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 それがいつ、地球に来たのかは分からない。だが、気づいた時にはもう手遅れだった。肉眼や機械では決して観測できない何かは、世界中の空を侵略し、あっと言う間に支配下に置いた。

 もちろん人類側も総力を集め、戦った。しかしどんな高性能の戦闘機でも到達不可能な異次元の何かには歯が立たず、いたずらに消耗していくだけだった。



「だから作った。戦闘機と人を組み合わせて。〝ソラモリ〟。それが、俺みたいなヒトと戦闘機のハザマの生物の呼び名」


 背中の痛みが消えたころ、生えていた翼も体の中に引っ込んでいった。細胞単位で融合しているので、半ば俺の一部と言えるだろう。


「……冗談だろ。今までの航空機事故や新宿の崩壊の真実が、宇宙人の侵略だってのか? それにソラモリってなんだよ!? 新しい、生き物……!?」


 タマイが青ざめた表情で呟く。


「そんな話、なんでニュースに」

「当たり前だ。政府が隠しているからだよ。こんなこと公表してみろ、未曽有の混乱が起こるぞ」


 だが新宿の一件だ。シラを切り通せるのも時間の問題かもな。


「ふざけてるわ。ソラ、今から病院に行くわよ。アタシのパパに頼めばそんなもの――」

「止めておけ」

「何言ってるの、パパならきっと!」

「お前の親父まで巻き込むことになるぞ」

「……え?」


 俺はイチカを遮って語気を強めた。


「言っただろ。この件は、政府が絡んでいるんだ。その気になれば……」

「黙らせることくらい訳ない……ってか」


 冷たい麦茶が注がれたコップを掴みながら言葉を継ぐタマイ。俺は無言で頷いた。こうやって他人に話すのも正直グレーだ。だが、もしこの程度の事で友人にまで手を出すようなら俺は奴らを全力で潰す。

 俺の力が、既に人の手に負えるレベルではないことはよく分かっている。化け物を倒すための化け物なのだから。


「そんな……じゃあ、どうすれば」

「どうもしなくて良い。俺が怖いなら、離れても構わない。だから――」


 しかし言い切る前にタマイに割り込まれる


「馬鹿言うな。たとえお前が拒絶したって俺たちは離れねぇぞ。友情を甘く見るなよ、なあイチカ」

「はぁ。何勝手に同意してるのよ。……で? 出来る限り協力するけど、何かやって欲しいことはある?」


 何と言うか……ここまでさも当然のように否定されると、覚悟して話した俺がバカみたいだな。

 でも――本当に有難かった。一人だったら、多分耐えられなかっただろう。


「……一先ず、この髪の毛何とかならない? 長くて気になる」

「あー。確かに。じゃ、ポニーテールにでもしてみる?」

「任せる」


 イチカは俺の背後に回り、慣れた手つきで髪の毛をまとめ上げていく。


「はい、完成。アンタ女の子になったんだからね、髪の毛は大事に扱いなさいよ!」


 ポケットから小さな手鏡を取り出し、俺に手渡してくる。「見ろ」ってことらしい。

 黙って受け取り、自分の顔を映す。あどけない10代の少女の顔がそこにある。空色の髪の毛と瞳。高校生にしては老け顔と言われていた面影はない。本当に俺なんだよなぁ、これ。


 ニコリとほほ笑むと、鏡の中の自分もそれを返す。口元を少し引っ張れば、やはり同様に動く。なんつーかさ、現実離れしすぎてこれが今の俺の姿なんてイマイチ実感は湧いてこないんだよなぁ。

 この前、転んでケガをした頬に貼り付けた絆創膏だけは変わらず同じ位置にあった。


「何やってんの、アンタ。百面相?」

「いや」


 イチカに手鏡を返す。その時、着ていたシャツがずれて肩口まで露出した。背丈も縮んだからな、服もブカブカなのだ。イチカみたいに胸があれば引っ掛かりそうだが、生憎俺の身体の凹凸はかなり乏しい。


「ば、おま、見えるって!!」


 慌てて自分の目を覆うタマイ。何が?


「な、何見てんのよ! ちょっと、ソラに変な気を持ったんじゃないんでしょうね!?」

「んなわけあるかよ! 俺はロリコンじゃねぇ!」


 何やら騒がしい二人だったが、急にイチカはこっちへ向き直った。


「決めたわ」

「え?」

「今日はソラの服を買いに行くわよ。タマイも来なさい」

「いや、二人は学校……」

「そんなもん後回し!」

「はぁ」


 なんかよく分からんが、外に出ることになった。



空守

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