chapter.4『パパ 須藤涼』
パパは一言で言えばカッコいい。
四十に近いけど髪形と服を頑張れば全然若く見える。
頑張らなくても若く見える。
背が高くて足が長く(前に測ったら足の方が長かった)、痩せてるけどがっしりしてて、顔はそこらの芸能人より格段に上だと私を始め、喫茶店の常連の人たちやお友達のお母さんたちから褒め称えられる。
お父さんや父もカッコいいけど、パパの場合はなんていうか次元が違う。
すぐ半目になるお父さんの顔は不細工だし、むくんだ顔をした時の父の目はますます細く人相が悪く見える。
でもパパは半目になっても顔がむくんでも、それでも無駄にカッコいい。
私のお友達は自分のお父さんを見られるのが恥ずかしいっていうけど、私はそんなこと一度も思ったことはない。
むしろ私のお父さんたちはカッコいいんだぞーと声を大にして、大きな旗を振って主張したい。
なので筋金入りのファザコンを自負している。でもお母さんも大好き。ついでに美影も黒駒も。
私の家族は見た目も良いけど、性格だって良い。私以外。
客観的に見て嫌われる要素っていうのが見当たらない。
でも私はここにきて初めて、パパの嫌なところを見てしまったような気がしていた。
それと同時に母親という人もなんだか嫌な人に思えた。
お父さんたちから話を聞いて私が把握している母親の人物像は、変わった人で家族を大事にして悲しいこともあって父を弟だと思ってる人。
でも……パパの気持ちを利用してる人。
そしてパパはお友達である父親の奥さんを好きな人。その子どもを彼女に良く思われたいから育てた人。
だしに使われた気がする私は、二階からリビングに戻ってパパを見る目がすっかり変わってしまった。
明日の朝は早いので早く寝るというお父さんの号令で、左からお母さんお父さん美影私パパの順でお布団に入ったけど、今日だけは、もう一緒のお布団で寝ることもないから大事な一晩なんだけど、パパの隣が嫌だった。
背中を向けて、でもパパの気配を全身全霊で感じて、今話掛けられたら爆発してしまいそうな感情は、おのちょの時と似ていた。
私はおのちょが大嫌いだけど、その理由はパパに言い寄るから。
パパに関することを除けばおのちょは良い先生だったような気がする。
でもさすがに最後に会った時のあの態度は嫌いだ。
そして今、私がパパに思う感情は結婚してる人を好きなパパは間違っていて良くないということ。
じゃあパパがそういう人じゃない人を好きになったらどうかというと、気持ちは複雑だ。
応援したいけどきっと私はその人の欠点を探して見つけて、パパにあの人は良くないと主張する自信がある。
私のこの感情は一体何なのか。
喫茶店で女のお客さんにモテてたパパ。
でも嫌な気はしなかった。むしろ私のパパって凄いんですって嬉しかったくらい。おのちょを除く。
けれどいざパパに好きな人がいる気配を感じ取った私は、良い気がしない。
相手が私の母親だからなのか、もう結婚してる人を好きな間違ったことをしているパパが嫌なのか。
どっちもだと思うけど、どっちでもないような微妙な理由。
カッチカッチと時計の秒針が耳障り。
今夜は私たちがいるから時計の役割はあるけど、私たちがいなくなっても動き続けるだろう時計がパパに思えて仕方ない。
誰もいない家で誰に気付かれることもなく時を刻み、いつか電池が切れて止まってしまう。
パパも一緒だ。無駄な思いを抱えて、死ぬ。ずっと彼女も作らないで。結婚もしないで。
これって私のせいでもある。
私が居なかったらパパは八年も無駄にしなかった。
もしかすると八年の間に母親よりも好きな人が出来て、その人と幸せになっていたかもしれないんだ。
それは父にも言えたことだ。
……ていうかさ。
パパは母親が好きなこと前提で私は考えているけど、実際はどうなんだろう。
私が握っている証拠はおのちょ撃退の時のこととさっきの写真立てのことだ。
パパはただ同級生の母親を思い出しただけって線も無くは無い。
それだったらきっと私はパパを嫌いにならないで済む。
どうなんだろ。パパはどっちなんだろ。聞く? 聞いちゃう?




