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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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3


 黙り込んだ私の髪を撫でながら、父は静かに私に話す。


「母様の比和子ちゃんの家族はもう夫と双子だけ。あと父方の祖父ちゃん。一応比和子ちゃん的にはオレや豹馬や須藤も家族らしいけど。血の繋がりがあるのは親戚を除けば兄ちゃんと洸姫だけ。だから、一緒に居てやってほしい。やっと比和子ちゃんにまた出来た家族だから」


 パパも言ってた。

 母親は人一倍家族を大事に思ってるって。

 事情はどうあれ娘と離れておいてなに言ってんだと思わなくもなかったけど、少しだけ知った母親の過去にパパの言葉の重みを感じる。


 でも。

 私は祖父母との思い出も本当の両親との思い出すらないから、今まで存在すら知らなかった人達の死に悲しいなっていう感情はない。人としてどうかと自分でも思う。


 でも。

 悲しかっただろうなって思う。

 大事な家族が死んじゃってどうしようもなく悲しかっただろうなって。


「……仲良く出来ると思う?」


 八年も離れていた私を娘と思えるんだろうか。

 私は覚えてもない母親を親と思えるんだろうか。

 ちょっとだけ同じ様な悲しみを知る母親に親近感を覚えたけど、どうだろうか。


「出来る。あっちが放って置かない。オレの時もそうだった」


 私の疑問に父はほとんど考える時間もなく答えた。


「父の時も?」


「あっちに戻ったら隠しておけることでもないから今言っておく。洸姫の祖父ちゃんたちを死なせたのは、オレの家族だ。あいつらはもう死んで、家族の中で一人だけ生き残ったオレを比和子ちゃんは受け入れてくれた。オレと罪を犯した家族は同じじゃなくて一人一人別の人間だからって。だからこれからも自分の役目をしっかりと担って頑張れってさ。そういう感じで父は洸姫の母様には頭が上がらない。上げるつもりもない。洸姫の母様が死ねと言えば死ぬし、誰かを殺して来いって言えばそうする。もちろん一人娘を大事に育てて八年経ったら帰って来いっていう約束も守る」


 重い。重いよ、父。聞かされた私はあんまりの内容に何を言って良いのか分からない。

 父の家族が起こした事故で祖父母たちが死んでしまったようだ。

 なのにそこまで母親に償おうっていう姿勢が重い。

 父の家族だって死んじゃったんだから痛みは同じなのに。


 それに、ちょっと胸が痛い。

 父は母親に恩を感じて私を育てただけって感じが。

 仕事の一環で育てましたっていう感じが。

 そして父があの家に足を踏み入れない気持ちに。


 よくよく考えてみればおかしな話なんだよね。

 いくらお父さんたちが父親の家の社員で同級生だったとしても、彼らの子供である私を八年も育てるっておかしい。

 もし私が大人になって働いてる会社の社長が同級生で、お金は渡すから八年どっか遠くで育ててくれって頼まれても断る。

 だって、そんなこと頼む方がどうかしてるし、分かったって引き受ける方もおかしい。

 しかもその間、自分の家と連絡は取るなって条件も有り得ない。


 だから、と私は思うのだ。


 だから、お父さんとパパは家から莫大なお金と引き換えに、そして父は弱みに付け込まれて引き受けざるを得なかったんじゃないかって。

 でもね、それも違うのかもって思う。

 お父さんたちはお金が貰えるから引き受けるような人たちじゃない。と思う。思いたい。

 そうじゃないと私がこれまで家族だって思って信じていたもの全てがお金の上に成り立っていた関係で、お父さんたちは契約だから仕方なく私を育てて、私の気分が良いような家族ごっこを演じていただけだってなっちゃうから。


 でもさ……でもさ……。

 父はお金じゃなくて、母親のお願いだったからって言った。

 お願いされなかったら、父はここに居なくて、お父さんとパパだけで私を育てたのかもしれない。

 これまでの父との思い出が急に色を無くす。

 あれもこれも私の後ろに見える母親の為に父を演じていただけなのかもしれないって。




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