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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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 一番最初に私の目に飛び込んで来たのは、一段高いところに座っている祖父と思われる人。

 真っ白い着物で、眩しそうにタレ目を細めて微笑んでいた。


 お、お祖父ちゃん? この人がお祖父ちゃん?

 想像よりも全然、お友達の家であったことのある他人の家のお祖父ちゃんよりも全然若い。

 お爺さんではなくおじさんだ。

 父親って何歳の時の子供なんだ。二十二歳で結婚して父親が生まれたとして、父親はお父さんと同級生だから三十八を足すでしょ。六十歳。十八で結婚してだったら五十六歳。

 五十六歳にしたって……白髪も無くて髪がふっさふさだし、顔の皺も遠目だからか全くない。

 むしろ肌艶血色が良くておじさんっていうか、お父さんたちよりちょっとだけ年上のお兄さんみたい。


 ぼけーっと見ていたら祖父はちらりと顔を横に向け、部屋の外側の方を見る。

 私もつられてそっちを見れば、二枚ある座布団の一枚に男の人が座っていた。隣には誰もいない。


 姿勢正しく座って、白い着物で。

 長く伸ばされた髪は私と同じ直毛で。


 伏し目がちに私を見た。目が、合った。


「この者は正武家玉彦。そなたの父である」


 祖父がそう言うと父親は目を合わせたまま軽く顎を引き、笑いもしなかった。

 さっき会った兄が成長したら、たぶんこんな感じなんだろうと思う。

 男の人なのに綺麗だった。

 綺麗だけど……冷たくめた感情しか私に向けられていなく、私は涙が込み上げてきそうになった。

 やっぱりここに来なかった方が良かった……。


 父親っていうのは、お父さんみたく叱るけど褒める時は微笑んで、パパみたく可愛い服を着れば手放しに褒めてくれてにこやかで、父のように一緒に遊んで悪さしてイシシと笑い合うもんだと思ってた。

 だから再会したら兄はあんな感じだったけど、おかえりって父親は笑顔で迎えてくれるとほんの少しは思ってた。期待してた……。


 合わされていた目がふっと外されて、私は膝の上の手を爪を立てて強く握った。


 帰りたい。帰りたい。帰りたい。

 ここはやっぱり私の居場所じゃなかった。

 お父さんたちは私を託されたって言ったけど、それは私に気を遣っただけで本当はそんなんじゃなかったんだって今なら思う。


 ぐるぐるとどうしようもない思いが頭を駆け巡っている私には、祖父の母親は用事があって出掛けているという言葉は右から左へと耳を素通りした。


「して、そちらが正武家天彦。兄である」


 再び祖父の視線につられて左を見ると、さっきの偉そうな兄が白い着物で父親と同じ仕草をして私から目をそらす。

 最悪。最悪だ。祖父は優しそうだけど、父親と兄は最悪だ。

 この調子だと母親もこんな感じなんだろう……。

 頑張って伸ばしていた背中が段々と丸くなった。


 ……で、兄の隣に座っている女の人は誰なんでしょうかね。

 お母さんと同じくらいの年で、白い着物に下は赤い袴の女の人。

 後ろに纏めた一本の髪は赤い紐を使い、ちょっと年はいってるけど神社で見たことある巫女みたい。

 じーっとそちらを見ていると女の人は私を見て、首を傾け笑ってくれた。


 ……で、誰。好感触だけどさ。

 この流れだと祖父、父親、兄がいて、親族なんだろうけど祖父は彼女の紹介はせずにお父さんたちに声を掛けて、ただいま帰りましたとかなんとか報告を受けている。

 ……で、誰なわけ。


 じっーっと凝視してハッと私は解ってしまった。理解した!

 母親がいないのはこの人がいるせいだ。

 この人は父親の祖父公認のしかも兄が懐いている愛人だ!

 愛人が好きな父親と兄は彼女が気分を悪くしないように、そして母親と似ているところがあるでろう私を見るのが堪らなく嫌なんだ。


 そうか……そうだったのか……。



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