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『スカイブルーバード4へ、基地司令。現在、ワタリガラスの編隊がこちらに向かっているのをレーダーで捉えた。方位2‐2‐1、迎え角三度で上昇中、数は六機。至急迎撃されたし』


 無線から雑音混じりの声が聞こえてくる。


「チッ、面倒だねぇ……聞いたかい、アンタたち。進路変更し、奴らを叩くよ」

「スカイブルーバード4-3了解」

「スカイブルーバード4-2、了解です」


 隊長機が向きを変え、俺たちもそれに倣う。降り始めた小雨がバイザーに水滴をつけ、後方に流れていった。


「雲の層を通過中。乱気流に注意せよ」


 高度、三千フィートまで一気に上がる。周囲は雲ばかりだ。夕暮れだから視界も悪い。レーダーはしっかり作動しているが、奴らはそれを掻い潜る時もある。元が小さな粒子で、その集合体に過ぎない故か反射面積が小さいのだ。

 だからミサイルのロングレンジ攻撃も役に立たない時が多く、有視界でのドッグファイト、あるいは至近距離からのミサイル攻撃が最も効果的とされている。


「レーダー……IFF、応答なし……」

「来るよ。各機、攻撃用意! 火器管制レーダー作動!」 


 俺はガンポッドを構えた。レーダーに映る輝点は物凄い勢いで迫ってくる。数は六つ。

 唾を飲み込む。荒く浅い呼吸と脈打つ心音がやけに耳に残る。グリップを握る手がグローブ越しでも手汗で湿るのが分かった。


「交戦!!」


 分隊長の怒鳴り声。すぐ顔の脇を何かが凄まじい速度で次々と駆け抜けていき、それが敵の機銃弾と気づいた時には俺も無我夢中で撃ち返していた。


「クソッタレ!」


 直後、細長い棒のような飛翔体が俺たちとすれ違った。

 あれが俺たちの敵……ワタリガラスの戦闘機、コードネーム『エウリエル』。地球上のどんな戦闘機をも上回る圧倒的な機動力。そして最大速力は世界最速の戦闘機ミグ25を遥かに凌駕するマッハ5。


 ソラモリと言えど、性能は従来の戦闘機に準ずる俺たちでもあのスピードには追い付けないだろう。

 しかし奴らはただの直線番長だ。人型の戦闘機という小回りの利く長所を最大限に生かせば、勝てない相手じゃない。


「良いかい!? 奴らは最大速力下では急旋回が出来ない! 方向転換するところを狙い撃つんだよ!」


 俺は旋回しつつ、ウェポンベイのシャッターを開ける。バイザーで使用するミサイルを選択し、発射のタイミングに合わせる。ターゲットスコープがエウリエルを補足、完全にロックオンする。

 奴も狙われたことを察知し、回避行動をとり始める。フレアのように黒い粒子をまき散らしながら、旋回を開始した。


 分隊長の言う通り、最大速力で急旋回は出来ない。もし実行したいなら速力を大幅に落とさねばならないのだ。


「スカイブルーバード4-3、フォックス2!!」


 AIM-9サイドワインダーを発射する。爆炎が周囲を赤く染め、眩い光と共に飛ぶミサイル。エウリエルが必死に放射するデコイの粒子には引っ掛からず、大きな熱源を持つ本体へと突っ込んだ。

 ドン―—、と紅蓮が爆ぜる。被弾個所から深紅の炎が飛び散り、エウリエルは姿勢を大きく崩して自壊し始めた。


「グッドキル! やるじゃないか、ソラ。ヒナタも見事だよ」


 そう称賛する分隊長は既に二機のエウリエルを紅蓮の炎に変え、葬っている。信じられない早さだ……。

 遅れてヒナタも戦果を挙げたようで、彼女の放ったミサイルがエウリエルを破壊していた。


「残る二機! さっさと狩って本隊に合流するよ」


 片方は分隊長に任せ、俺はヒナタと一緒に追撃へ移る。だが奴はケツ捲る気なのか、高速で離脱していく。撃ち漏らしたら市街地に被害が出るかもしれない、逃すわけにはいかないのだ。


「くそ……流石に真っすぐじゃ追い付ける気がしないな……」

「あの、ソラさん……」


 横を飛ぶヒナタが小声で話しかけてくる。防音効果が無ければ聞き逃してしまいそうだ。


「どうした?」

「F-35なら、視界外空対空ミサイルが使えたはずです……あれなら飛翔速度はマッハ4を超えます。追い付けるかもしれません」


 ああ……そうだ。それがあった。

 ロングレンジではミサイルを外す可能性も高くなってくるが、どっちにしてもこの距離ではミサイル攻撃しかない。環境次第では飛翔速度もマッハ5を上回るかもしれない。幸い、今は追い風だ。何かの助けになる、と信じたい。

 俺はウェポンベイを今やコメ粒ほどになったエウリエルに向ける。


「頼むから当たってくれよな……スカイブルーバード4-3、フォックス3!!」


 発射炎が鋭く輝く。JNAAMミーティアは白煙を描き、追跡の態勢に入った。高速で飛ぶミサイルを撃墜出来るなら、エウリエルだって落とせるはずだ。

 あっと言う間に彼方へと飛び去ったミサイルを祈るように眺めていたが、やがて――。


 パッ、と真っ赤な炎が夕闇の中で花開くように散った。レーダーからもエウリエルの影が消失する。

 直撃した……のだろう。目前でやり合うドッグファイトと異なり、随分味気ないというか実感が湧かない。


「見事だよ、ソラ。こっちも問題なく片付いたところさ」


 後方から隊長機が飛んできた。俺の頭上をロールしながら飛び越え、斜め前に位置取る。


「基地司令! こちらスカイブルーバード4。敵を片付けた。今から本隊に――」

「ま、待ってください。今、レーダーに影が……」

「え?」


 俺もレーダーを確認する。一瞬、ノイズ混じりの何かが映る。なんだ? 故障じゃない。


「分隊長、何かがおかしい……もう一度、戦闘態勢を」


 次の言葉は告げなかった。


「敵機後方……ッ! ミサイル警報ッ!」


 ヒナタの悲鳴に近い声。振り向くと同時に、雲海からワタリガラスが飛び出してくる。

 あれは……エウリエルじゃない!?


「ッッ! アンタら、フレアを焚け!! 今すぐ、急げ!!」


 同時に分隊長も動いていた。すぐさま欺瞞の熱源をまき散らしながら、俺たちを庇うように大きくバンクする。


「駄目だ、分隊長!!」


 ワタリガラスから発射されたミサイルは次々とフレアに引き付けられるが、残る最後の一発はそれらを通り抜けてしまった。

 俺とヒナタも必死にフレアを飛ばしたが、もう遅かった。


「クソがぁ――!!」


 一瞬の静寂。

 赤い炎が、隊長機を焼いた。


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