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「多門。そういう言い方はないだろ。洸姫。これまでのようにとはいかないけれど、僕たちはいつも側にいるから大丈夫だよ」
肩に置かれたパパの大きな手は温かい。
でもきっと父が言うように赤の他人になればもう慰めてくれる役割は見ず知らずの両親に代わり、パパがパパとして寄り添ってくれることはないのだろう。
「うっ……」
引越しとか転校とかよりもパパたちとの関係が訳の分からないものになっていく恐怖心と悲しみをようやく実感し泣き始めた私にお父さんが深く息を吐いた。
「須藤、多門。一旦席を外せ。洸姫。お父さんと大事な話をしようか」
いつもより三割増しで優しいお父さんが私の隣に座り、パパと父はリビングから立ち去った。
私の背中を二度擦ってテーブルに両肘をのせて頭を支えたお父さんは、私を見ずに真っ直ぐと前を向いた。
「父はあんなことを言ったが、本心じゃないことは分かってるだろう?」
俯いたままこくりと頷くとお父さんは言葉を続けた。
「お母さんもパパも美影だって、お父さんも洸姫を家族じゃないなんて思ってないぞ。住む場所は変わってしまうが、家族だ。八年間、一緒に過ごした大事な家族だよ」
「うん……」
「何か思い違いをしてるかもしれないが、本当の両親とお父さんたちは元々は一つの家族で二つに分かれて洸姫を育て、また一つに戻るだけなんだよ。洸姫や美影からすれば新しい家族に思えるが、元々は一つの家族なんだ」
「……でも名字が違うじゃん」
「それは今だってそうだろう。名字が違っても家族って思っていただろう? お父さんたちは家族である洸姫の本当の両親が娘を手放さなくてはならないという事態に陥ってしまったから、家族として分かれることを選んだんだ。本当なら全く関係のない人間にお前を預けることになったんだぞ」
「……」
「大丈夫。本当の両親はきちんと洸姫を愛しているよ。だからこそ家族のお父さんたちに娘を託したんだ」
「……本当に託したの? 捨てたんじゃなく?」
「託した。間違いない。両親はどうにかして離れなくても済むように足掻いたけど、どうしようもなかったんだ」
「……お金持ちなのにどうしようもないことってあるの?」
「ある。金だけあってもお店がないと腹も膨れないだろ」
その例えはどうかと思うよ……。
でもそっか。元々は一つの家族だったんだ……。
元に戻るだけ。減るんじゃなくて増えるって考えればまだマシなのかもしれない。
「新しく増える家族ってどんな感じの人たち?」
ちょっとだけ考え方が変わった私がお父さんに聞くと、しばらく考えて苦笑いしながら教えてくれた。
「父親は冷静沈着。でも天然世間知らず。母親は猪突猛進? 兄貴は、どんな育ち方したんだろうな? 双子だから洸姫と同じかもな」
良く解るような解らないような例えに首を捻ると、廊下からパパと父の声が聞こえた。
「文武両道。奇想天外……」
「剛健質実。魑魅魍魎……いや、天衣無縫……いやいや、無策無謀?」
「ねぇ!? 母親って大丈夫なの!?」
父親はともかく母親のあんまりな例えに私が突っ込むとお父さんたちは無言を貫いたのだった。
心配しかない……。




