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頭を寄せ合い島民たちは話し合いを重ねて、度々交易があった赤石村の近くに正武家という家があり、こういった類のものを退けることが出来る者たちがいると思い出した。
そうして彼らは海神の嫁として迎え入れられないような醜女を使者に選んだ。
なぜなら美しい女性ならば海神が嫁として迎え入れる為に船を難破させて殺して手元に引き寄せることがあると信じられていたから。
結局選ばれた醜女は見た目はともかく心が美しかったものだから船は難破してしまい、それでも幸いなことに赤石村に流れ着いたのだった。
そこからはいつもの流れで、正武家が赴き解決したのだと玉彦は締めくくった。
「でもそのご先祖の女性は記憶を失ってたんでしょう?」
「うむ。既に島民は全滅していたかと思われたが数十人は生き延びていた。それから数年かけて五村を含む近隣の村々から入植者が集まり、現在に至る。近代の五村からも度々移住している者たちもいる」
「そうなの?」
「余生を田舎で過ごしたいそうだ」
「ここでも充分田舎だと思うわ……」
五村民の感覚ではここは田舎だという自覚が無いのだろうか。
「それで代替わりっていうのは?」
「島の権力者、所謂網元の家の代替わりだ」
網元とは漁師さんたちの親分である。
漁師だけれど貧しくて船が持てなかったり、船を持っていても維持費にお金が掛かるのでそういった経費を網元が持つ代わりに働き、報酬を得る、と昔の時代劇で聞いたような気がする。
「どうして網元の代替わりに立ち会わなきゃいけないの?」
「毎回立ち会うことも無いのだが。代替わりは先代が亡くなってから四十九日までの間に行われる。この四十九日の間に大昔に祓い切れずに土に潜り逃げた僵尸が姿を現すことがあるのだ」
「げっ」
「水彦爺様の代に二人姿を現したと聞いている」
「ということはもしかして九条さんはそれを知ってる?」
「恐らく」
まぁね。ただの小旅行で終わるはずはないとは思っていたけども。
絶対に何かが起こるだろうなと口を閉じた私は、そう云えば、と思う。
「ねぇ。島民と一緒に逃げていた海福はどうなったの? 海福が道士だったって私たちが知っているってことは、本人がそう誰かに言ったからよね?」
「……比和子がそれを知る必要はない」
話疲れた玉彦はお布団の上でうーんと大の字になって伸びをすると、私が食い下がるのを徹底的に無視をして寝息を立て始めてしまった。
翌朝。
今回は遠出のお役目なので一週間は帰られない、とキリッとした顔で宣言していた澄彦さんが何食わぬ顔で朝餉の席に現れた。
玉彦に手を引かれて澄彦さんの母屋に来たので帰って来たのだろうとは思っていたけれど、お役目に出発してから四日目の朝である。
ということは残りの三日間は九条さんが言っていた通り、温泉でゆっくりするつもりだったのだろう。
鼻歌まじりで腰を下ろした澄彦さんは私を見て本当に分かり易く上機嫌に微笑む。
「光一朗はまだ来ていないみたいだね? 今日帰省するのかい?」
澄彦さんってほんっとうに私のお父さんが大好きなんだと思う。
玉彦も私が大好きだけど、正武家の人間は上守一家の血筋が大好きに違いない。
「たぶん、今日の夕方くらいには到着すると思います」
「比和子ちゃんに連絡があったの?」
「えっ!? あー……お祖父ちゃんの方に?」
「そうかそうか。ということはあちらに泊まるのか。僕は全然こっちに泊まってくれても構わないんだけど、照子さんが気を遣うからかな?」
普通に考えて帰省するということは実家に泊まる。
わざわざ親友の家に泊まることはしないと思う。
須藤くんが運んできてくれたお膳を前に、澄彦さんは話をしながら箸を付けた。
「それにしても代替わり、早いよなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。だって先代は二十数年前に替わったばかりだよ」
「へぇ~」
澄彦さんに返事をして玉彦を見れば目が合って、でも何も言わずにもぐもぐしている。
「次の後継者となると、息子か」
「知らぬ」
素っ気ない息子の返事に澄彦さんは肩を竦めてお味噌汁を啜る。




