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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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11



「さて残りはあと僅か。推測通り穴があれば良いのだが」


 何となく重くなった雰囲気を払拭するように玉彦が歩き出せば、先行して牢を調べていた多門が声を上げた。


「これっぽい!」


 通路から玉彦と高彬さんが鉄格子の部屋に入り、私は後ろから背伸びしつつ覗き込む。

 天井の隅に向けられた錫杖の先には、うっすらと外の光らしきものが差していた。

 五センチほどの小さな穴を多門が錫杖で突けばぽろぽろと乾燥した土が落ちてくる。


「この場所は……」


 穴を見上げたまま考え込むように目を細めた玉彦は、人形部屋近くの地下部分だと呟く。

 ということはやっぱり地下牢から漏れ出した靄が漂いながら人形に憑りついたという玉彦の予想が当たったわけだ。


「一先ず箇所は特定できた。後は外で封じを」


「え、ここで埋めちゃえばいいんじゃないの?」


「どのように」


「あー……そうよね」


 乾燥した土を埋め込んでもすぐにまた落ちてしまうだろうし、外で穴の上からしっかり土を盛った方が今後も安心である。


 とりあえずもうここには用は無いということで四人で部屋へと戻る。

 多門がしっかりとドアを閉めて私たちは同時に息を吐き出した。

 何せずっと靄が纏わりついていたのだ。

 身体がいつもよりも重く、空気も薄く感じた。


「ところで次代様よ?」


 椅子に座った高彬さんが長い足を投げ出してスーツのジャケットのポケットに両手を突っ込んで玉彦を見つめた。

 ものすごく何か言いたげで、でも言えない雰囲気を纏っている。

 玉彦は再び息を吐き出して腕組みをする。


「祓わぬ」


「なぜですか」


 数十年経っても尚漂う彼らを知っていて祓わない。

 わざわざ澄彦さんの御札を携え自身の力を封じてまで。

 高彬さんの疑問は私の疑問でもある。


「救いを求めていないゆえ


「えっ?」


「はっ?」


 同時に声を上げてしまった高彬さんと私を見ていた多門は手持無沙汰に遊環を鳴らす。

 多門は理由を感じ取っていたらしく、特に何も言わない。

 地下へと降りた時、恨み辛みの感情は感じたけれど助けを求める感情は全くなかったのは確かだ。

 助けを求めて縋りつくのではなく、どちらかというとお前も一緒に苦しめといった感情が強かった。


「格子に錠はあるが、ここへと通じる部屋には無い。これがどういったことか解るか」


「えええ~……。わかんない」


「例えば生きたまま脱獄しても絡繰が行く手を阻み、その間に看守が駆け付け捕縛される」


「もしかしてここの絡繰ってそのためのものなの?」


 落とし穴があったり横から板が飛び出してくるなど言われてみれば人に危害を加える気が満々な絡繰があった。

 そして水先案内人の玉彦が居なければ迷い込んでしまいそうなほど複雑な回廊もあり、今でこそ張り紙があってここに絡繰がありますよ、と教えてくれるけれどここが牢獄として機能していた時代にはそんな張り紙は無くて迷った人もいるだろう。

 頷く玉彦に高彬さんがそう言うことかと納得をして立ち上がったけれど、残念ながら私はまだ理解できていない。


「あのー……?」


「幽体には壁も何も関係ないってことだろ?」


 私に袖を引かれた高彬さんが少しだけ眉をハの字にさせて教えてくれた。


「関係ない?」


「死んでしまえば自由ってことだ。その証拠にここには結界の様なものは何もない。出ようと思えば出られる。人形に憑りついた子どもたちみたいに。なのにここに未だ縛られてるのは自分の意思で、何か納得できないことがあるってことだ」


「人を殺して下された罰に納得していないってこと?」


「そうだろうな。逆恨みで人を殺めた人間ばかりがここに残ってる印象だな」


 罰に対して反省があればここから出て成仏する道があるけれど、罰に対して納得が出来なければここに留まっているってことか。

 罪を償う気がない者はずっとここに囚われ続けるってことだ。

 しかも自分の意思で。

 だから玉彦は無意識に祓ってしまわないように自身の力を封じてここを訪れた。

 成仏する気も無い者を強制的に祓ってしまわないように。


「ここへ来る時には必ず父上に札を持たされた。そういうことなのであろう」


 玉彦の言葉を受けて多門と高彬さんは部屋を出て階段へと足を掛ける。

 私は少しだけ後ろ髪が引かれる思いだったけれど、彼らの後に続いた。

 そして玉彦は珍しく後ろを振り返ってから私の背中を優しく押した。





「ここから出られると思ってんのか!」





 ここに居る四人の誰のものでもない怒声が背後から響き、私は本当に飛び上がった。

 振り返れば玉彦は軍服姿の男性に二の腕を強く引かれて体勢を崩したところだった。




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