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散々考えてから私は真っ暗闇のリビングでがばっと掛け布団を跳ね上げて起き上がった。
そしてなぜか一緒に起き上がったパパに顔を向けた。
「パパってさ!」
「うん?」
「洸姫の母親って人のことどう思ってんの?」
「好きだけど?」
「好きなの!?」
「好きだよ。大好き。洸姫の父様のことも大大大大好きだよ。父様本人にもそう言ったことあるし」
「え、父親にも!? 言ったの!?」
「うん。言った。自分も好きだって答えてくれたよ」
「……」
なんか、なんだろ。私が考えていたものとは方向性が違ってきた。
父親って人はお父さんたちの話を聞けばお坊ちゃんで天然で、でも良く出来た人だと思ったけど、告白したパパに自分も好きだって答えちゃうような人? え、そういう人?
パパに聞こうと意気込んで聞いたは良いけど、返ってきた答えが私の想像の斜め上をいっていて、混乱しかない。
パパって、パパって、女の人でも男の人でも、良いの?
え、母親のこと好きって言ったよね? 父親に至っては好きって伝えたって言ったよね!?
ええっ!? えっ。ええっ!? はあぁっ!?
これはあれなのかな。
私はてっきりパパは母親のことが好きで私を育てたと思ってたけど、もしかしてなんか違う?
パパは二人のことが好き。うん、これは本人が今言った。
父親もパパが好きと言ったと。
でもってパパは母親のことも好きだと。
三角関係?
父親をめぐってパパと母親がライバル?
でもそんなライバルに自分の娘を八年よろしくって預ける?
あ、でもパパは母親が好きだからライバルじゃない?
……。
「わけ、わかんないんだけど」
いくら考えても絶対に答えに辿り着けない。着けるはずがない。
勝手に挑んで早々に降参した私の頭にパパの手がぽすっと乗せられた。
「好きにも色んな種類があるってこと」
そ・れ・は解るけど!
お友達としての好きと男子への好き、パパへの好きは違うって解る。
だからパパがあの写真立てを見て和んだ顔はお友達としての好きじゃなくって、女の人に対する好きだって私の女の勘が告げたんだけど、私の女の勘ってやつはまだそこまで鋭くない?
……パパってさ、たまにこういうとこあるんだよね。
本人は真剣に真面目に答えてくれてくれてるんだけど、ズレてるとこある。
言ってることは合ってるんだけど、なんか違うっていうか、そこを聞きたいんじゃないと思うこと。
これは私の聞き方がマズかったっぽい。
母親のこと、女の人としてどう思ってんの? って聞かなきゃいけなかったっぽい。
でももう一回聞いても同じ答えが返ってきて、そうじゃないってイラッとしそう。
微笑んでいるパパから視線をそらして右を見ると、仰向けに寝ていた美影が目を開けて私を見ていて、合うとぎゅっと閉じた。起きてた。聞かれてた。
それから美影の向こうのこっちに背中を向けていたお父さんの後頭部は小刻みに揺れていて、お父さんと向かい合っていてこちら向きになっていたお母さんは寝たフリしながらでも顔は笑いを堪えていた。
パパと私のすれ違い会話にお父さんとお母さんは気付いてた。
「もー! お父さん! パパになんか言ってよ!」
私に指名されてむくりと起き上がったお父さんは片手でボサッた髪をかき上げて、面倒臭そうに私を見た。
「パパが好きだって言うんならそうなんだろ。ただ……パパの好きってのはあの二人を崇拝する好きだな」
「崇拝!?」
崇拝ってあれだよね。神様を信じるってこと。
え、私の父親母親は神様なの?
んなわけあるかっ!




