでは捕まってしまう。戦局は圧倒的にこちらが不利だ。

 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!!

小屋の影には窪地があるし、川もある。川に入れば逃げられるかもしれない。


 ○×は小屋の壁にピタリと体を寄せた。

  中で物音が聞こえた。

「俺が援護する。中を・・。」

 ○×が必死の形相で僕に指示した。

 僕は躊躇なく壁伝いに入り口に向かう。崩れかけた木のドアと蹴飛ばして中に入ると、そこには敵兵がいた!

「銃を捨てろ!」

僕が言うと、敵兵の男は怯えたように持っていた銃を捨てた。

(え?)

「たたた、助けてくれ! 撃たないで!」

怯えた目で僕を見る敵兵の顔は良くは見えなかったが、どこかで見た顔のように思えた。

「こんな所で捕虜にでもする気か! さっさと、撃て!」

 ○×が鬼のような叫び声を上げた瞬間、近くに落ちた砲弾の炎でアイツの顔が見えた。

「わ、わ、やめてくれ! 撃たないで! 俺は日本人だ! 俺を殺せば国際問題になるぞ!!」

 僕が知る外国人の顔の作りではない。

「何をやってる!」

 そうだ。

「お前か・・。」

 怯えた目をしてブルブルと震える()()()は、僕の顔を見た。

 そして気づいた。

自分自身でもこの顔がどうなっているのかまだ見てないのに。

「た、たすけろ。さい・・」

 僕は引き金を引いた。弾丸は胸に当たった。

 ()()()ははでに吹っ飛び、仰向けになった。

(こんな所でも僕に命令するんだな・・)

「バカ!! そいつは死んでない! アーマーだ! 頭を・・・!」

 ○×がそう言った瞬間、風を切って飛んできた銃弾が○×の首を貫通した。

 ○×の血が僕の体に降り注いで、○×は二度と喋らなくなった。

僕は平気だ。信じられないほど落ち着いていた。弾丸が時折壁に当たっても驚きはしなかった。

 なぜならここは戦場だからだ。

 僕はアイツの頭を踏みつけて、銃のレバーをフルオートに入れる。

「・・・や、やめてくれ・・。お願いだ。」

 引き金を引くと、ほんの数秒、フルオートで弾丸が()()()の胸に降り注ぐ。

 カートリッジを入れ替えて、更に全弾を撃ち込む。


 そして()()()も喋らなくなった。

僕は引きつるように笑いだし、また撃つ。もう弾丸はいらない。熱くなった銃身で、何度も何度もアイツを突いた。

 もう何も聞こえなかった。

 僕は・・・。


  ********


 まるで捧げものでもするように、男は両手に包むように持った真っ赤なリンゴを液体の入った瓶の前に持ってきた。男の口元はニヤニヤとしていて上機嫌だ。

 そぉーっと、そぉーっと真っ赤なリンゴをうやうやしく瓶の中へと落としてゆく。

 リンゴは万有引力の力によって瓶の底まで辿り着くと、ゆっくりと浮かび上がり、瓶の中ほどで制止した。

 瞬時、リンゴが鼓動したように動く。

 液体がわずかに波立ったが・・気のせいだったのか・・。

「これはいい酒が出来そうです。楽しみですねぇ・・。狂気、絶望、悲哀、憎悪。とても素晴らしいスパイスです。」

 うっとりとした瞳で、男は瓶を見つめている。

そして思い出したように金属の蓋を閉めると、慎重に慎重にその瓶を棚に納めた。

 男は「ククク・・」と密やかに笑うと、その部屋を後にした。

 扉を閉めようとして気づいたように・・・

「え・・? 私が悪魔? 違いますよ。私はメフィストフェレス。ただの酒好きな平凡な男です。」

 そして密やかに扉は閉められた。

 挑戦状を受け取ったぁぁぁあ!!


 プロではないけど。


 ささらっとした、もやもあやああっとした設定で小説って書けるの?


書けます。 プロではないけど。


「悪魔のような人物。」

「人間の臓器を時間をかけて食べる。」


この程度と言われるかもしれんけど。


 では次の挑戦をお待ちしておりますぞ。

 (忙しいけど。。。)

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