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「須藤くん……。そん話はせんでも。もう、終わったことよ?」
お母さんが助手席から振り返って話を止めようとしたけど、パパは首を横に振った。
「洸姫が親元から離されなければならなかった最大の理由の原因だから。少しでも話しておかないと。悪いのは正武家様でも玉彦様でも、ましてや上守さんの所為でもない。僕の先祖だから」
全然話が見えない。
え、パパの先祖が双子が生まれたら片方は家から追い出せって言い始めたってこと?
パパの先祖は占い師?
そんなことを言い出したから嫌われちゃったの?
たったそれだけで?
ていうかそれを言って嫌われたんなら、逆に嫌ってる人間がそう言ってることの反対で双子は家から追い出さなくない?
あれ、でもパパはそんな家で働いてて私を託されるほど信頼されてるんだよね?
一体全体どういうこと?
「……パパ?」
「昔々のお話で、もうその言い伝えは断ち切られたんだけどね。でも慣習を改めるにはまだまだ年月が必要で、洸姫はそれに巻き込まれちゃったんだ」
「……うん」
パパはそっと私の膝の上の手に手を重ねて、すごくすごく遠い目をした。
パパたち三人の先祖は私が考えているよりも遥かずっと昔から父親の家で代々働いていた。
父の先祖は途中から九州へ移ったそうだ。
元々はお父さんの家の人だったパパの先祖は、父親の先祖のところに双子の兄弟が生まれた時と同じくして生まれた双子だった。
ものすごく遡ればお父さんとパパは親戚らしい。
でもってその父親の家の双子の兄弟の跡継ぎ問題で、お父さんの先祖は兄側に、パパの先祖は弟側に付いた。
結果は兄が跡継ぎになって、弟は殺されて、でも弟側に付いていたパパたちの先祖は殺されなかった。
父親の家ではそれ以降、双子が生まれるとそう言った跡継ぎ問題でお家騒動ってやつが起きちゃうから、跡継ぎじゃない双子の片割れはどうにかしてしまっていたらしい。
大昔に私が生まれていたら殺されてたかもしれないってことだ。大昔、怖すぎ。
「パパの先祖はどうして殺されなかったの?」
この時に先祖が殺されていたらパパは存在しなかったわけで、私にとっては嬉しいことだけど、弟は殺されているのにって不思議に思った。
だって自分の弟を殺しちゃう様な兄が、それに加担していた人たちを生かしておくってどんな気持ちで?
父の話とは違って全然昔の話なので、私は質問することができた。
父の時は祖父母と叔父さんの死の原因を聞けなかった。
パパの話と比べたら最近のこと過ぎて、それに父も家族を亡くしたから可哀想で聞けなかったのだ。
「お父さんは御門森。でもパパの名字は須藤。これはね、この時に家を分けたからなんだ。須は須くという意味で、藤の花は忠実という花言葉があるんだ」
「っていうことは、須く忠実って意味? え、どういう意味?」
「忠実であるべきってこと。正武家様に反旗を翻したけれど、これからはずっと忠実に仕えます、仕えるべきってこと」
ほほうっと私が感心していると、こういう真面目な話の時に混ぜ返したがりの父が後部座席からにょきっと顔を出した。
「ちなみに清藤は、清い忠実って意味だぞ!」
「そのまんま字の通りじゃん。考える必要ないじゃん」
父の顔を押し退けてパパに肩を寄せて先を促せば、パパは父にちょっとだけ肩を竦めて話を戻した。
父親の先祖の弟は死んで、パパの先祖も死んだ。
けどパパの先祖の子供が須藤と名乗って、これからは忠実に仕えますってなった。
でも一度裏切った家だから、そうそう簡単に信じてはもらえなかったそうだ。
跡継ぎ問題の時には村の人たちにもすごく迷惑を掛けてしまっていて、しかもこっからはもうおとぎ話の世界だけど、その騒動の時に『白猿』っていう白い猿の妖怪? が生まれちゃって、パパの家はその妖怪を退治するまで村の一員とは認めないぞっていう流れになっちゃったらしい。
……もー。妖怪とかいるわけないじゃん? それってさ、口では許すって言っといて、無理なこと言って実は根に持ってたってことじゃん。
父親の家、サイテー。村人サイテー。




