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「洸姫の母様は都会から来た人間だったが、住めば都だって言って滝壺に飛びこんだり楽しんでたぞ。お父さんたちも村以外に住んでいたことはあったが、結局は帰りたいって思う。田舎でも」
それはパパも言ってた。帰りたいって。
でもさ。私が帰りたいって思う場所はそこじゃない。
帰りたいのは茶色い屋根の、喫茶店と繋がってるあの家だ。
色んな思い出が詰まってるあの大きな家だ。
血は繋がっていなくてもみんなで、家族で過ごしたあの空間だ。
私と同じ中一で村に来たという母親はどういう思いで村に住もうって思ったんだろう。
自分の親と離れて、お祖父ちゃんの家にも住まず、まだ他人だった父親の家に。
都会とか田舎とか関係なかったのかもしれない。
ずっと一緒に居たい人とずっと一緒に居られる家をちょっと早めに見付けちゃっただけなのかもしれない。
でもさ。それって凄い決断だ。だってもっと大人になってからもっと良い相手が見つかるかもしれないのにさ。
うーん、と考え込んでいたら、お父さんが私の頭を撫でた。
「これから洸姫も帰りたいって思える場所になるようにお父さんたちも協力する。大丈夫だ。いつでも近くにいるから」
本当は遠くの家に住む予定だったけど、近くの家に決めたってお母さんが言ってた。
お父さんたちは私が思ってるよりもずっとずっと私の事を考えてくれている。
「私、お父さんとお母さんの本当の子供だったら良かったのにな。美影みたく。パパも父も私の本当の親だったら良かったのにな。四人の誰か一人が本当の親だった良かったのにな。そしたら田舎に引っ越すよって言われても全然平気だった。田舎でもどこでも平気だった」
親っていうのは血の繋がりだけじゃなくて、こうやってお父さんのように子供の私を見守ってくれる人のことを言うんだと思う。
ぽろりと零れてしまった本音にお父さんは深く息を吸ってゆっくり吐き出した。
「だからさっきも言っただろう。親じゃないが家族だって。みんなで一緒にお父さんたちの田舎に帰る。それだけだぞ。パパと父はこれからも一つ屋根の下、父様と母様と兄ちゃんが増えるだけ。あぁあと奔放な祖父さんも同居してる。オレの代わりに甥っ子の竜輝っていうのもいるぞ。オレとも毎日会える。屋敷に出勤するから。お母さんには気軽に会いに行けば良い。美影は学校で会える。あぁそうだ、村の小中学校は一緒の校舎なんだ」
「美影は春から中学生だし。ていうか子供、少ないとこなの?」
「少ない。クラスは二つ」
「……すくなっ」
家族のことも問題だけど、転校先の学校でのことも不安ができる。
なんか少ない同級生で結束が無駄に固そうで嫌。
中三の修学旅行は楽しめなさそう。
空港へ向かう車内は楽しかったけれど、通山市へ向かう機内では憂鬱な気持ちが一杯になって、私はお父さんに意味もなく一礼をしてから自分の席に戻った。




