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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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3


 車に残っていた須藤くんに澄彦さんがこれからの指示を出し、彼はすぐにお屋敷へと戻った。

 恐らく御門森の宗祐さんが呼び出され、本殿の巫女である竹婆と香本さんが本殿で私たちを待つはずだ。

 無事に東さんを保護できたなら、まずは本殿へ運び込まなくてはならないから。


 東さんは二十年以上、外界から隔てられ、時間の流れが穏やかな領域にいた。

 それを元の時間の流れの世界へと戻せばどうなるのかというと、急速に肉体が衰えるか、そのままの状態から年を普通に取り始めるかのどちらかだそうだ。

 普通に年を取り始めるのなら良いのだけれど、急速に四十代から六十代の肉体へと衰えるのは肉体的にも精神的にも負担は計り知れない。

 なのでまずは本殿にて東さんを過ごさせ、様子を見なくてはならなかった。


 と、ここまでは私たちが『東さんが戻ることを決めたなら』と想定した場合である。


 もし東さんが現世へと戻り、肉体的に衰え、もしかするとあまりの負担から命を落としてしまうかもということを聞いて、ならば隠れ社で過ごす、と決めた時は残念ながら私たちは三人で帰ると話し合いで決めていた。

 ちなみに宗祐さんはもし東さんが残ると決めたら、自分も隠れ社で余生を過ごすと澄彦さんに願い出ていた。

 そして澄彦さんはそれを了承している。

 夏祭りのあと、宗祐さんに謝罪に出向いた澄彦さんは宗祐さんに責められなかったものの、有無を言わさぬ宗祐さんのお願いに頷くしかなかったそうである。なぜなら原因の一端は自分にあり後ろめたさもあったから。


 そんな感じで東さんの捜索は隠れ社を見かけたら、ってなっていたけど、流石に唐突過ぎて私も焦る。

 一応青紐の鈴は懐にあるし、玉彦の御札も持っている。

 最近はお屋敷のすぐ外に出る際にも持ち歩くことを心掛けていた。

 澄彦さんと玉彦も一緒だから心配することは何もない。はずである。


「さぁ、行こう」


 差し出された澄彦さんの手を取れば、私の空いている左手を玉彦が掬い上げる。

 玉彦を見上げれば、優しく目を細めていた。


「豹馬が居なくなる代わりに東が戻って来れば宗祐も寂しくはあるまい」


「……うん。そうだね。私たち、頑張らなきゃだね」


 二人の手を握り返してお山を見れば、隠れ社へと誘う歪みがゆっくりとこちらへ移動してきた。






「まさか当主になってからここへ来ることになるとはねー」


 澄彦さんはそう言って手水場で手と口を漱ぎ、感慨深そうに神社を遠巻きにして眺める。

 手水場の順番を待って最後に私が神社を眺める二人に並べば、隠れ社は変わらずにそこにあった。

 ちなみに神様の気配は今回もない。いつもここに居るとは限らないようである。


「まずは東を探すか」


 玉彦の言葉に三人で頷いてとりあえず拝殿に上がりお参りをする。先ほど豹馬くんから没収した札束はお賽銭箱の中へと消えた。 

 そこから見える幣殿も覗いても、供物はあれど東さんの姿は無い。

 彼女もまたいつも居るとは限らないようである。

 決まった時間に供物を運び入れるのか。そうすると普段彼女はどこで生活をしているのか。

 そもそも供物はどこから調達して食事は、日常生活はどうやって送っているのか全くの謎だった。


「比和子ちゃん。東さん、居る?」


「まだ視えません」


 そして最大の謎は、私に視えているのに正武家の当主と次代に彼女の姿が視えないということ。

 考えたくはないけど、既に鬼籍に入っていれば彼女の姿は彼らには視えなくて当然で、一番恐れていることだった。


「では前回出来なかった清掃でもして待つことにするか」


 正武家の次代が隠れ社を訪れた際にはお掃除をするのが決まりだそうで、玉彦は神社の脇にある小さな小屋へと一人で入り、箒と塵取りを持ち出す。

 澄彦さんも慣れた手つきで小屋からバケツと雑巾を持ち出し、神社の裏手にあると思われる井戸へお水を汲みに行く。


「私も手伝うよ」


「比和子はせずとも良い。その辺を散歩でもして東を探せ。ただし社の領域から出るなよ?」


「わかった」


 こういう場合。領域から出ると痛い目に遭うパターンなので、絶対に出てはならない。

 特にこうして玉彦からの忠告があった場合は百発百中だ。

 これまでの私なら知らず知らずのうちに領域を出てしまい、だから言っただろう!? と玉彦の叫び声が上がる。

 けれど私だって経験を積んで成長している。

 なので掃き掃除をする玉彦の半径三メートル以内をキープして周囲を散策する。




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