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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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「占いの話は知らないが、それ相応の事情があったと私もつい先日聞かされた。それまでこの五村では洸姫のことを口にすることは禁じられており、それほど重大な枷であったのだ。それにおまけではない。私にとっては血を分けた大事な妹である。先日母上は双子で良かったと、兄妹がいれば寂しくないと仰っていた。私もそう思う。兄妹姉妹がいる友人が心底羨ましかった。だから……縁があって双子として生まれたのだから……仲良くしてほしい」


「……」


「……仲良くしてほしい」


 耳まで赤くした兄に私は目が半目になった。


「あんたはさ、それでいいよね。ずっと親元で育ったんだから。いや、私だって良かったよ? お父さんたちと楽しい八年間だったよ? みんなで幸せで楽しい日々でしたよ。でもね、それが一瞬で壊れるって想像できる? それが自分の両親のわけのわかんない事情でさ。解んないでしょ? 解るはずないよね。こーんな立派なお屋敷でちやほや育ったんでしょ。いや、私の家だって大きかったけど!」


「……何が言いたい」


「どうせ壊される幸せだったら、最初っからなければ良かったんだよ! 生まれて来なけりゃこんな気持ちになんなかった!」


「生まれて来なければ良かったなどと、そのようなことよくも言える! 我らが双子であったが故に、どれ程の心労を父上母上に背負わせたか! 周りの者たちも巻き込み、どれ程迷惑を掛け、世話になったか!」


「あーそーですね! 一人で生まれたら良かったのにね! こんなことになるんだったら生まれて来なきゃ良かった! 生んで欲しいなんて一度も頼んでないのに勝手に生んで捨てて拾って最悪!」


 本当は、そんなこと思ってない……。

 生まれてこなかったら良かったとか、思ってない。

 生まれて来なかったらお父さんたちと楽しく過ごすこともなかった。

 パパとデートも出来なかったし、父と泥んこになって遊ぶことも出来なかった。


 流石にちょっと言い過ぎたかな、と後ろを振り向こうとしたら、だんっと兄が片足を立てて立ち上がった。

 私を見下ろす目は何の感情もなく、耳の赤さは消え失せていた。


「ならば今ここで死ね」


 死ね、とか。死ねばいいのに、とか。お友達と冗談で言うことはあった。軽い気持ちで、簡単に。

 お互いに本気じゃないってわかってたからそんなこと言われたって笑ってスルーしてた。

 に受けたのは一度だってないけど、今、私は自分を見下ろす兄に初めて本気で死ねと思われていると感じた。

 どっちかっていうと息の根を止めろよりは目の前から消え失せろって感じだ。


 ……言い過ぎたとは思ったけどそこまで大袈裟なことじゃないでしょ。

 だって私が言ったこと、全部本当のことだもん!


「そんなのあんたに言われる筋合いはっ……!」


 反論しようと少し腰を浮かせた私の二の腕を兄はがしっと掴み、強制的に立ち上がらせた。

 私よりも少しだけ目線が高い。これだったら男子の中でもまだ小柄な方だろう。

 体格からいえば私とそう変わらないはずなのに、腕を掴む力は強く、兄が三歩襖の方へ歩けば、私は引き摺られた。


「痛いっ! 離せ、ばか!」


 掴まれていない方の手で振り解こうと兄の手を叩いてもびくともしなかった。


「出て行け。貴様の様な人の心を思いやることの出来ぬ者は妹でも家族でもない。ここに居る資格はない」



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