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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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13



 絡繰屋敷の異変の原因を突き止めた私たちは事務所へと戻り、首を長くして待っていた管理人さんたちに地下の監獄のことには触れず、ただ穴が開いているので塞ぐとだけ伝えた。

 外から塞ぐということで、スコップを持った管理人さんたちと該当の箇所と思われる場所へ向かうと、そこは屋敷の角部屋の外で、多門が広げた穴はすぐに発見出来た。

 管理人さんたちとどうしてこんなところに穴が開いてしまったのかと周囲を見渡しても原因は分からない。


 彼らが土を盛っている間、周辺を散策していた玉彦が私を呼んで地面を指差す。

 そこには大きな足跡が残されていた。

 私の両足の足跡四人分はある。

 余程体重が重かったらしく、固められていた地盤にしっかりと刻まれている。


「これってまさか……」


「神落ちであろうな」


 ここを通った神落ちの重い一歩のせいで地下牢の天井に穴が開いてしまったのだ。


「しかしここにはこういった者が入られぬようにしていたはずなのだが……」


 再び周囲を見渡した玉彦は、多門と高彬さんを促し、私の手を取ってから、管理人さんたちに外を見に行くと告げて歩き出す。


「どこに行くの?」


「北東」


「はっ?」


「北東。丑寅の方角」


 丑寅の方角といえば時計で十二時を北として、十二時半くらいから二時半くらいの間の方向。

 所謂風水でよく聞く『鬼門』の方角である。

 空を見上げて太陽の方向を確認すれば、ちょうど穴が開いていた屋敷の角が鬼門となっており嫌な予感しかしない。


 白亜の塀を辿り、人形部屋がある辺りまで歩いて来れば、塀の向こう側で話をしながら作業をする管理人さんたちの気配を感じる。

 塀の角は私が知っている形ではなく、角が内側に作られ、上から見ると角度が直角のWの形になっていた。

 Wの下部の凹んだところには黒い石で造られた四角いエリアがあり、白く小さな玉砂利が敷き詰められている。


「へぇ~。鬼門封じかぁ。こんなところで珍しいなぁ」


 高彬さんは感心してしゃがみ込んだので、私も初めて見る鬼門封じを一緒にしゃがんで眺める。


「鬼門封じって鬼門を封じるってことですよね?」


「そう。京都ではよく見かけるけど五村にもあるんだな」


「元々正武家のルーツはそちらの方である。何も不思議ではあるまい」


 言い伝えによると正武家一族は都から五村へとやって来た。

 なので都仕様のものが五村に反映されていても確かに不思議ではない。


「鬼門に当たる塀の角を凹ませたり削って斜めの形にすることで鬼門そのものの存在を無くすっていう考え方と、こうやって枡形の結界を張ることで神域を作って神聖な場所に変えてしまうことで鬼門を封じるって考え方があるがここはどっちもだな。欲張り」


「それって大丈夫なんですか?」


 失礼だけど思いも寄らない高彬さんの博識ぶりに私は驚きつつ、初めて耳にした鬼門封じについて尋ねる。


「なくもない形だから大丈夫なんじゃないか。問題があれば正武家様が改善しただろ」


 そう言って高彬さんが見上げた先には玉彦がおり、深く顎を引く。


「問題は無い。問題があるとすればそこ。黒曜石の角が欠けている。二重の封じが欠け一重になり、地下のものが漏れだしたのであろう。恐らく神落ちを防ごうとし、欠けたのであろうな。修復すれば再び機能することになるだろう」


 言われてよくよく見てみれば、黒い石の左下の角が小さく欠けていた。

 強大な禍と化していた神落ちが山中を暴れ回って、ここへも来たのだろう。

 その証拠に塀内に足跡が残されていた。

 加工された石が古くなって脆くなっていたことと、神落ちが纏う邪気に中てられて欠けてしまったのだ。


「すぐ直せるのかな」


 欠けた箇所を指で辿り呟くと、玉彦が答える。


「ここは藍染、職人の村。これくらいの物であればすぐにでも」


 誇らしげな玉彦の言葉に、塀内から管理人さんたちの声が重なる。


「ここって何か危ないんかなぁ?」


「次代様は埋めろって仰っただけだが」


「ついでだからちっちゃな祠でも建てておくか。おい。裏に神木の枝打ちしたやつあっただろ」


「あぁあった、あった」


「じゃあ造るかー」


 管理人さんたちの気配が遠ざかり、白塀を見上げた玉彦は微笑んでいた。



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