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 ダンクの巨大な船体に火柱が無数に迸る。装甲が撓むように歪んだ刹那、内部から凄絶な大爆発が巻き起こり、大小の破片となって砕け散っていく。

 時同じく、別の個所を飛んでいたダンクも紅蓮の炎に包まれて墜落していった。ヒナタも無事、キル数を増やしたようだ。


「ダンク、二機撃墜!! 二機撃墜!! ルーキー共がやりやがった!」

「我々も続け!! 戦力をかき集めろ!!」

「各員攻撃態勢を取れ、エウリエル共は既に壊滅状態だ!!」


 大戦果に無線が沸き立ち、交錯する。

 スバルはふぅと息を吐き、空域を見下ろす。停滞していた士気が復活し、他のダンクも連鎖的に撃ち落とされ始めていた。

 ソラとヒナタが攻撃に転じたため、彼女は残る全てのエウリエルに集中出来た。結果、他の部隊もダンクへの攻撃に戦力を集約し、戦局は変わりつつある。


「……何とか、勝てたな」


 本当に勝利としていいのだろうか。

 この戦いで何人のソラモリが死んだのだろうか。今、こうしてワタリガラスを退けても、また数日後彼らはやってくる。

 終わりのない、地獄の繰り返し。


「ただ、今は素直に喜ぼう。新たなる撃墜王(エースストライカー)の誕生に」


 スバルはそう呟くと、小さく吐息を零した。



 基地の滑走路に両足を接地させた時、張り詰めていた緊張が一気に切れた。

 生きて帰れたという感覚が現実感を帯びて、全身を満たしていく。あの想像を絶するような悪夢の低空飛行は遠い別の世界の出来事にさえ感じられた。


 しかし煤と汗と硝煙で汚れた全身から漂う火薬臭さが、夢幻ではないことだと主張してくる。


「これが……ソラモリの戦争……」


 今までずっと、イチカとタマイのためだと息巻いていた。

 ……認識が甘かったかもな。少しでも気を抜くと、恐怖で膝が砕けそうになる。


「総出撃数、221機。未帰還150機以上……内、我が基地から飛び立った総数は43機」


 俺が思い出したようにぶり返してくる動悸のせいで肩で息を切らしていると、いつの間にかここの基地司令の婆さんが立っていた。作戦前にホワイトボードであれこれ言ってた人だ。


「スカイブルーバード1、四月朔日わたぬきアワヂを残し、以下全滅。スカイブルーバード2は守袖スバル、葉加瀬ホウキ両名帰還、他全滅。スカイブルーバード4、津雲つくもヒナタ、水卜ソラ帰還。分隊長、二三味ふさみイヨ未帰還。スカイブルーバード3、分隊長以下全滅――」


 今この滑走路に戻ってこれたのは俺とヒナタ。少し離れたところにいるスバルとホウキのコンビ。後は古い飛行帽を被る皺くちゃ顔の婆さん。それだけだ。


 あんなにいた人たちは、誰一人帰ってこなかった。名前も顔も一致しないけど、何とも言えないやるせなさが去来してくる。

 僅かな期待を持っていたが分隊長の姿は無かった。


「司令……スカイブルーバード4の分隊長は?」


 気づいたスバルが司令に近づき、声をかける。


「今、捜索隊が探しているよ。まあ……危険空域の近くだしね、絶望的だ。ハッキリ言って」

「……そうですか」


 既に日没だ。この暗さも救命活動の足枷になるだろう。


「この戦いで貴重なベテランを何人も失った。新人もソラとヒナタだけさ。生き残ったのは」


 司令は咥えていた煙草を吐き捨てた。苦虫を噛み潰したように顰め、苛立たし気にセットさせた髪の毛を搔きむしる。


「一先ず……部隊を再編したい……と言っても、たった五人だからね。このメンツでスカイブルーバード防空班と改める。隊長はアンタがやんな。スバル」

「分かりました」

「みんなもそれでいいだろ?」


 司令は俺たちを睥睨する。


「構わない」

「はい、私も賛成です」

「スバルで良いよ~。自分は絶対やりたくないし」

「ああ? 好きにしなよ。あたしゃ、命令に従うだけさ」


 そんな俺たちの反応にスバルは律儀に頭を下げてきた。そういう所もリーダーに相応しいと思った。



「お疲れさまでした」


 来たときと同じように、中肉中背の男が運転する高級車で自宅の前まで送られる。全身、汚れまくっているのに綺麗な皮のシートに座るのには抵抗があったが、「気にしないでください」とあしらわれた。


「では、また」


 男は降りることなく、そのまま走り去っていく。赤いテールランプが見えなくなり、俺もアパートの部屋に戻るべく階段を上がる。


「ソラ!」


 部屋の前にタマイとイチカがいた。

 まさかずっと待っていたのだろうか?


「なんで二人がここに」

「当たり前だろ。呑気に寝ていられるかよ」


 とりあえず顔だけでも拭け、とウェットティッシュを渡される。

 お礼を言って顔を拭うと予想以上に汚れていたらしい。一瞬で真っ黒になる。


「初出撃なんでしょ? 何でそれなのにそんなボロボロになるのよ。まるで最前線に出た兵士じゃない……」

「……ハハ、新兵どころかたった一戦で撃墜王エースストライカーって呼ばれたよ。新型機とバカでかい爆撃機を沢山ブチ落としたからかな」


 俺は冗談交じりに言ったつもりだが、二人の表情はより深刻になる。


「……なあ。日本の、世界の空はどうなっちまってんだよ? 何が起こってるって言うんだ? テレビは何も報道しないんだ。敵って何なんだよ?」

「悪い……俺も分からないんだ。ただ、間違いなく言えることは」


 不安になるのは分かる。でも誤魔化しても仕方ないと思う。政府は恐らく決して明かそうとはしないだろう。

 だから俺が伝えるしかない。今、この目で見てきた地獄を。この世界に近づきつつある終末を。


「世界は、滅びかけている。敵は強い。物凄く、強い。自衛隊じゃ勝ち目はない。いや、例え世界中の軍隊を集めても……」


 タマイとイチカの目が見開かれる。そりゃそうだ。俺だって、二人だって高校生なんだぞ? 国防だの、戦争だの、そんなのは大人がやることだ。まだ成人すら迎えてないのに、なんで自分の将来が見えないなんて現実を突きつけられなきゃならないんだ?

 あまりにも理不尽だ。だから俺は何も分からなくても、戦うしかない。せめて二人だけでも守れるように。


「大丈夫。何が起きてもみんなを守るよ」

「……ソラ、アンタは! ……本当に」

「馬鹿野郎が。背負いすぎなんだよ」


 突然、二人に抱き締められる。汚れが移るのも構わずに。


「……ゴメン、しばらくそうしててくれ。本当は、クソビビってんだ俺」

「そんなの見りゃ分かるわよ。何よ、その足。痙攣でもしてんのかってくらい、震えてるじゃない」


 ハハ、全部お見通しか。敵わねぇや。


スペック


コード:エウリエル

タイプ:戦闘機

全長:10m

直径:6m

武装

・バルカン砲

・空対空ミサイル

・デコイ

巡航速度:マッハ4

最大速力:マッハ5以上


コード:ダンク

タイプ:爆撃機

直径:30km以上

武装

・対空バルカン砲群

・大型爆弾

巡航速度:マッハ1


コード:???

タイプ:ステルス機

武装

・バルカン砲

・空対空ミサイル

・ステルス発生装置

・デコイ

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