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私はガッシガッシと髪を掻き回してから、再びパパに顔を向けた。
聞きたいことがあれば誠心誠意答えるよ! っていうパパのきらめく瞳が純粋過ぎて腹立つ。
答えてくれたって明後日の方向なんだから。
でも私はここで引き下がりたくない。
浮かんだ疑問は解決しないと眠れない。
「パパは母親のこと女の人としてどう思ってんの?」
そうこれ。こうやって聞かなきゃいけなかったんだよ。
同じような質問に首を捻ったパパだったけど、あぁと私が知りたいことを理解した様で苦笑いした。
「可愛らしい人だと思ってるよ。たまに暴走することもあるけど楽しい人だよ」
暴走ってなによ。
「好き?」
「好きだよ」
「……」
「好きか嫌いかで言えば好きに決まってる。そこで寝てるお父さんも好きだしお母さんも好きだよ。お母さんと洸姫の母様が好きの好きは同じ好きって言えばわかるかな?」
お母さんはお父さんと結婚して美影がいる。
だから母親と同じ立場だ。
私はパパが結婚してる人を好きになるのは間違ってると思っていたけど、結婚してるお母さんを好きだと聞いても嫌な気はしなかった。
だってパパとお母さんは普通に仲良しなのが当たり前だったから。
そんな二人を見ていれば、男女の友情ってヤツはあり得るとは思う。
「パパの好きはお友達としての好き?」
「うーん。どうだろうなぁ。好きっていう気持ちにそんな区別が必要?」
「そんなときもあるっ」
私の食い下がりにパパは数秒考えてから答えた。
「パパの中では父様と母様は二人で一つの存在で、好きが二つくっついて大好きになって、大好きな二人から生まれた洸姫は大大好きなんだ。だから洸姫に対する好きと父様母様に対する好きは一緒で、なんだろうなぁ。家族愛ってやつなんだろうなぁ」
パパは自分で言葉にしたことをしみじみと噛み締めて納得したように頷いた。
家族愛かぁ。お父さんも父も血は繋がってないけど家族だし、そんな二人は遠くにいる両親も家族だって言ってたよね。
でもさ、それにしても写真立て見てあんな顔したのがおかしい。
「……前はそうじゃなかった?」
頷いていたパパに追い打ちを掛けるとパパは目を細めた。
「五分くらい」
「え?」
「洸姫の母様を女の子として好きになって五分で諦めた。中学生の頃の話だよ。もう二十年以上も前の話。それからパパは他の人を好きになったりして彼女もいたことあるし、洸姫が考えてるような女の人に対する好きじゃないよ」
「あ、うん……」
五分で諦めたっていう理由がわかんないけど、私はそれよりもパパに自分の考えが見透かされていたことにちょっと恥ずかしくなった。
これじゃあまるで再婚を反対する娘っていうか、パパが誰かを好きになることが嫌な娘みたいだ。
そこまで考えて私は思った。
パパは今まで私を育てなきゃいけなかったから彼女とか作らなかったんだと思う。
でも村へ帰って私を両親に返したら、どうするんだろう。
パパはまだ三十後半だし誰かと結婚しても不思議じゃない。むしろ結婚とか彼女ができないはずがない。
その時私はどう思うんだろう。
おめでとうって思うんだろうか。
それともパパはいつまでも私だけのパパでいてほしいって悲しくなるんだろうか。
どっちにしてもパパに私よりも大事な人ができちゃったら、私はたぶん泣く。
本当の子供だったらいつまでも繋がりがあるけど、私とパパはそんな関係じゃない。
血の繋がりがないから簡単に切れちゃうだろう。
一緒に住んでて家族だよって言ってても、結婚して自分の家族が出来ればパパの一番はそっちの人たちになる。
お父さんとお母さんは美影がいるけど私のことも家族だって伝わるけど、これからは違ってくるんだろう。
パパと父は一緒に住むけど、好きな人が出来たら私にはもう両親がいるから安心して自分たちの家族を築くんだろう。
私が本当の家に、両親のとこに帰りたくなかった理由はこれかもしれない。
ずっと家族だと信じてずっと一緒に居られると思っていた人たちがバラバラになってしまうのが怖いんだ。
「もう、寝るね……。おやすみ、パパ」
「おやすみ」
この台詞はもう言うことはないんだろうな、と私は色々と複雑な感情のまま美影から布団を奪って頭から被った。




