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でもお父さんの言葉を聞いたパパは否定せず、むしろ言い得て妙だと納得している。
パパにとって二人は尊敬できる存在なんだろうけど、崇拝って。なんかヤバい。
「パパはどんなとこを崇拝してんの?」
「全部」
「二人とも?」
「全部」
はい。重症です。狂信者です。洗脳されてます。
パパってばこんな年になっても純真なとこあるから、騙されてるんじゃないかと心配になる。
若い頃はもっともっと純粋だっただろうからその時に刷り込まれた思いがずっと続いてるんだろう。きっとそうだ。
そこに付け込まれて私を押し付けられたんだ。
そんで、教祖二人の子供だから私を大事にしていたんだ。
三人の中でいっちばんしょうもない理由に、私は頭を抱えて前のめりになった。
明日。
鈴白村ってとこに帰ると、パパはどうなっちゃうんだろう。
父親と母親を前にしてキラキラと神様を拝む目になっちゃうんだろうか。
この、パパが。
顔だけ横を向いたら、パパは笑顔で、ん? と首を傾げる。
自分が変なことを言ってるって気付いてない。超重症。
「パパは父親と母親とお友達なんだよね?」
「そうだよ」
「お友達を崇拝するっておかしくない?」
「おかしくないよ?」
「おかしいよ!」
真正面から私に否定されたパパはそれでも笑顔は崩さない。
絶対的に自分が正しいと思ってるから。
なんとかしてパパの洗脳と解かなきゃと思っていると、お父さんはばふっとお布団に倒れ込んだ。
「寝ろ。明日の朝は早いって言っただろ」
「でもお父さん!」
食い下がる私に片手を振って背を向けたお父さんはもう話すのを拒否した。
お父さんめ。お父さんも信者か。
後頭部を睨んでいると、その向こうのお母さんが目を開けて、ふふふと笑う。
「おかあさーん」
「はいはい。あのねぇ、まだ洸姫に話せないことが色々あって、それを聞いたらパパがそんな二人を崇拝してるのも納得できると思うんよ。だから明日まで待たんといかんのよ」
「どうして明日なの?」
「洸姫をこれからどう育てていくんか父様と母様が決めるはずなんよ。このままなんか、鈴白っ子として一から覚えさせるんかね」
「何を覚えさせるの?」
「村でのしきたりとかかねぇ」
「そんなのあんの!? え、美影は?」
「美影は嫌でも覚えさせなきゃいかんのよ。でも洸姫は父様と母様が決めることなんよ。ただこのままだとパパの気持ちは解らずじまいかもしれんねぇ」
「どうしてそうなんの!?」
「そういうものだから、そういうもんなんよ」
「……」
「洸姫は黒駒が犬だと思う?」
「狼でしょ?」
「本当に狼だと思う?」
「思う」
一体黒駒が狼以外のなんだというのか。
それにしきたりとか、お母さんは本気で言って……るっぽい。
村のしきたりってなんなの!?
私は思った。
明日行く鈴白村っていうとこはかなりヤバいとこだと。
だってこの時代にしきたり。
しきたりってあれでしょ、法律でないけど守らなきゃいけないもので、礼儀作法みたいなやつ?
古臭い何のためにあるのかわかんない決まり。
パパの話が段々変な方へと進んで、私は増々混乱した。
なので一旦脳内会議をする。
お父さんはいつも考えてから行動をしないと痛い目に遭うぞ、と常々私に言っていた。
私は思い付きで行動することが多く、そういう時はだいたい失敗して裏目に出るので大事なお父さんとの約束だ。
ここまで来ちゃった以上、私はもう本当の家とやらに帰らなきゃいけない。
うん、これはもう諦めがついた。
お父さんたちは別に住むけど、パパと父が一緒に住んでくれるっていうから私なりに納得した。
行きたくないって駄々を捏ねても無駄だと解ったし。
本当の両親が私をお父さんたちに託した経緯もなんとなく理解した。
嘘か本当かは分らないけど、そこから離れないと私は死ぬってなったからこの年までお父さんたちに育ててもらった。
そしてそれに対するお父さんと父の気持ちも解った。
でもパパの気持ちの話で横道にそれちゃって、訳が分かんなくなって、ついでに今まで気にもしなかった村の存在が疑問を呼ぶ。
ついでに父親のキャラクターがわからん。
そんで、私に今できることは。
お父さんは嘘寝しててあてになんないし、お母さんは帰ってからじゃないと話せないって言う。
だったらまだ身を起こしたままのパパに聞けばいいんだけど、パパがねぇ……重症なんだよねぇ……。
お母さんは黙った私に小さく手を振って目を閉じた。
選択肢はパパしかなくなった。




