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 顔に熱い何かがかかる。それが分隊長の返り血だと気づいた時には、人型の火達磨が墜落していくのが見えた。目の前の光景に脳の処理が追い付かない。

 それでも焼け付くほどの鉄火場の匂いと差し迫る命の危機に、俺の身体は本能的に動いていた。


「基地司令、こちら、スカイブルーバード4-3!! 分隊長がやられた!! 複数の敵に囲まれている、識別不明!!」


 俺は呆けるヒナタの手を掴み、フレアを焚いて回避行動を連発させる。機銃弾が耳を掠め、ミサイル警報のアラームはずっと鳴りっぱなしだった。


『こちら基地司令、現在送れる戦力はない。即、戦闘空域から離脱せよ! こちらでも多数のアンノウンを捉えている』


 思わず舌打ちをしてしまう。逃げる? だったら最初からそうしている。


「敵は全方位にいる、レーダーで分かるだろ! このまま交戦し、生き残れたら本隊へ合流する!」


 俺は返事を聞かず、無線を切った。こんな無意味な会話をしている時間すら惜しい。

 生き残れたら? 違う。生き残るんだ。こんなところで、死んで、たまるか!


「ヒナタ!! いつまでイモ引いてんだ! お前だってソラモリだろ、戦え!!」


 彼女を庇いながら空戦するのは不可能だ。だから俺はあえて、大声で怒鳴りつける。気弱な印象を与えてくるが、彼女も戦果を出している。俺に適切なミサイルを使うようアドバイスも出来た。怯え、震え、困惑するだけの無力な女の子じゃないはずだ。


「……ッ、はい、すみません。私も戦えます。戦うために、ここに来たんです」


 狙い通り、ヒナタの瞳に戦意が戻ってくる。


「F-15は一度も落とされてない無敵の大鷲です。片翼をもがれても飛んでいたタフガイです。その名に恥じるような行動は――出来ません」


 ヒナタの対空ミサイルが一閃。俺の背後に迫っていたワタリガラスを粉砕した。


「今一度、最強へ――それが、この機体のモットーですからね」

「……背中は、任せる。頼むぞ」

「はい」


 敵の数は十二機。俺が六機、ヒナタも六機撃墜すれば勝てる。今の心強い返答を見れば難しいことじゃない。


 真っ黒な正多面体のような形状をした奴らが周囲を取り囲むように飛んでいる。速度はエウリエルと比較し、かなり遅かった。だがレーダーの映りは今も悪い。もしかしてこいつ等、俺と同じステルス機の類か?

 エウリエルみたいに既存の戦闘機と準え、突出した部分が無いのなら真正面からやり合える可能性が見えてくる。


 だったら性能差で潰してやるだけだ。対レーダーの機体だろうが、その程度でF-35に勝てると思うなよ、三下共が。


「そこだ!!」


 俺は振り向きざま、真後ろにいたワタリガラスをハチの巣にする。さっきはヒナタが動くと確信していたから放っておいたが、F-35の視界は360度全てを見通せる。どこから来ようと全部分かるんだよ。


 続けて編隊を組んでいた二機目、三機目を叩き落し、フレアをばら撒きながら四機目へと肉薄。ワタリガラスは機銃を乱射してくるが、俺は構わずにガンポッドの銃身を勢いよくブッ刺し、お返しにめちゃくちゃに奴の機内で撃ちまくる。内蔵された弾丸に誘爆したのか、内から吹き飛ぶようにして爆発した。


 残り、二機。


「ハッ、たまたまケツを取ったくらいでそう弾をバラまくなよ」


 背後から景気よく機銃弾の雨あられを浴びせてくるワタリガラス。俺は両手からミサイルを精製、そのまま背後に向かって投げつけた。

 F-35は背後にだってミサイルを撃てるのさ。爆炎に包まれ、崩壊していく奴らには目もくれず、戦場を素早く睥睨する。ヒナタが最後の一機にトドメを刺していた。


「……勝ち残れましたね」


 油と煤と血で汚れたヒナタははにかむ。

 俺も酷い有様だが、思わず笑ってしまった。


「え、なんで笑うんですか!?」

「いや、ゴメン」


 何とか生き残れ、気が緩んだのかもしれない。でもまだ作戦は終わってなかった。


「スカイブルーバード4、敵を殲滅した。これから本隊に合流、ダンク迎撃を開始する」

『了解した。方位1-3-3へ向かい、本来の作戦を継続してくれ。到着後はスカイブルーバード2-1が指示を出す』


 俺たちは司令の誘導に従い、空路を取る。夕日は殆ど水平線に沈みかけ、雲量は減っていた。この分では夜は晴れるだろう。


「あの、ソラさん、手からミサイル出せたんですね」

「うん。なんか、出来ると直感した。こうやって空を飛べるのと同じ感覚で」


 わざわざ構える必要があるウェポンベイと比べ、手から出す場合はノーモーションだ。早撃ちやコンマ数秒以下の即応には使えるかもしれない。


「……隊長さん、大丈夫でしょうか」

「きっと……生きてるさ。こんなアッサリ死ぬわけないよ」


 半ば自分に言い聞かせるように。

 あの夥しい血しぶきと炎、明らかに五体満足とは思えない有様で墜落していく光景がフラッシュバックする。



 血のように赤い夕闇に染まる空を、俺たちは飛んでいく。



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