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第十八話 ドラゴンを狩るもの(5)

 DHW-07、通称パイルバンカー。杭打ち機と呼ばれるそれは、一言で言えば強烈な勢いでドラゴンの牙を打ち込む機械のことである。


 基本的には、加工されたドラゴンの牙を箱の中に収納し、その中に別に魔石も入れる。

 この魔石には、ある魔法陣が刻印されている。通常魔術は魔術師が呪文を詠唱するか魔法陣を書かないと使えないが、魔石に魔方陣を刻印すると、ただ一定の魔力を注ぐだけで魔術が発動する。

 

 このパイルバンカーに搭載された魔石に刻まれているのは、爆発の魔法陣。エクスプロージョンと呼ばれる、対象を爆発させる炎系魔術の一種だった。

 要は、杭打ち機の内部で魔石によって爆発を起こし、その衝撃でドラゴンの牙を凄まじい勢いで打ち出すというのがパイルバンカーの基本的な構造である。


 そんな荒唐無稽と言っていい無茶な代物であるパイルバンカーを手に、目にも止まらぬ速さで駆けると、アリティーナはあっという間にドラゴンへと肉薄した。

 ドラゴンの一匹が、悲鳴を上げることすら許さぬ刹那に、アリティーナはパイルバンカーの先端をドラゴンの胸元――『ドラゴンの心臓』がある場所に突き刺すと、


「死ねえ!」


 と叫ぶと同時に、トリガーが引かれ、

 アリティーナの体が、パイルバンカーごと後方へ吹っ飛んだ。


「ぐおっ!?」


 アリティーナはポーンと勢いよく宙を舞い、やがて地面に落下する。


「は、はい!?」


 一瞬何事が起きたか分からず硬直していたパウラも、アリティーナが墜落すると慌てて駆け寄った。


「ちょ、ちょっと何起きたの今!?」

「……やっぱ、この体じゃ勝手違うわ」


 抱き起こされながら、アリティーナはそう独りごちた。


 当然の結果ではあった。今の彼女は、アリティーナという少女の身でしかない。いくらかつて最強のドラゴンハンターであったとして、条件が何もかも違う。同じような感覚で打ち込まれたとして、言うことを聞くとは限らない。今のは、魔石とパイルバンカーを打ち込む間を会わせるのに失敗し、爆発の力が変な方向に行ってしまいアリティーナの体の方が飛ばされてしまったのだった。


 我ながら馬鹿みたいだなと苦笑しながら立ち上がろうとするが、フラッと意識が途切れる感覚がしてパウラに支えられてしまう。


「だ、だから無理だって! アンタの体はとっくに限界越えてるのよ! 魔力だって尽きかけてるのに、それ以上は……」

「……パウラ、頼む」


 必死に止めようとするパウラに、アリティーナは頼み事をする。


「な、何よ?」

「魔力……俺に与えられるんだろ? いずれ礼はするから……貸してくれ」


 え、と黙ってしまうパウラ。そんな彼女の襟元を掴み、アリティーナは再度懇願した。


「頼む――誰にも言わないから……今は、力を貸してくれ」


 そう心の底から願うと、パウラも決意を固めた顔をする。


「――分かった。でも、私だって限界はある。これ以上は無理だから」

「分かってる。時間はかけないよ」


 どういう理由かは知らないが、パウラは先ほどのバリアだけでなく、自分の魔力を相手へ譲渡することも出来るらしい。そんな魔術、ドラゴンハンター時代は聞いたことが無かった。


 あるとすれば、伝説の……とまで考えて、頭を振る。今はそんなこと、気にしている暇は無い。

 ドラゴンたちが、こちらがやはり限界であることに気付いたのか、ゆっくりと迫ってきている。パイルバンカーへの恐怖はあるらしく、警戒しつつなのが幸いした。


 パウラは、両手を会わせこちらに翳すと、そこから光が漏れる。

 さっき見せた光より強い――そして温かい光。

 優しく、包み込むような光を浴びていると、アリティーナの枯渇したはずの魔力が満ちていくのを感じた。


「――ありがとう。もう大丈夫だ。お前は下がってろ」

「え、でも――」

「いいから離れてろ。まだ扱い慣れてないから――お前が死ぬリスクがある」


 え、とパウラが思わず後ずさったのを確認すると、アリティーナは立ち上がってパイルバンカーを片手に握りしめる。

 グリップを力強く掴み、アースドラゴンたちへとニヤリと笑いかけると、


「――ふん」


 と、鼻を鳴らし、パイルバンカーの先端を自分の後方へと向けると、

 バガァン、という轟音が鳴ったかと思えば、アリティーナの体がアースドラゴンたちの眼前に飛んできた。


「ガッ!?」


 いきなり目の前に現れた敵にアースドラゴンたちが愕然とすると、アリティーナはパイルバンカーを持ち上げドラゴンの顔面に突きつけ、


「そぉらぁ!」


 とトリガーを引き、ガキィンという爆発と杭がドラゴンの額に打ち込まれた激突音が響く。

 ドラゴンの頭部が破砕され血肉が飛び散ると同時に、強烈な爆風がパイルバンカーの後方から排出された。


 頭部を失ったアースドラゴンだが、ドラゴンはそんなものでは死なない。目も吹き飛んだが、なんとか手探りで自分の顔を破壊した相手を叩き潰そうとするが、


「っとお!」


 その寸前で、またしてもアリティーナはトリガーを引く。

 またアリティーナとパイルバンカー自体が吹き飛んでドラゴンたちから離れていく。今の一撃では、パイルバンカーの後方からは爆風が出ていなかった。


 実は、パイルバンカーは内部で爆発を起こしその爆風によりトリガーを打ち込む構造になっているが、ただ爆発させるだけでは余った爆風の力がパイルバンカーそのものを動かし使う者ごと吹っ飛ばすという欠点があった。それを回避するため、パイルバンカーの後部には爆風を排出する機構が搭載されている。


 が、初期型と呼ばれる試作段階のパイルバンカーの中には、この排出機構に不備があり打ち方次第で上手く排出されず結果飛んでいってしまうという欠陥があった。無論これは試作故の失敗であり、本来は改良されるべき代物だった。


 が、なんと一部のドラゴンハンターたちは、この欠陥を利用することを思いついてしまった。


 空を飛んだり高速で移動するドラゴン族も少なくない。当然、飛べなどしないドラゴンハンターたちへと何かしらを用意するはずだったが、待てない彼らはこの爆風に吹き飛ばされるのを利用して、空を飛んだり移動に使う術に使い出した。言わばパイルバンカー飛行術だ。


 無論無茶苦茶な使い方で軍は反対したが、他に方法も無いということでなし崩し的に利用され、改良型のパイルバンカーの一部はむしろこの飛行術を使えるよう、自分で調整できる仕組みになっていた。


 アリティーナというかつてドラゴンハンターだった少女も、当然この飛行術は知っていた。このパイルバンカーでそれが可能かどうかは、先ほど自分で確認済みだった。


 要は行きたい方向とは逆に、パイルバンカーを向ければいい。体にかかる負担は大きいが、構ってはいられない。

 アリティーナはもう一度、自分の背へとパイルバンカーの矛先を向ける。目標は正面、ドラゴンたちの一匹――今、逃げようとしている奴だった。


「……狩りは、背を向けた奴から仕留めるのが基本だよ」


 そう呆れ気味に呟くと、爆発音と共にアリティーナの身は弾き飛ばされていった。


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