表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
301/335

9


 こそこそと話をしていた私と美影はキッチンにいたお母さんにお友達にお別れをしたいと言ってみたけど、会えば別れは辛くなるから、と顔を曇らせながらも強引に私たちからスマホを没収した。

 美影は抵抗したけどお小遣い減額をちらつかせたお母さんに負けた。

 確かに会えば辛くなるけど強引過ぎると二人で抗議していたら、お店や二階の戸締りを今さら確認していたお父さんがリビングに現れて私たちに拳骨を落とした。


「会ったら色々と説明が面倒だろうが」


「そうだけどでも」


「駄目だ。学校にはお父さんから連絡をする。友達は学校から聞くから心配ない」


「そうじゃなくて、そこじゃなくて」


「言いたいことは分かる。でも今は駄目だ。洸姫の家のことを他人に話しても大丈夫なのかまだ確証がないんだ」


「はっ?」


 面倒くせーと一瞬顔を背けたお父さんは私と美影の目線までかがむ。


「あっちに帰る前に他の人間に洸姫の家のことを知られたら、洸姫は死ぬ。かもしれない」


「……」


「……」


「本当だ」


「……はぁ……。聞いた? 聞きました? 美影さん」


「……えぇ、聞きました。洸姫さん」


 子供騙しにも程があるとお父さんに詰め寄ろうとしたら、玄関の方から女の人の大声が聞こえて来て、出鼻を挫かれた私と美影は顔を見合わせた。

 なんだろうと美影と一瞬の隙を見せれば、お父さんはお母さんに出発だと言ってすたこらさっさと出て行き、私と美影はお母さんに背中を押されて家を出された。

 名残惜しむ時間もなかったと思う間もなく、外に出ると深々と重たい白い空から粉雪が降り、家の前の駐車場ではパパがグレーのコートの女に迫られて両手を胸の前でまぁまぁというようにしていた。

 父と黒駒はもう温まった大きな我が家の車に避難していて高みの見物を愉快そうに決め込んでいる。


 家の鍵を閉めたお父さんが玄関前で唖然としているお母さんと私と美影の後ろで解りやすく溜息を吐いて、私はハッとして両手の拳を握りしめた。


 長い間、本当に長い間。

 私はこの女が大嫌いだった。絶対これからも大嫌い。

 先生のくせに私のパパと仲良くなろうとする女。

 そのくせ父にも連絡先を聞き出そうとしていたのを知っている。

 私の家族の仲に割って入ろうとする女。

 パパが本当のパパじゃないと分かったとはいえ、私としては見過ごせない。

 だって普通生徒の保護者に先生が言い寄る!?

 はっきり言って私が大人の女の人(お母さんは除く)を基本的に苦手なのは小野千代のせいだ。


 私だって最初から小野千代を嫌いだったわけじゃない。

 一年生の家庭訪問の時にあれこれと家のことを詮索して私の話じゃなくてパパのことばかり質問してなんかおかしいぞって思ったのがきっかけ。

 幼稚園の赤城先生はそんなことなかった。若くて可愛い先生で、子ども命! って感じで、パパを見ても態度は変わらず、幼稚園での私の様子やこんなものが今流行ってるから洸姫ちゃんにもどうかとか、お友達は誰々と仲が良くて小学校が一緒だから安心ですねとか終始私のことばかりだったから、小野千代の異様さが私にですらわかった。

 赤城先生の目には私がしっかり映っていて、小野千代の目には私の向こうのパパが見えていた。

 担任じゃなくなった小野千代が学校で私に会う度にパパは元気? と聞いて来るのが堪らなく嫌だった。

 日曜日にほぼ毎回来るのも嫌だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ