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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 島に本当に僵尸が眠っていると聞かされた時の島民たちの顔は、冗談ではなく本当に恐怖で固まった。

 紘夢くんが正式に網元として最初にしたお仕事は島民たちへの夜間外出禁止令と説明会である。


 漁港の古びた会館に集められた年配の漁師さんたちは最初こそ疑わし気だったけれど、説明をする紘夢くんの背後に東の村長、西の住職が揃っていたものだから島のご意見番たちが嘘を言うはずはないと信じるしかなかった。

 西の島民は玉彦が島に現れたことで問答無用で信じていたし、東の島民は昨晩の村長さんの取り巻きたちが瞬く間に話を広げてくれた。

 そんなこともあり、島としては通常の生活を維持しつつ、夜間は出歩かない、というお約束で話は落ち着いたのだった。


 それから、である。


 紘雄さんの初七日までに見つかって祓われた僵尸は十二体にのぼった。

 発掘されたのが十体、徘徊していたのが二体である。

 まずまずの成果に満足したいけれど、島にはまだ薄らと嫌な臭いが漂っているのでまだ地中にはいるものと思われる。

 日中活動している私と、夕方から動き出す玉彦はすれ違いの生活で、朝と夕方くらいしか話をする機会が無かった。

 玉彦から文句の一つも出るかと思っていたけれど、そこはやっぱりお役目なので大人げないことは口にしない。

 むしろ通山にいる時は五日間も会えない日々が続くので、毎日少しでも私の顔が見られる環境に満足しているようだ。

 と、豹馬くんは言うが本当のところは九条さんに比較対象をすり替えられて単純な玉彦が納得したに過ぎない。

 本当なら今は夏休みだし、お役目が終わればそれ以外の時間は四六時中一緒に居られるのである。

 夏休みと普段の日々の比較を巧妙にすり替えただけである。


 そんなこんなで私は日中、豹馬くんと常に行動を共にしていた。

 数人の島民を引き連れて島を捜索し、靄があれば掘り起こす。

 最初こそ皆おっかなびっくりだったけれど、三体目くらいの僵尸からはもう手際が良くなり発見してから一時間くらいでお寺に運び込むことが出来た。

 島の捜索中、普段漁師を生業としているおじさんたちと話をすれば、数年に一度ごくごくたまに網に水死体が引っ掛かることがあるそうで、それと比べれば原型を留めている僵尸はまだマシなのだそうだ。

 確かに身体は全裸で腐臭を放ち、土気色だけれど、当初の豹馬くんの様に無理な発掘さえしなければ、身体が無惨なことになることはない。

 この人らも島の誰かのご先祖様なんだろう、と言ったのは誰だったか。

 私はただただ僵尸を見つけることに専念していたけれど、島民にとっては恐怖の対象を除くこと以外にも様々な思いがあったようである。


 そして私たちが島を訪れて数日後。

 紘雄さんの初七日を午前中に終えて、午後の捜索はお休み、夜だけ玉彦と九条さんが動くことになり、私と豹馬くんは二人が眠る部屋を離れて、お寺の母屋の茶の間で寛いでいた。

 住職さんと奥さん、そして紘夢くんは網元の屋敷に居り、豹馬くんと私はお寺でお留守番である。

 いくら御札で護られている塀の内側に居るとはいえ、寝ている玉彦を放ってはおけない。

 正武家屋敷ならばともかく、ここは五村でもないし危険が無いとは言えないのだ。


「あとどれくらい埋まってるのかしらねぇ」


「さぁなぁ。まだ臭うしそこそこいるんだろ」


「でもさ、来た時と比べたら大分マシになったわよねぇ」


「そうだなぁ。よくもまぁこんな臭いのするとこで島の奴らも平気で生活してたよなぁ」


「あ、それさ、いつもは違うらしいわよ」


「そうなのか?」


「うん。紘雄さんが亡くなってから、なんだって。でも腐臭を感じない人もいたみたいだし、素質のある人だけが解ってたみたいよ」

 

 と、卓袱台に用意されていたお菓子受けの醤油おせんべいをバリバリと豹馬くんと食べながら世間話をする。

 二人の世間話と言ってもお役目に関することなのがちょっと悲しい。


「ふーん。どこにでもいるんだな、素質のある奴」


「そうねぇ」


「あぁ、そう言えば」


 そこで言葉を区切った豹馬くんは冷えたボトルから麦茶をコップに注ぎ、一息に飲み干す。

 そして私を見てから片眉を上げた。


「島に来た時、その辺うろつく奴ら居ただろ。視たよな? 玉様に体当たりかました奴もいただろ」


 船から降りて網元の屋敷へと向かう途中、確かに三人ほど見かけた。

 うわぁ、いる! と思ったもん。

 九条さんに一々反応するなと言わんばかりにステッキで足を小突かれた時の痛みがふくらはぎに蘇って、私は何となく足を摩った。

 悪意を感じないものたちは放って置いてもそのまま消えて成仏してしまうけれど、こちらが視えていると反応してしまうとくっついて来てしまうことがある。

 くっついてこなければそのまま成仏出来たのに、こちらが反応したことが原因で触発されておかしなことになることもある。

 見てみぬふりということも時には大事なのだ。

 視た視た、と軽く私が頷けば、豹馬くんは神妙な顔つきになり、開け放たれた障子の向こう、縁側の外を見る。


「網元の屋敷に居た奴、こっちをすげぇ顔で見てたよな」


「えっ!?」


 まるで気が付いていなかった私に豹馬くんはこちらに視線を戻し、呆れたように半目になった。



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