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お姫様みたくパパの手を取って車から降りると、外は深々と雪が降っていて、なんか落ち着いた。
通山市はそこそこ寒かったけど冬なのに雪がほとんどなくて違和感しかなかった。
でもここは私が住んでいたところみたく雪があって、ほっとする。
降ればムカつく雪だけど、なかったらなかったで寂しく思うとか不思議。
ただここの雪は北海道のとは違っていて水分を多く含んでいたらしく、歩くたびにキュッキュではなくザクザクと音がする。
車の前まで来ると、パパは私から離れて道路の脇に移動してそこに在った膝まである細長い石に手を置いた。
反対側を見れば父も同じような石に手を触れさせている。
そしてパパと入れ替わりにお父さんが私の肩を抱いた。
「二人とも熱は」
問いかけたお父さんにパパと父は無言で首を横に振る。
そしてお父さんは私と一緒に一歩ずつ歩き始めて、数歩で止まる。
そこはちょうどパパと父がいるところを結ぶ直線上の手前だった。
「洸姫。これから胸が痛いとか気持ち悪いとか嫌な感じがするかもしれない。そうしたらすぐに車に戻れ。いいな? 立ち止まらずに何も言わずにだ」
「うん。わかった」
緊張した面持ちの三人はお互いに頷き合ってから真っ白い道路の先を見つめたので、私もつられて先を見る。
この向こうに私の本当の両親と兄がいる村がある。
「行くぞ」
お父さんに付き添われて一歩踏み出す。
気持ち悪いとかそんなことよりも、後ろから他の車が来て轢かれるんじゃないかと私は別のことで心配が一杯だ。
道路のど真ん中でなにやってんの、私たち。
パパを見て、父を見て。
前を向いて歩けば、目に見えない一線を越えたところで今まで深々と降っていた雪が瞬時に猛吹雪に変わってすぐに落ち着いた。
お父さんが心配していた身体の変化は、ない。
心臓も胸もどこも痛くないし、気持ち悪くもない。
大丈夫、とお父さんに言おうと思って隣に顔を向けると、お父さんは直立不動で固まり、目線は少し下に向けていた。
まるでそこに何かが居るように見つめ、わずかに頷いたように私には感じた。
パパは右耳に手を添えて何かを聞き、父はうわぁ……と言いたげに顔を歪めている。
「お父さん?」
もしかして私じゃなくてお父さんの具合が悪くなってしまったのかとスーツの袖口を引っ張ると、さっきみたくもう一度猛吹雪になって、私はぎゅっと目を瞑って巻き上げられた髪を両手で押さえた。
そうして再び収まって目を開けると、お父さんは元通りで、パパと父が駆け寄ってくる。
「ヤバい。先先代ちょーヤバい。こええええええええええっ!」
父が自分の二の腕を抱きかかえて身震いさせれば、パパは苦笑いを浮かべた。
「松竹梅のお三方お元気そうで……」
「それよりもオレは九条の祖父さんが成仏してねぇことに驚愕した……。何やってんだ、あの老人たち……」
まるでそこに誰かたちが居たかのように話すお父さんたちを怪訝に見れば、三人はそうだった、と私に視線を集めた。
お父さんは私に車に戻るぞ、と言ってから、パパと父が触っていた石は結界石といって村に悪いものが入って来ないように置かれているものだと教えてくれた。
昔からある石で、悪いものが近付くと熱を持つらしい。絶対、嘘だと思う。
とにかく私はその結界石に悪いものだって思われなかったそうで、これから村へ行けるそうだ。
「お父さんたちさぁ。言い伝えとか守ってるけど、ほんとはそんなことないって思ってんでしょ? そうだよね?」
車に戻って呆れて私がそう聞くと、三人は曖昧に笑って、それからすぐに溜息を吐いた。




