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番外編 ペチニア王国伯爵家当主 マリオ・フェルベッキオ



「ふう……」


 深夜。

 マリオ・フェルベッキオは、執務机の椅子に腰をドサッと下ろした。


 非常に疲れた様子である。いつもの彼らしくない反応であり、机越しに相対している若いメイドには珍しく思えた。


「……お疲れですか、当主様?」

「止せ。メイドの真似なんかしなくていい。ここには二人しか居ないからな」


 そう苦笑しつつ、マリオは机の上に煙草とマッチを用意して、口に煙草を咥えると点火したマッチの火を点ける。

 煙を吸って、しばらく味わっていると、ふと思い出したように口を開く。


「……ドラゴンハンターとはな」


 マリオは、先ほどまでのアリティーナとの会話に思いを馳せる。


「……彼女は、本当にそんなことを?」

「事実だ。信じられない気持ちは分かるがな。私も到底信じないだろう――普通なら、の話だが」


 実際、それぐらいアリティーナの言葉は荒唐無稽だ。まさか、二十年も前に戦死したドラゴンハンターの魂が、一人の少女に取り憑いたなどと、誰がまともに受け止めるか。頭がおかしくなったと考えて当然である。

 だが、それは普通の場合の話である。


「――何しろ、モノがモノだからな」


 マリオは、思い出していた。

 あの地下室に封印されていた、因縁深き代物を。


「――それで、例の物はどこへ運んだんだ?」

「もう間もなく、王都へ到着するかと。しかし宜しかったのですか? あのような物を王都へ運ぶなどと」

「構わん。そもそも押しつけられたような物だ。あんな物のせいで今回の件が起きたのだとすれば、国には責任を取ってもらわんとな」


 忌々しげにそう吐き捨てる。

 マリオは、二十年前のことを思い出していた。


 二十年前――ドラゴンたちの王が抹殺され、ドラゴンの滅亡が迫ったあの頃。

 本来なら英雄として讃えられるはずだった戦士たちを、王国は裏切り、汚名を着せ、そして皆殺しにした。

 これは、王国でもごく一部、王国の大貴族すら中々知らない事実である。事が事だけに、隠蔽は慎重に行われた。

 だというのに、伯爵家当主でしかないマリオが知っているのは、理由があった。


「――当主様」


 そんな物思いを知ってか、メイドが意味ありげに尋ねてくる。


「仮に、もし――お嬢様に取り憑いているというドラゴンハンターがあの男なら、どうなさるおつもりですか?」

「どう、とは?」

「嫌ですわ、分かっているはずでしょう?」


 そうメイドは、面白そうに笑って告げた。




「二十年前、ドラゴンハンターたちを襲撃し、皆殺しにしたのはあなたじゃないですか。マリオ・フェルベッキオ様」




「……二十年前も前の話だ」

「ですが、彼にとってはつい先日の話のようですが」


 そんなことは、このメイドに指摘されずとも理解していた。


 二十年前、ペチニア王国軍対ドラゴン特別重装兵団、通称ドラゴンハンターたちを抹殺したのは、その指揮を執ったのは間違いなくマリオ自身だった。あの様子だと、アリティーナは知らないようだが――もし知れば、どうするかは彼女次第だろう。


 何にせよ、マリオはアリティーナとの約束通り彼女への支援を行うつもりでいた。彼女を鍛えるための専門の家庭教師も、回復術師も、そして勿論淑女教育の教師も選りすぐりを選ぶ必要がある。大忙しだ。


「では、私は旅立つぞ。後のことは任せた」

「あれ、こんな夜更けに出立ですか?」

「仕方ないだろう。孫娘に頼まれたからな。それに、他にも行かねばならない理由がある」

「理由? なんですか?」

「決まってるだろ。あんな物を隠していたことがバレたらまずいからな。色々と根回しする必要があるんだ」


 ああ……と納得した様子のメイドを無視して、マリオは部屋の外で控えていた従者を読んで外套を着せて貰った。


「では、私は行くが――後は任せたぞ」

「勿論です。この家のことは母の代から受け継いだ使命。見事こなしてみせましょう」

「はん。そんな風にやたら仰々しいのも親譲りだな。とにかく、今はアリティーナのことを監視しておいてくれ。必要なときは――分かるな?」

「当然です」


 そう返事をしながら、メイドは顔までかかった長くて黒い髪から、栗色の瞳を覗かせる。


「大した者だな。頼んだぞ――ミリア」


 そう呼ばれ、ミリアと呼ばれたまだ若いメイドは、アリティーナを甲斐甲斐しく世話するときには決して見せない、冷たい笑顔をしつつ敬礼した。


「お任せください。いざという時は――あんな子供、この手で始末いたします」

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