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第二十一話 黄金の薔薇(2)

「……光属性、か」

「あれ、驚いてない?」

「いや驚いてはいるよ? でも、なんとなくそんな気はしてたからな」


 もっとも、ティナとて根拠があったわけではない。ただ、パウラの魔術を見てそう考えただけだった。


 光属性とは神話において、世界が生まれたばかりの頃神と悪魔が対決し神が勝利した際、世界を統べる人類に神がもたらしたとされる光の力のことだ。


 その光は、あらゆる邪悪な力をも跳ね返し、いかなる傷や病も癒やし、そして自らの力を他者へと与えることも可能だという。今世界に存在する魔力は、神より血刈りの力を与えられし者が人々に分け与えた結果広まったと神話には記されている。


 とはいえ、これはあくまで神話であって所詮は御伽噺――のはずが、その御伽噺にある光属性がこうして現実に出てきてしまっているわけだ。


「しかし……その光属性を、どうしてパウラが持ってるんだ? パウラは平民って言ってたけど、もしかして貴族のご落胤とか?」

「まさか。私の両親は田舎暮らしの平民よ。――とっくに死んだけど」

「そうか。それじゃいったいどうして……」


 そう尋ねると、パウラは苦笑する。


「アンタ、やっぱどこか無神経ね。普通、家族が居ないって言われたら謝罪するもんだけど」

「え? そうなのか……悪い。どうもそういうのには疎くて……」

「別に良いわよ。そんな反応飽きてるくらいだし。で、話を戻すけど、私には元々高い魔力があってさ。それで村で治癒魔術を使ったり魔物退治の手伝いしたりして、まあ細々と暮らしていたのよ」


 魔力とは、平民の中には貴族しか持っていないと勘違いする輩も多いが、実際は魔力だけなら誰でも持っている。と言っても量の差はあるし、きちんとした教育を受けないと所有している魔力を魔術として行使できない。だから、平民は魔術が使えないのが当然とされる。

 ただし、ごく希に平民でも高い魔力を生まれながらにして持っている者が生まれるという。そのような者たちは、自然とごく簡単な魔術を行使することがあると家庭教師の授業で習ったことがあった。


「でも……その村が魔物の襲撃に遭って、全滅してね。私は助かったけど、家族と村の人々は……」

「それは……すまない」

「ちょっと、ここでは謝罪しなくて良いわよ。もう五年も前の話だし、とっくに振り切ってるって。で、私は王都に来て治癒魔術師としてスラムで働いてたのよ」

「? でも、そんな腕の立つ治癒魔術師なら普通のところでも働けるんじゃないのか?」

「何言ってんの。私みたいな平民の流れ者、雇ってくれる場所なんか無いわよ」


 実に言うとおりだった。治癒魔術師が必要とされるのは、勿論病院や軍の医務官というところだろうが、どれもこれも身元がはっきりしない平民なんか入れてくれないだろう。スラム街に流れたのは、やむを得ない話だ。


「まあ、幸いここの人たちに良くしてもらって今まで生活してたんだけど……一ヶ月くらい前かな。私の所に、この国のとある大貴族――元老院だっけ? そんな人が訪ねてきたの。君は伝説の、光属性の魔力を持つ人間だって」


 つまり、その時までパウラ自身知らなかったということらしい。まあ、光属性がどんな力か、ティナも伝承でしか知らないし平民はその伝承すら聞く機会は少ないし気付かなくて当然だろう。


「でも、どうしてその貴族とやらはパウラの存在に気付いたんだ? 本人ですら分からなかったのに」

「なんでも、ずっと前から光属性の魔力持ちを探していたみたい。どうしてだかは聞かせて貰えなかったけど、そこで平民の街で噂の回復魔術師を見つけ出したって」


 あくまで伝説上の存在にもかかわらず、そんな草の根を分けて探すのも変な話だ。それとも、王国には実在する証拠でもあったのか、あるいは是が非でも探し出す理由があったのか。気になるところだ。


「なるほど。で、その貴族がわざわざ訪ねてきてどうしろって言うんだ? 光属性の魔力持ちを見つけて何がしたい?」

「……ラアス王立学園に、入学しろって」

「は? あそこ貴族専門だろ?」


 ティナは驚いてしまう。


 学園の話は、ドラゴンハンター時代も聞いていた。なんでも王都ラングの傍にあるドデカい施設は、世界最高規模の学園でペチニア王国以外の二カ国からも生徒が集まるが、入れるのは貴族のみであると。ほぼ平民出身だったドラゴンハンターの戦士たちには関係無いと悪態を付いていたのを覚えている。


 そこに入ってきたのは、今まで沈黙を守っていたミリアだった。


「いいえお嬢様。平民でも入れる方法はあります」

「え、ホント?」

「正確には平民ではありませんが。優れた魔力持ちの子供が、貴族の養子になる場合です。どの家も魔力量の高い血は入れたがるものですから、それほど珍しくもないらしいですね」


 魔力量とはその人間が体内に溜めておける魔力の限界のこと。当然高ければ高いほどいいのだが、これは生まれつきで増やしたり減らしたりすることは不可能と言われている。

 故に、魔力量の多さは魔術師にとって必須。貴族が貴族間で婚姻するのは、高い魔力量を維持する為もあるが、貴族同士結婚すれば子供も高いとは限らず、個人差は大きいという。


 だが、逆に言うと平民でも魔力量が高い者が生まれることもある。そのような優れた素質を持つ子供は、貴族にとっては有益な存在である。そのような子供が見つかると、貴族が養子に迎え入れるということはあると授業で習ったことがあった。


 では、パウラもそうした理由で養子になったのだろう、と思ったが、よく考えてみるとおかしかった。


「……あれ? なんでスラム街で暮らしてるんだ? 貴族の家に入ってないのか?」

「入ってないわよ。私は平民のまま学園に入学するの」

「はあ?」


 意味が分からなかった。伝説の光属性なんて騒いでおきながら、どうして家に入れたりせず平民として入学させるのか。ティナのみならずミリアも困惑する。


「その人が言ってたのは、下手な貴族の家に入れると、後々面倒だからって……絶対騒ぐ輩が出てくるとか……」

「騒ぐ輩が出てくる……? どういう意味かな、ミリア?」

「……もしかすると、伝説の光属性の魔力を持つ娘が家に居ると喧伝し、貴族社会で力を付けることを目論む輩がいるということではないですか? 光属性とは、世界を作った神の力のことですから」


 なんだか卑しい話だった。政治に疎いティナやパウラには難しい話だったが、ミリアの説が正しいとなると確かに自分の家に入れろと騒ぐ奴が出てきても不思議ではない。それを避けるため、敢えてどこの家にも入れないことにしたとすれば仕方ない話の気もした。


「しかし、そうまでしてどうして学園に入れたいのかね? それだけ面倒ごとが起きることを懸念しているなら、いっそ入れなきゃいいのに」

「……分からない。私も嫌だったけど、スラム街の整備をしてくれるって約束してくれたから……」

「……え? その方は、それほど高位の貴族様なのですか? 王都の整備なんて、王族と元老院の許可なしで勝手に出来ることではありませんよ?」

「あ、いやその……」


 ミリアの指摘に、どこかしどろもどろになってしまう。どうもその相手というのは、隠すべき人物らしいがよほどの大物なのだろうか。


「と、とにかく、私は学園に入らなきゃいけないのよ。その後で、詳しい話はしてくれるそうだけど……何か、大事な役割があるってことだけは教えてくれた」

「大事な役割、って……」


 伝説の光属性、神の力を必須とする役割とはなんだろうか。どこか嫌な予感がしてならなかった。


「まあ、私の話はだいたいしたということで……それでさ、アンタの話も聞いていい?」

「え、俺の話って? 別にパウラほど話すようなこと無いけど」

「いやいや、いっぱいあるでしょ!? あの巨大な箱とか、ドラゴンが復活してたりとか!」

「ああ、それか……」


 聞きたい気持ちは理解したが、ティナとしては困ってしまった。


「悪いが、俺も知らないことも多いし、話せることは少ないなあ。ドラゴンに関しては、どうして生きていたのかも全然……でもまあ、話せることは話して良いけど」

「お願いよ。話してくれたら治療費はタダで良いし」

「え、金取るの?」

「当たり前でしょ! 光の力だって使えば体力使うんだから、ただでやってたら身が持たないの!」


 光属性も大変だなあと思いつつ、ティナは苦笑した。


 別に話も何も無くても、報酬は勿論支払うつもりだった。当然フェルベッキオ家の金になるが。

 あと一週間も無い、学園生活の始まりに間に合わせるよう、パウラの力は必要だったから。


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