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第十三話 出会い(6)

「ど、ドラゴンだあああぁぁっ!」

「助けてくれえぇっ!」


 スラム街に突如現れたドラゴンに、人々は慌てふためき悲鳴が響いた。

 廃屋同然の家を吹き飛ばし、地面を抉る五メートルはあろうその巨体に、誰もが怯えてしまう。

 いや、怯えていない者も居た。


「……やはりアースドラゴンか」


 目の前で暴れる黄土色の竜に対して、アリティーナは冷静に分析する。


 アースドラゴンとは、ドラゴン族の中でも中型の部類に属し、ドラゴン族の特徴である長い体に鋭い牙、強靱な鱗などは備わっているが、翼を持たず飛行能力は無い。それ故、地面を掘ってほとんどを地下で過ごす。その性質のため、同じドラゴン族や人間からは『モグラ』などと揶揄されることも多い種族だった。

 比較的に弱い部類のドラゴンだが、ドラゴン族最大の特徴である『ドラゴンの心臓』は勿論有しており、普通の武器では殺せないのは変わりなかった。


「キ……貴様、何故俺ノ正体ガ分カッタ!?」


 化けの皮が剥がれたアースドラゴンは、驚きの様子でアリティーナへと牙を向ける。

 小柄なアリティーナの体など、一呑みしそうな巨大な口に対して、アリティーナは平然とした様子で答える。


「ふん。さっきモグラって言って怒ったのが一番の根拠だがね。黙っていればいいのに堪え性が無いな……他に理由があるとすれば、簡単だ。

 ――泥臭いんだよ。アースドラゴンは」

「――っ!!」


 アリティーナの嘲ったその顔が逆鱗にでも触れたのか元神父であるアースドラゴンは突撃する。


「と――っ!」


 危うく踏み潰されそうになったのを、なんとか避ける。先にあった廃屋が砕けてバラバラになっていった。


「遅いな……相変わらずだ」


 アリティーナは、かつてドラゴンハンターたちと戦った日々を思い出していた。


 アースドラゴンは、地下に潜み襲ってくるところは厄介だったものの、地上に出てしまえば動きも遅いし力も大したことは無い。飛んだり馬鹿力のある他の中型ドラゴンからすればひ弱な部類であり、むしろ図体がデカいので仕留めやすいと戦士たちも雑魚と馬鹿にする始末。


 ただ、ドラゴン族でも舐められた存在だったため、竜人大戦の際は数に入れてすらされず、そのため竜王が討伐された後も生き延び、殲滅戦の対象に残っていた――はず。それ以上のことは覚えていなかった。


 いずれにしろはっきり言えることは、アースドラゴンは弱いドラゴン、ということだ。

 ただしそれは、立ち向かう相手が一端のドラゴンハンター出会った場合のことだ。


「……くそっ」


 悪態を付く。自分の足下を視界に収めながら。

 先ほどの突撃を避けた際、ギリギリで掠ったのか白いドレスが少し千切れていた。防御魔術をかけていてこれなので、無ければ引き裂かれていたかもしれない。


 この三ヶ月、独自の鍛錬法で鍛えてはいたものの、所詮三ヶ月程度。多少は強くなったが、まだまだ戦えるとは言い難い。

 何より、もっとも大きな問題があった。


「オノレ、噛ミ砕イテヤルッ!!」


 怒り狂ったアースドラゴンは、その巨大な足で地面を砕き家々を壊しながら向かってくる。言うとおり、アリティーナは食い殺す気でいるのだろう。

 一心不乱に突っ込んでくるその巨体に、アリティーナは、


「……よっ」


 避けるというよりは、その小さい体を生かしてアースドラゴンの腹の下に割り込んだ。


「ガッ!?」


 アースドラゴンが驚いて止まろうとするが、勢いよく突っ込みすぎた影響で止まれない。内懐に入ると、手にした剣をアースドラゴンの腹に突き立てた。


「うらっ!」

「ガゴッ!?」


 ブスリと刺されたアースドラゴンは一瞬呻くものの、


「……ちぃ」


 舌打ちしたアリティーナは、転がるようにアースドラゴンの腹から逃れ、距離を取る。

 手に持った剣は、根元からポッキリ折れていた。


「やっぱ、無理か」


 呆れたような諦めたような、そんな呟きをして折れた剣をその場に捨てた。


 これがドラゴンである。いくら低級とは言え、一番厄介な強度はこの弱いアースドラゴンでも十分ある。こんななまくらの剣では、『ドラゴンの心臓』どころか外皮を貫くだけでも大変だ。


 ドラゴンを倒すパイルバンカーは、今ここには――いや、何処にも存在しないかもしれない。

 となると、今のアリティーナにドラゴンは絶対殺せないことになる。


「他にドラゴンを殺す方法は……おっと」


 考え込もうとすると、またしてもアースドラゴンが飛びかかってくる。この程度は問題ない、難なく避けようとするが、


「危ないっ!」


 と、叫ぶと同時に誰かが横から抱きつきに来た。


「えっ!?」


 アースドラゴンに注意が向いていたため完全に対応が遅れた。そのまま押し倒されるアリティーナは、倒した相手の顔を刹那に垣間見た。


 先ほどの自警団――パウラ・ノービスだ。

 彼女に押し倒された結果、アースドラゴンの矢のような飛び掛かりからは偶然逃れられた。


「え……」


 一瞬、何が起きたか分からなかった。

 ただ、彼女に抱きしめられたまま倒れて、彼女のシャツ越しの肌と体の感触、そして体温を感じてようやく正気に戻る。


「な、何するんだ!?」

「何するんだじゃないわよ! アンタ死ぬ気!?」


 どうも、こちらが棒立ちだったため臆したかと勘違いしたらしい。実際は、寸前でも余裕で避けられると思ったからだが。

 しかし、パウラは必死の形相で咎めてくる。


「こんなところで何やってるのよ! あんな化け物相手挑んで、死んじゃうわよっ!」

「なんだ、こんなところって、俺は……」


 と、そこまで言おうとして、アリティーナは気付いた。

 パウラの自分を抱きしめている体が、震えていることに。


「――!」


 そして、見えなかった周りも見えてくる。


 周囲は、アリティーナが煽った結果ぶち壊された家屋で一杯だった。何軒もの家が崩れ、悲鳴や怒号も聞こえる。中には子供の泣き声までした。


 この結果、この惨状は、紛れもなくアリティーナの仕業である。

 それを止めるため、アリティーナがドラゴンに喰われるのを助けるため、パウラは怖い感情を押し切って守ったのだ。


「――っ、危ないっ!」


 と、今度はアリティーナの方がパウラをガッシリ掴むと、抱きついたまま転がっていく。

 間髪を入れずに、アースドラゴンが踏みつけに来た。


「くそっ……悪いな、付き合えっ!」

「うえっ!?」


 アリティーナは、パウラを抱きしめたまま立つと、その体勢で走っていった。


「ちょっ、ちょっと何するのよ!」

「悪いけど道案内しろっ! 俺はここの地理に疎いんだ、比較的安全なところに移動させてくれっ!」

「――っ! わかった、こっち!」


 アリティーナの意図を知ったパウラは、彼女に協力することを決意した。

 パウラの指示の下、アリティーナは全速力でスラム街を抜けていく。


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