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そんなことを考えてぼーっとしていたら、お母さんがシートベルトを伸ばしてまで振り返った。
「洸姫の父様と母様もすんごい運命だったんよー。もう、もう、比和子ちゃんのシンデレラストーリー! しかもね何年かお手紙だけのお付き合いで高校生で婚約! お母さんは感動しまくりだったんよー」
高校生で婚約って。とんでもねぇわ。それに手紙だけの付き合いっていつの時代さ。え、お母さんたちの時代ってスマホなかった?
ちょっと引き気味の私にお父さんは苦笑いを浮かべた。
「特殊な環境だったからな。詳しくは当事者から聞け。お母さんから聞いても脚色ばっかだから」
「えー、うん……」
はたしてそんな話を出来るほど両親と仲良くなれるのか問題はまずそこからなんだけどね。
気を取り直して今度はパパの話をしてよとせっつけば、パパは本当に嫌そうに視線をそらす。
さっきの小野千代のパターンは稀だけど、パパのファンは喫茶店に多かった。
お友達のお母さんも目の保養だとか癒しとか言ってたくらい。
でも誰かと付き合ってる気配は全然なかった。それは父も一緒。
だから私は二人はデキてると勘違いをしたわけだけども。
「パパはー?」
「ないよ。ない」
「はいうそー。絶対あるよね。一回も付き合ったことないとかありえないもん!」
「さすがにそういうのはあるけど、洸姫に話せる内容じゃないというか……。そう、洸姫がもう少し大人になったら……いや結婚してある程度のことを笑い飛ばせるくらいになってからだったら話すよ」
「結婚て。パパ、そんなに重い過去があんの?」
「え!? 重くないけど、ちょーっと人として他の人から見たらアレらしいだけだよ」
アレってどれよ。
はぐらかすパパを問い詰めても結果が得られないのはいつものことだと諦めて、私は父を振り返る。
黒駒に凭れて狸寝入りを決め込んでいた。さっきまで笑ってたのに。
でも父には聞かなくてもいいかな。
お父さんとパパはお客の女の人に優しいので勘違いする人とか仲が良さそうだなぁって思う人がいたけど、父は女の人がっていうか人間が面倒臭いって感じで、お店でもペットを連れて来るお客かお年寄りにしか愛想を振りまかなかったので、そんな変わり者の父が女の人に好きだよとか言ってる姿が想像できない。
なので彼女が居たかもしれないけどきっと私に負けず劣らず短い恋だったに三百円賭ける。
失恋直後の私だったけど、お父さんたちの話にすっかり脳内で宇津宮くんは消え去った。
あんだけ好きだったのにちょっと泣けただけで今はもう何ともない。
それはきっと宇津宮くんが私の中で大事の割合が小さかったから。
家族よりも大事に思える他人が私に現れたら結婚ってなるんだろうけどそんな人、居ない気がしてならない。
ということは、パパと父にそういう人がいないのは家族が一番大事で、つまりは私が二人の大事の割合で一番ってことだ。
あれ、でも、パパと父は私と血の繋がりがない。でも一緒に住んでた家族。これからも一緒だけど。
家族だけど実際には他人だ。
ということは、ということはっ!
二十歳以上離れてるけど結婚できちゃう!?
とんでもない結論に辿り着いてしまった私の中で、パパはパパで父は父という無性別の存在だった二人が急に男の人という存在になった。
お、おおう……。
素っ裸は小学二年生まで一緒にお風呂に入ってたから見られてるわ、洗濯はしてもらってたから下着は見られてるわ、初めての生理の時なんかお赤飯でお祝いしてもらっててバレバレだし、他にも男の人に見せちゃいけない女の子の部分ってやつは全部全部知られ過ぎている!
衝撃の事実二つに私はごつんと頭を窓にぶつけ、ふへへと諦めの笑いが漏れた。




