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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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 私へのお話を終えたお父さんは息子の美影がまだ部屋に閉じこもっているとお母さんに聞かされて、思春期男子は面倒だとぼやきながら二階へと向かった。


 お父さんはいつも何かをする時に面倒だとか手間だとか後ろ向きな言葉を口にする。

 でも実際はやることはしっかりとやるし、面倒だと言いつつ頑張る人である。

 天邪鬼なんよ、と言ったお母さんの例えが一番しっくりくる。


 そしてお父さんは一番私を一人の人間として扱ってくれる人だ。次点はパパで、次に父。

 三人の中で一番お父さんが私を叱る。でも、嫌いじゃない。

 さっきみたいにきちんと話し合って納得させてくれるから。

 ちなみにパパは困った顔をして出来るだけ私の我儘を聞いてくれてまず怒らないし、父はそういうものだからと言って取り付く島もない。


 戻って来たお母さんは私に簡単に荷物をまとめてきなさいと言ったので、部屋に戻ってはみたものの簡単にってなに。

 さっきの話だともう家に戻るつもりは無いようだし、転校とか言ってたから教科書とか学校に必要な物とか着替えとか全然簡単になんて終わらないんですけど。


 どこから手をつければいいのか呆然としていると、ちょっとご近所にお買い物に行きますよーといういつもの小さな赤いワンショルダーを肩に引っ掛けた父が黒駒と一緒に部屋を覗き込んだ。


「どうした」


「何を持ってけば良いのかわかんない……」


「じゃあ全部置いてけ。どうせ屋敷に戻ったら一から買い揃えるだろうから」


「一から?」


「服も靴も小物も全部。必要な物は全部あっちで揃えると思う。制服も教科書も必要ない」


「なんか、微妙な気分……」


 全部置いていくということは思い出も全部捨てていくってことと同じだ。

 納得しかねる私の肩を叩いて父は階下へと消え、私はもう一度育った部屋を見渡した。


 お気に入りの青で統一された私だけの部屋。

 赤も好きだけれど青は特別な色。

 カーテンもベッドも季節で変えるラグもいつも青。


 そして。


 私はずっと開けられずにいる机の上に置いてある青いリボンが掛けられた細長い箱に目をやった。


 あの箱がいつからあったのか覚えていない。

 気が付けばあって、机に飾っていた。

 リボンを見ればプレゼントなのは明らかで、でも私は一度も開けようとは思わなかった。

 私が開けちゃいけないものとなぜか思っている。

 青い包装紙に青いリボンだなんてセンスの欠片もない。

 包装紙はよれて皺になっていて誰かに贈ることは無理なのに、ずっとそのままにしてある。


 ……もしかしてこのプレゼントは私が両親から貰ったものなんだろうか?

 開けたら中には手紙が入っていてとか……。


 そう考えて私は違うな、と首を振った。


 お父さんたちは今の今まで私の素性を私に話さなかった。

 だから私が勘付く可能性があるものを身近に置かせておくはずがない。


 どうしようか。

 置いていこうか。持っていこうか。


 持っていくべきものは他にも沢山あったけど、私は迷ったあげく一番最初に箱をカバンに入れた。

 毎日目にしていた、あって当たり前のものだから。

 これからも当たり前にあるべきだと思った。



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