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「それで? なんだっておかしなこと言い出したんだ?」
「おかしなことって言うか、疑問? 夜這いに来た男の人の顔って本当に見えないと思う?」
「そこって拘るとこか?」
「だってちょっとくらい薄目開けて見るでしょ」
「……しらねーよっ。でも言われてみれば……」
銀のフレームを摩ってしばらく考えていた豹馬くんは、はっと少しだけ目を見開く。
「島に来た日、八紘って頭に包帯巻いてたよな?」
それはよく覚えている。
紘夢くんに手を引かれて登場していた。
包帯の下に隠された目がどんなものであれイケメンではないな、と私は思った。
「目を怪我したから巻いていたんだと思うけど……」
「たいした問題じゃないからどうしたのかってわざわざ聞かなかった。アイツ、そもそもなんで怪我したんだ?」
「え、分かんない。本人お寺にいるし、聞いてみる?」
二人揃って外に顔を向ければ、部屋から離れたところからまだみんなが呑んでいる声が聞こえる。
部屋に下がった私たちが再び顔を出して八紘さんに声を掛ければ、なんだろなって注目されるだろう。
注目されて都合が悪いわけではないが、あまり目立つ行動はしたくない。
それにもし、私と豹馬くんが同じことを考えていたなら私たちが疑いを持っていることを気付かれてしまう。
彼の中に居るかもしれない、母親に。
正武家のお屋敷は四方を御札が埋め込まれた黒塀で囲まれており、基本的に悪いものは入り込むことが出来ない。
しかし神様だったり例外はある。
その例外の一つに、人間の身体に入り込んだ悪いものは入られる。しかし表面上出てくることが出来ずに封じられた状態になるのだ。
お役目の依頼人の中にはそういった人たちもたまにいて、視える南天さんが澄彦さんや玉彦にそっと伝えるのがお決まりだった。
お爺ちゃん僵尸の一騒動の時には八紘さんの目は見えていた。
そして今も普通に見えている。
私の予想が正しければ、八紘さんの目が回復したのは玉彦が彼らに帰ると啖呵を切った日の夜。
彼の中から抜け出した母親は夜這いを仕掛けに来た誰かに憑りついていた可能性が高い。
誰かに憑りつき、周囲の人間に影響を及ぼす。
思惑が失敗した母親は水彦の御札の力により、そのまま身体の中に封じられたまま塀の外へと出て、初七日の網元の屋敷に現れた。
恐らくその時、玉彦には近寄らなかった。かなり危ない方向で力を持っている霊だからそういった本能というか知恵は持っている。
豹馬くんと私はお互いに頷き合って立ち上がった。
確認、しなくてはならない。
八紘さんの中に母親がいるのかどうか。
着替える豹馬くんを待ちつつ、私はスマホで検索をしていた。
言葉を知っていて何となくこういうものだろうな、と思っているけれど果たしてどれくらい見えなくなるものなのか私は知らない。
夜盲症という病気を。
遺伝疾患や後天的な疾患なのか、もし八紘さんが遺伝疾患で患っているのならば彼が夜盲症であったとしても決定的な証拠にはならない。
もし彼が後天的に発症したとするならば、それは恐らく紘雄さんの奥さんが亡くなった辺りだろう。
夜盲症を患い、薄暗い部屋を訪れた男の姿を確認することが出来なかった彼の母親が憑りついたとき。
憑りつかれた人間は憑りついた者の特徴が身体に現れることが多い。
よく耳にするのは狐に憑かれて狐顔になるとか、異性に憑かれて話し出した声が別の人のものだったとか。
恐らく八紘さんの母親に憑りつかれた人間は目を患う。夜に目が見えづらくなってしまうのだ。
私の中では憑かれて目を患った人間が、八紘さんの邪魔な存在を次々と手に掛けていったと予想している。
夜盲症の画像検索を見てみれば、私が想像していた以上に夜は見えにくいものだった。
光があればそこだけ見えて、周囲は真っ暗。
これだと部屋に灯りが無い限り、真っ暗だったことだろう。
「とりあえず、住職んとこ行くぞ」
チノパンにTシャツというラフな格好に着替えた豹馬くんは私を促して部屋から一歩出て、後ろに続く私をくるりと振り返った。
「スマホと無線と鈴持ったか?」
「へ?」
私が手にしていたのはスマホのみで、へへへっと笑えば顎で戻れと促される。
九条さんもフラグクラッシャーだけど、豹馬くんもそこそこ用心深いというか、素質はある。
ジャージのポケットに今回の私の三種の神器を入れて、気合を入れて頬を両手で叩く。
「頑張るぞ!」
「いや、頑張んなくていーから。寺から外には出んなよ?」
「……はい」
しっかりと釘を刺されて若干意気消沈した私と、めんどくせーと呟く豹馬くんが宴会の席を覗けば、住職さんはよりによって航太郎さんと八紘さんと話をしている最中で、襖の隙間から中を窺っていた私たちは溜息を吐いた。
「ちょっと待たなきゃかしらね……」
「明日でよくね?」
「明日の夜だともう八紘さん、屋敷に帰っちゃうでしょ。確かめられないわよ」
ぼそぼそと作戦会議をしていたら、背後からとっとっとっとっと足音が聞こえて振り返る。
薄暗い廊下の向こうからお盆にてんこ盛りにされた枝豆のお皿を乗せた紘夢くんが足早に歩いてくる。
これはチャンス!




