37
「っていうことがあった島なわけよ。哭之島ってところは」
長々と部屋で多門と信久さんに語った私は、はぁっと息を吐いてからお茶を啜る。
途中余計なツッコミを入れてきていた多門と、神妙に話に聞き入っていた信久さんはお互いに顔を見合わせて、それから同時に私を見る。
「それで、島にはもう僵尸はいなくなったのでしょうか?」
「とりあえずは、ってところかしらね。深く深く潜ってる僵尸はいるのかもしれないけど、私たちが帰る時にはもうおかしな臭いはしなくなってたから。最後の男の僵尸が島を徘徊しまくって臭いを振りまいてたみたいよ」
「で、母親は最後なんだって豹馬に言ったのさ」
「身体を見つけて欲しいって」
「身体?」
「うん。母親は失踪したんじゃなくって崖から落ちて亡くなったみたい。どうして落ちたのかは……知らない。網元夫妻に憑りついたのは身体を見つけて欲しかったからだと思うんだけど、シンクロが強すぎてしまったんだろうって九条さんが言ってたよ」
「ふーん……。で、比和子ちゃんはその後、九条さんに言われなかった?」
「何をよ。よく頑張ったって褒められたわよ?」
「違う。そうじゃないよ。そういうものだからそういうものだと思いなさいとかなんとか、って」
「え? あぁ、そう言えば言われたわね」
私が思い出しながら答えれば、多門は俯いて苦笑いをして、網元夫妻の人間の闇、と呟いた。
なんのことかと詰め寄ろうとした私に、信久さんがタイミング良く身を乗り出した。
「それで、そんな謂れのある島に優心が送られて大丈夫なのでしょうか?」
「え? あぁ、そうそう。そこね。お寺の塀に水彦の御札が埋まっているから、そこに身を置くようにすると思うわよ。悪いものは入られないし、島は玉彦が歩き回ったせいですっかり浄化されちゃったから余程の事が無い限り、優心様は安全だと思うわ」
「いえ、そこではなく……。夜這いの慣習が残っている島という点なのですが」
「大丈夫よ。だって紘夢くんが網元だもの。しっかり禁じてくれているわよ」
「そんなに心配ならお前も一緒に優心と行ってやれよ、信久」
多門がニヤニヤしながら信久さんの顔を覗き込めば、彼の頬が薄らと染まった。
きっと哭之島に優心様が行ったとしても大丈夫だろうと私は思う。
あれから数年経つけれど、正武家屋敷の膳には毎年四季折々に旬の魚が届けられている。




