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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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3


 荷物は事務所の高田という男の人に任せて、私たちは鰉と呼ばれた女の人に先導されて、離れというお屋敷の中を歩く。歩く歩く歩く。

 たぶん広いんだろうなとは思ってたけど、想像以上の広さに私は驚いた。

 通り過ぎる襖の数を数えていたけどすぐにやめ、なんのためか無意識に玄関までの道筋を覚えるようにしてたけど諦めた。

 同じ景色が続いて、迷路みたいだ。


 そうしてやっと先頭の女の人が足を止めた。

 目の前には他の部屋とは違って、白い襖に絵がある。

 すーっと伸びる竹が描かれた襖。


 ここが到着地だ。

 この向こうに両親がいる。

 はたして一体どんな反応をするのか。どんな人たちなのか。


 私の心臓はバクバクとして、ごうごうと耳の奥で音がする。

 襖の前で女の人が膝を付くとお父さんたちも座り、私と美影は少し遅れて同じようにした。

 それを見計らって女の人が襖に手を掛けて深く息を吸い込んだ。


「当主の間でございます」


 お母さんと話をしていた声ではなく、凛として張り詰めた声に私の背中がグッと伸び、そして目の前の襖で塞がれていた視界がひらけた。


 ……誰もいない。


 教室よりもずっと広い畳の部屋には誰もいなかった。


「居ないのかよっ」


 父がいつもみたく軽口を叩いて立ち上がり中へと歩き出す。

 パパに促されて私も部屋に入り、真ん中の少し後ろの方にあった六枚の座布団を見下ろした。

 前に一枚、次に三枚、最後に二枚。

 私の予想が正しければ一番前の座布団は私が座るところ。次にお父さんたちが座って、お母さんと美影は後ろ。

 あえて三枚の真ん中に座ってみようかと近寄れば、お父さんが私の背中を前に押した。

 はいはい、わかってましたー。


 座って正面を見ると、左右に座布団が二枚、一段高いお殿様が座る位置に一枚。

 これを見るにあと五人やってくる。

 両親と祖父と兄で四人。あと一枚は誰だろう。そう言えば祖母の話は一度も出てこなかった。

 父も祖父ちゃんって言うだけだったから祖母はもう死んでいるのかもしれない。

 じゃああとの一枚って誰よ。もしかしてお父さんたちが知らない八年の間に両親の間に子供が産まれた?

 私ってば結構勘が鋭いから当たるかもしれない。そうかもしれない。

 うわーうわー、弟か妹ができるって今の今まで考えてなかったけど、どうせだったら弟は美影がいるから妹だったら嬉しい。女の子だったら仲良く出来ると思う! ……でもさっきの兄みたく生意気な子だったら絶望的かも……。

 などと妄想していると、後ろに座っていたお父さんが私の背中をとんとんと指先でつついた。


「お父さん?」


 珍しく緊張した面持ちのお父さんが一度頷いて、私に頭を下げるように言う。

 これから当主、私の祖父たちが入ってくるので、上げよと声を掛けられるまでずっと下げている様にって。

 しきたりだ。これが一個目のしきたりってやつだ。


 私は言われた通りに畳に手をついて頭を下げた。

 まとめていない髪がはらりはらりと畳に落ちて広がり、一旦後ろにまとめてから首の横に流そうか迷っていると私たちが入って来た襖の方ではなく、正面の方から襖を開ける音がしてさっさっさっと足音が複数聞こえた。


 来た。来た来た来た来た。

 足音が収まると衣擦れの音がして、それから音がなくなる。

 どういう状況? まだ声が掛けられてないからこのままでいいんだよね?


「正武家澄彦である。上げよ」


 頭の上の方からちょっと年配の男の人の声が聞こえて、私は言われるがまま身体を起こした。




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