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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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 そうしてお父さんたちは八年間喫茶店を経営しながら私と美影を育てた。

 さっきも言ってたけど私が数え年の十四歳、誕生日が来て十三歳になるまで。


 そう、私はあと一週間で十三歳になる。

 冬休み中の誕生日なので友達が喫茶店に集まってわいわい騒いで宿題とかどこに旅行したとか新学期の前哨戦みたいな感じになるのがいつものパターンだった。


 そう言えば今年は家族旅行するから誕生会は開かないって言ってたっけ……。

 お父さんたちはずっと前から十三歳の誕生日にはここを引っ越すって決めてたってことだ。

 だから最初から三者面談は行かない予定で、誰が行くのかお父さんたちの間では決めていなかったんだ。

 なのに私に聞かれて言い訳を考えていなかった大人たちは動きを止めたと。


 お父さんの説明が終わって、私は言いたいことも聞きたいこともいっぱいあったけど、何よりも一番聞かなくちゃいけないことがあった。


「もうお父さんたちには会えなくなるの?」


 ここまでしっかりと計画を立てているなら、私がどう頑張っても実の両親の元へ帰されるのは変わらないんだろう。

 両親の記憶も兄との思い出もない見ず知らずの家族の輪の中に放り投げられても、上手く生きていける気がしない。

 せめてお父さんたちが近くに居てくれたならって思う。

 すぐに会いに行ける距離で。もし本当の両親が私を受け入れてくれなかったら、帰る場所があれば。

 むしろ受け入れてもらえない方が好都合だ。

 そしたらまたみんなで暮らせる。


「オレと亜由美と美影は実家があるからそっちだな」


 お父さんと父親は同級生って言ってたから、そう遠くはないのかな。

 隣のパパを見ればふっと柔らかく笑って私の頭に手を置いた。


「パパと多門は一緒の家だよ。部屋は違うけどいつでも会えるよ。一応一つ屋根の下、かな」


 一応ってなんだ。

 でもいつでも会えるなら安心かも。

 少しだけ安心した気持ちになっていると父が私に忠告をした。


「あっちに帰ったら間違ってもお父さんとかパパとか父とか呼ぶなよ。お母さんも駄目だからな。弟はまぁ許容範囲だとは思うけど」


「えっ!? なん……でってそっか、そういうことになっちゃうんだね……」


 実の両親を前に言ってはいけない言葉、なんだ。

 帰るってことはお父さんたちとはもう家族じゃなくなるってことで、お父さんやお母さんと私が呼ぶのは記憶にない人達……。


 正直、一度も会いに来てくれなかった人達をそう呼ぶのに抵抗がある。

 事情があったとはいえ、会えなくても手紙とか電話とか色々と手段はあったはずなのに。

 それになんだか私が過ごした日々を全否定しなきゃいけない気がして段々と気が落ちる。

 勝手にお父さんたちに子供を預けて誕生日が来たから帰って来いとか理不尽すぎない?

 そこに私の意思がまったく考慮されてない。

 もし私が帰りたくないって言ったらどうなるんだろう。


 言ってみようかな。言っちゃおうかな。



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