表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
308/335

16


 お父さんと隣り合って座って、私は無駄に胸がどきどきする。


 お父さんが大事な話をしようか、って言う時は本当に大事な話で、私の人生で大切なことばかりだ。

 一番最初に覚えている大事な話は、嘘をついちゃいけない理由だった。

 一回嘘を言えばその嘘を隠す為にまた嘘を言うことになって、段々それが当たり前になってしまうと心が無理って無意識に悲鳴を上げてるのに鈍感になって、鈍感になるとお友達の気持ちにも鈍感になって酷いことを平気で言うようになって、一人ぼっちになるよって教えられた。

 それに信用もされなくなるって。

 けど誰も傷付かない優しい嘘なら大丈夫ってお父さんは言ってたけど、そんな嘘を私は知らない。


 それからお父さんたちと一緒にお風呂に入らなくなった時とか、自転車のこと、物を大切にすること、お友達との仲直りの方法とかパパと父の関係とかを大事な話って言って私に話す。

 一番新しいのは昨日の夜のことだ。衝撃的過ぎて未だに夢の中じゃないかと思う。


 そんなお父さんの大事な話だから私は神妙に肩を寄せた。

 人気のないところで人に聞かれちゃマズい話なんだと思う。


「大事な話ってなにさ」


 もう一度聞くとお父さんは両手を組み合わせて膝の上に置き、まっすぐ私の目を見た。


「洸姫はこの世界に人間以外のものがいるって言われたら信じるか?」


「……普通にいるでしょ。犬だって猫だって魚だって。虫とか色んなの」


 何を言い出すのかと思ったら、壮大な世界の話だった。

 地球は人間だけのものじゃないから大事にしましょうってなんかの授業で先生が言ってた。

 私の答えになぜか苦悶の表情を浮かべて説明に困るお父さんは首を横に振った。


「幽霊や妖怪? とか?」


「……普通にいないでしょ。いたらもっと騒がれてるでしょ。お父さん、なに言ってんの? 信じてるの? 冗談でしょ?」


 お父さん。


 御門森豹馬という人は家族で一番夢を見ない人だ。

 夢を見ないっていうのは実際の夢のことじゃなくって、非現実的なことを真っ向から否定する。

 私と美影が夢見ながら毎年十二月のおこづかいを年末ジャンボの宝くじにつぎ込むのを馬鹿にしている。

 当たるかどうかはともかく、もし当たったらという話を私と美影がしていると鼻で笑う。

 当たってもいないのに無駄な計画を立ててるって。

 そんな計画を立てるなら自分で起業して稼いだ方が早いっていう。

 朝のテレビの星座占いは人間の運勢がたった十二パターンしかないのはおかしいってやっぱり鼻で笑うし、血液型占いは四つだから有り得ないって言う。だから干支占いも超否定する。


 でも毎年神社への初詣は欠かさない。

 神様がいるって信じてるわけじゃなくって家が近所だからだと思う。


 父がネット動画の怖いヤツを観ていると、そんなのほとんどガセだと怖がりもしない。

 なので家族でテレビでそういう番組を観ていると、お父さんたちがこれはこういうトリックだとかヤラセだとか頼んでもいないのに詳しく解説してしまうので面白くない。


 お陰で私はそういう類のものは信じなくなった。

 でも占いは信じてる。ラッキーカラーとか。当たったことがあるから。


 だからお父さんが今、空港でわざわざ突拍子もないことを言い出して私は混乱した。

 だってそんな話を今ここでする必要ってある? ないよね?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ